第10話 両親
僕は楠木と病院を出て帰宅することにする。楠木は僕に言う。
「何かあったら、隠さず私に話して。」「うん、ありがとう。お守りを大切にするよ。」
なぜか楠木は顔を赤くする。途中で楠木と別れて、僕は家に向かう。僕は帰宅して、玄関のドアを開けると母が正座して僕の帰宅を待っていた。
「一体、何をやっているの。」「僕のこと?」
「今日、小山という刑事さんが来たわよ。」
小山の奴、自宅まで来るなんて、母さんに何を吹き込んだのだ。
「小山は僕のことを疑っているんだよ。僕は何もしていないよ。」「なら、日曜日はどこに行っていたの。」
「それは・・・・」「願本寺でお祓いをしていたそうね。どういうことなの。」
僕はこれ以上隠しておけないと考える。
「お父さんが帰ってきたらすべて話すよ。」「ちゃんと話してくれるのね。」「ああ。」
僕は母を残して2階の自分の部屋に入る。僕が、佐藤、西山、斎藤を殺したのか。夢ではなかったのか。僕は穢れに操られていた。でも、殺したのは、僕。
う・・・頭の中がぐちゃぐちゃだ。起きたことの整理がつかない。
夜になって父が帰って来る。僕は居間へ降りていく。
居間では両親が席に着いて待っていた。僕は両親に向かい合って椅子に座る。
「光喜、麻木から今日、刑事が来たことを聞いたよ。」「小山刑事は僕のことを疑っているんだ。」
「無実だよな。」「分からない。」
「説明してくれ。ちゃんと聞くから。」「僕は、廃病院に行って黒いものに襲われたんだ。」
「あの山の廃病院か。」「うん、それからリアルな夢を見るようになった。最初は勝也を包丁で刺す夢だよ。」
「ただの夢じゃないのか。勝也君は生きている。」「僕もそう思っていた。それから佐藤、西山、斎藤を殺す夢を見たんだ。」
「全員、殺しの犠牲者だ。」「・・・・・・」
部屋の空気が重い。母のテーブルの上に置いた両手が震えている。
「僕には穢れが憑りついている。悪いものだそうだ。楠木に教えてもらった。」「友達か。」
「いや、クラスメイトの女の子。霊とか見えて、死期が近い人が分かるそうだよ。」「そんなことあるわけないわ。嘘を言っているのよ。」
母がヒステリックに大声で言う。父がなだめる。
「それからどうしたんだ。」「楠木の紹介で願本寺の日浄さんに出会って、お祓いをしてもらうことになった。」
「お祓いで日浄さんが倒れたんだね。」「そうだけど。穢れが日浄さんの首を絞めたんだ。」
「光喜は見ていたのか。」「気を失っていた。楠木が見てる。動画を撮っていたけど動画には穢れは映っていなかったよ。」
「穢れは光喜の意思に関係なく動くのだな。」「僕が気を失っているうちに僕の体を使うようなんだ。」
「佐藤たちを殺したのは穢れかもしれないな。」「穢れが殺したんだよ。アラタという名前らしいよ。」
「どうしたらいいんだ。このままでは光喜は人殺しにされてしまう。」「今は、日浄さんがアラタを抑えてくれているし、護符をもらったんだ。」
「これで大丈夫なのか。」「一時的な措置だよ。」
母が涙を流し始める。かなり混乱しているようだ。その母が言う。
「こんな話、世間で通ると思っているの。」「麻木、やめなさい。光喜、話はここまでにしていこう。麻木が限界だ。」
父が母を落ち着かせようとする。父も混乱しているはずだ。僕は両親の姿を見て、心が痛い。




