第七話:奴隷の少女
俺は瞑想のようなことをして、神経を研ぎ澄ます。魔物の現在の境遇を知るためには魔物に合わねばないため、魔物の気配を察知するべく、目を閉じたのだ。
「強い魔物の気配を感じる」
瞑想の最中、そのことに気づいた。ギレンの能力であろうか? 俺は、付近にいる強き魔物の気配を感じることができるようになっている。
「"次元超越"」
俺はそのスキルを発動し、強き魔物の気配を感じる場所の近くに瞬間移動した。草木生える森の中を、人間が数人歩いている。裕福そうに太り、体中にジャラジャラと宝石をつけている男がまず一人だ。
その横に二人、鎧を身に着けた兵士のような存在がいる。その二人の兵士は顔にまで鎧をつけており、表情は見えない。つまり、貴族一人と兵士二人と見うけられるそいつら人間達だ。
その貴族は手に鎖を持っている。その鎖がどこにつながっているかというと、とある少女の首付近だ。
その少女は首付近に首輪がされており、その首輪に鎖がついているのだ。
「ふむ」
俺は草木に隠れ、その少女を凝視する。
(人間ではないんだな)
俺は、そう思う。
腰くらいまで伸びる真っ青な長い髪を有する少女だ。あまり膨らみのない胸と腰回りのみをビキニのようなもので隠しているという服装である。
その背中からは、銀の翼が伸びている。さらにその肩の付け根から指の先まで及び、足の付け根から足の先まで、銀色の鱗が覆っている。胴体と顔のみ普通の人間のような状態のその女性は唇をぎゅっと噛み、悲しそうな顔で歩いている。
青い瞳、真っ赤な唇、白い肌を有する、人間の年齢に換算すると二十歳にいかないくらいに見えるその女性の身体には、鞭のあとのようなものがついている。そして貴族はその手に、鞭を持っている。
(まぁ、魔物だろうね。あの奴隷みたいになっている少女は)
俺は、そう理解する。どこをどう見ても魔物であるその少女を貴族が奴隷のように扱っているという構図だ。
その魔物の少女が、かなりの力を有しているのを感じる。だがそれでも貴族に奴隷のように扱われているというのには、何か理由があるのだろうか?
俺には分からない。
「おい、速く歩け!!」
貴族が鞭を振り、魔物の少女の皮膚にあたった。
「きゃあ!!」
魔物の少女は悲鳴をあげ、歩く足を速めた。
俺はその一行の前に姿を現した。
「へへへへへ、どうもこんばんは」
俺が現れたことで、その一行は歩みを止める。
「人間のようだが、何奴だ?」
貴族はそう口にする。魔王の力を得たとはいえ、俺の身体は人間のものだ。それに今は溢れ出る禍々しいオーラを抑えるように、尽力している。そんな俺を一見すると、人間に見えるのだろう。
「ここらへんで迷子になってしまったもんです。へへへへへへ、この森はどうも道が複雑でいけねぇ」
俺は、そう口にする。
「綺麗な少女さんですね」
俺は、魔物の少女を見る。貴族は嬉しそうに笑う。
「わははははは、僕が買ったんだ、魔物オークションでね。そして僕の奴隷にしたんだ」
「へぇ、魔物達は今、奴隷として扱われてるんですね」
そんな俺の言葉により貴族は、不思議そうな顔をする。
「なんだ、知らないのか? 勇者アルベド様が大魔王ギレンを倒したことで、僕ら人間は魔物に勝ったんだ。だから今魔物は、奴隷のように扱われている」
「ふむふむ」
俺は頷く。
「だから、人間は嫌いなんだ」
俺はそう告げ、ゆっくりとそいつらに向かって歩く。
「お、おい、何を怒ってるんだ? お前も人間なんだろ? 僕達人間が魔物を支配してるって話なんだから、別にいいだろ」
そんな、貴族の言葉。
「へへへへへへへ、旦那、残念ながら俺は、魔物好きな人間なんですよ」
俺は、そうほざく。
「そ、そんな人間、聞いたことないぞ?」
貴族は不思議そうな顔をする。
「へへへへへへへへへへへへ」
俺は、笑う。
「"雷の拳"」
「"炎の拳"」
貴族の側に立っていた兵士達が、そう口にした。
その瞬間、そ奴らの拳がそれぞれ雷と炎をまとった。この世界に暮らす者はみな、スキルというものを使えるのだろう。俺は、そんな事実を理解する。
「へへへへへへ、まぁ、どう考えても戦いを避けることは出来なさそうだし、やるかい」
俺はそう口にし、元々ヘラヘラとした笑顔だった表情を真顔にし、大きく開いた目で兵士達を見た。兵士達の鎧の下の目と俺の目があった瞬間、兵士達はびくっと身体を震わせた。