第26話 子殺し
父は車をレストランに乗り付ける。すでに予約してあった様で席に通される。コース料理を注文してあった。食前酒が出てくる。
「お父さん、車だろ。酒はまずいよ。」「心配するなノンアルコールだ。光喜も高校生で酒を飲むわけにいかないだろ。」
スープに続いて、前菜が出てくる。
「僕、今、気を使えるように訓練しているんだ。」「気?すぐに使えるようになるのか。」
「まだ、時間がかかりそうだよ。」「そうか、大変だな。」
メインにチキンが出てくる。皮はぱりぱりだが肉はジューシーに火が通っている。
父は、アラタに関わる話を避けるように話をする。僕に思い出させないようにしているのかもしれない。
この後、デザートが出てくる。飲み物は二人ともコーヒーを頼んだが、僕にはコーヒーは苦かった。
食事が終わって、僕たちはドライブを再開する。父が僕に言う。
「昨夜、近藤君を殺したと聞いたが、光喜、いやアラタが殺したのか。」「そうだよ。僕は止めようとしたけど無理だったよ。」
「これでクラスメイトが4人か。罪深いな。」「アラタはまだ殺そうとしているよ。」
「アラタは何か恨みでも持っているのか。」「殺されたのは僕たちが廃病院で肝試しをしたメンバーなんだ。」
「光喜が穢れに憑りつかれたやつか。」「うん、この時、僕はアラタに憑りつかれたのだけど、アラタは眠りを覚まさせたみんなを殺すつもりでいるんだ。」
「そうか。まだ犠牲者が出るのか。」
父はアクセルペダルを踏みこむ。車が加速していく。
「お父さん、スピードを出し過ぎだよ。」「ああ、すまん、すまん。」
「お父さんどこに向かっているの。」「海だよ。」
確かに車は海に向かっているようだ。海に何があるんだ。父は黙り込む。僕と父は無言でドライブを続ける。僕はこんなことで気晴らしなどできないと思う。
車は暗い埠頭に到着する。目の前には、全てを飲み込んでしまいそうな黒い海が広がっている。
「お父さん、なんでこんなところに来たの。」「光喜、私は悲劇を終わらせる方法を考えていた。」
「答えになっていないよ。」「もう、5人も殺してしまったのだぞ。それもこれで終わりでないという。もう、終わらせよう。」
「お父さん、死ぬつもりか。」「いや、私が光喜を殺すのさ。私も一緒だ。すまん。」
父は車を急発進させる。車は真直ぐ海を目指す。僕はまだ死にたくない。もう少しだけでいいから楠木と一緒にいたい。
車は、埠頭の車止めを越えて海にダイブする。ドアを開けようとするが水圧で開けることが出来ない。僕は窓ガラスを割ろうと手でたたくが効果は無い。
「光喜、覚悟を決めなさい。これで連続殺人は終わりだ。」「いやだよ。僕は生きたい。」
車の窓を割る力が欲しい。僕は心の底から願う。すると僕の右腕が黒く変化する。僕は一撃で人の骨を折る黒い腕の力に賭ける。
僕は腕を振り窓ガラスにたたきつける。「イケーーーーー」すると窓ガラスは粉々に割れる。僕はまだ浮いている車の外に出ると運転席にいる父に手を差し伸べる。
父は、僕の手を取ろうとはしない。
「お父さん、生きるんだ。」
父は首を振って悲しそうな目で僕を見る。車が沈み始め割れた窓から海水が流れ込む。車は海の底に向かって沈んでいく。僕は海を漂う。このままでは僕も長くはもたないだろう。
幸い埠頭には釣り人がいて、車が海に飛び込むところを目撃していた。通報により消防と海上保安庁が駆け付けて僕は救助される。




