第六話:新たな魔王
「へへへへへへへへ、これは、やばいねぇ」
俺は、そう告げる。体が、燃えるように熱い。魔王の力を自らの身体にいれるというのは、生半可なものではないのだろう。
「このままだとまずいな」
俺は、そう口にする。
あまりの激痛だ。皮膚のいたるところが裂け、そこから血も溢れている。
「へへへへへへへ、シャレにならねぇ」
俺は笑う。あまりに多量の血だ。このままだと俺は、出血多量で死ぬだろう。だが俺には出来ることがない。俺のスキルは、魔物にしか効果を及ぼさないのだ。
(どうすればいい?)
俺は激痛の中で考える。
「スキル"全回復"」
俺は、そう口にした。このままだと死亡してしまう俺だ。だからこそかすかな可能性にかけて、そのスキルを使用した。
そして本来人間には効かないそのスキルにより、俺の身体は回復し始めた。何故か? 俺は魔王の力を得たことでもはや人間ではなく、魔物になっていっているということだ。
だからこそ俺の回復のスキルは、自らに有効であった。そして俺はそれから数日、ただただ耐えた。拷問のような時間を過ごす俺。傷ついたそばから回復する。それによりなんとか命をつなぐことはできるが、常時燃えるような痛みが体中にあった。その痛みだけは回復ではどうにもならず、数日間その痛みに耐え続けた。その痛みにより、精神すらおかしくなってしまいそうな俺であった。
だが数日後俺は立っており、痛みもなくなっていた。
「へへへへへへ、耐えきったぜ」
床には息絶えたギレンが横たわっている。その顔は不思議と笑みを見せているように感じる。
「じゃあな、あんたの意思は、確かに俺が受け継いだ」
傷ついていたギレンには、次元を移動してもとの場所に戻るだけの力はなかった。だが俺には今、その移動ができる力がある。
「スキル"次元超越"」
俺は、そう口にした。そして俺一人で、何もない次元から別の次元に移動した。スキルの使い方などはギレンの力と一緒に、俺の脳内に届いてきていた。
だからこそ戻るべき次元も戻り方も、分かっている。
そして俺はどこにでも瞬間的に移動できるというギレンのその力により、とある次元のとある建物の屋根の上に立った。
「これが、ギレンのいた次元か」
俺は城のてっぺんから、下を見る。人間達が歩いているのが目に入る。
「へへへへへへへへへへへへ」
俺は笑う。
「ああ、嬉しいなぁ。俺はやっと人間をやめることができた」
そんな、俺の言葉。
「おい、なんだこの禍々しい気配は」
遥か下の方から、そんな声が聞こえてきた。
「おっと、やばいね。魔王の力を持つ俺がこの世界に現れたことがばれちまう」
俺はギレンの力を得たことで、自らの身体から禍々しいオーラが出ていることを理解した。
「戦争をしかけるつもりはねぇよ。こちらからはな」
俺はあわあわしている民達を見ながら、改めてスキルを使用する。
「スキル"次元超越"」
その言葉とともに俺は、その場所から消えた。
そして俺は、とある森の中に現れた。どこでもいい人のいない場所を目指し、付近に存在していた森に瞬間移動した俺だ。
「ふむ、どうするか」
俺は考える。ギレンが勇者と戦ったのは、数年ほど前らしい。その際にギレンは勇者達に負けた。つまり今人間と俺が全面戦争したとしても、負けてしまう。そしてそもそも俺は、人間に戦争をしかけるつもりもない。
俺がしたいのは、魔物達の救済だ。その魔物の救済のために人間と戦わねばならないのであれば戦うが、別に俺は人間を殺したいわけではない。
だが、理解しておかねばならないことがある。人間達は新たな魔王として俺が現れたことにいずれ気づき、その命を狙いに来るであろう。
さらに俺は一旦この世界の魔物達の境遇を把握するために行動するが、その境遇次第で人間達と交渉をする。魔物達の境遇向上のための交渉だ。そしてその交渉が決裂した場合、大きな争いになるだろう。そしてその交渉は、十中八九決裂する。
"意思疎通"のスキルによりギレンの過去を見たことで把握したが、この世界の魔物と人間は、相いれない存在らしい。遥か昔からこの世界では、人間と魔物は戦っていたようだ。この世界の支配者は魔物なのか人間なのか? それを決めるための戦いだ。人間が支配すれば、魔物達は迫害される。逆に魔物が支配すれば、人間達は迫害される。だからこそ、お互いに負けられない戦いだ。
その戦いには人間および魔物のどちらにもに大儀名分がある。だからこそ俺は別に人間が悪いとも思わない。だが俺は、人間嫌い。それにギレンとの約束もある。だからこそ俺は、魔物側の総大将として君臨し、魔物達を救うために人間と交渉をする。
だが、その交渉をするのは今ではない。まずは魔物達のこの世界での境遇を把握する必要がある。
「さて、ではその境遇を把握するためにどうするかを考えるか」
俺は荒野にて、月を眺める。魔王になった俺はもはや、夜など怖くない。むしろ、暗闇こそが心地良い。