第2話 犠牲者
僕は朝になり洗面所で顔を洗う。当然、鏡に僕の顔が映るのだが、僕の顔の左の頬が黒く見える。僕は驚きよく見ると黒いものはない。見間違えだったのか。
一瞬のことでよくわからないが、悪夢の件といい、僕の気持ちを沈ませる。気分が悪くて朝食の味がしない。仕方なくご飯にお茶をかけて、口の中に流し込む。
僕は沈んだ気分のまま登校する。途中で勝也が僕を見つけて声をかけてくる。
「おはよう。大丈夫か。」「最悪の気分だよ。」
「顔色悪いな。帰った方が良くないか。」「気分の問題だから学校へ行くよ。」
「光喜は真面目だな。悩みがあれば相談してくれよ。」「ああ、ありがとう。」
勝也はいいやつだ。僕が包丁で勝也を刺す訳がない。ただの夢さ。教室に入ると楠木友里と目が合う。楠木は、なぜか驚いたような目をしている。楠木はすぐに目をそらす。
僕は楠木と目が合ったことは初めてだ。楠木は教室ではいつも一人で話しているところを見たことがない。そこそこかわいいのだが、男子からは性格が暗いと思われていて話しかける男子もいない。
僕はいつも通り学校生活を過ごす。昨夜、廃病院に行った男子たちが僕に声をかける。
「光喜、大丈夫か。今日は休むと思っていたよ。」「大丈夫だよ。何かあったら休んでいたよ。」
男子たちは安心したのか自分たちの席へ帰って行く。僕が見ていると再び楠木と目が合う。明らかに僕を見ていたよな。少し気になるが、わざわざ尋ねるほどでもない。
僕は余計なトラブルに巻き込まれたくないのだ。それに声をかけたら自意識過剰と言われそうだ。などと理由をつけているが、僕はコミュニケーションをとることが苦手だ。
学校では何にも起きずに終わる。夜になると眠くて起きておれなくなり、ベットに倒れ込む。
僕はまた夢を見る。夜道を歩いている。コンビニの近くだ。「光喜、うぃーす。」と声をかけられる。佐藤だ。廃病院に行ったときにもいた奴だ。名前は覚えていない。
なぜかリアルな夢だ。佐藤が声をかけてくる。
「どうした。こんな時間に不良になるぞ。」
何を言っている。佐藤も出歩いているだろ。
「光喜、無視するなよ。何か言えよ。」「ああ、こんばんわ。」
「こんばんわってあのなー、あれ、顔に黒いものが付いているぞ。」「えっ。」
僕は顔を触る。左の頬が冷たい。佐藤の顔色がどんどん悪くなっている。
「お前何なんだ・・・ば、化け物。」
佐藤の奴何しているんだ。佐藤は座り込んで後ずさりする。
「佐藤、落ち着け。」「近づくな。化け物。」
僕は再び顔を触る。すると顔の形が変わっている。左の頬に何か生えている。何か黒いものが伸びて佐藤の首に巻き付く。何だこれ。佐藤が首を絞められて白目をむいている。
僕は怖くなって家に走って帰る。すぐに洗面所の鏡を見る。すると僕の顔の左半分が黒くなっていた。ここで僕は目が覚める。すぐに洗面所に行って鏡を見る。
そこにはいつもの僕の顔がある。夢で良かった。それも二晩連続の悪夢だ。
朝になり僕は登校する。勝也が途中で合流する。僕たちは他愛のない話をしながら学校に到着する。教室に入ると楠木と目が合う。間違いない楠木は僕を見ている。
今日の教室はちょっと様子が違った。佐藤が登校していなかった。仲間たちがメッセージを送るが既読もつかないらしい。
ホームルームの時間になって担任教師が入って来る。担任の様子もおかしい。
「みんな、落ち着いて聞いてくれ。今朝、佐藤の死体が見つかった。首を絞められていたらしい。」
教室が凍り付く。時間が止まったようだ。担任は続けて言う。
「犯人は捕まっていない。当分の間、夜間の外出を禁止する。部活動も4時半で終了する。」
担任は言うことを言うと忙しそうに教室を出ていく。




