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第五話:全回復

 そして今、魔王は俺の首を掴んでいる。先ほどの勇者との戦いのシーンだけでなく様々な魔王の過去が、俺の脳内に届いている。


 まずその名前は、"ギレン"というらしい。


 元々この世界で魔物達は、単独で行動していた。小集団を形成することがあっても、魔物達全体の統率はとれていなかった。だからこそギレンは魔物達の統率をとるために、魔王をめざした。最終的に勇者に負けこそしたがその実力はとても高く、荒くれ者の魔物達を治め、魔王という地位を築き上げた。


 そんなギレンは今、笑う。


「わははははは、その陳腐なスキルで、我の境遇を把握したか。だがそんなこと、死にゆくお前には何の意味もないことだ」


「果たしてそうかな?」


 俺は、そう告げる。


「ふむ、貴様に何かできるとでも?」


「ああ、一つだけできることがあるんだ」


 俺はそう宣言してから、スキルを使用する。


「スキル"全回復"」


 それは、魔物にしか効かないスキル。俺はそのスキルを、目の前の魔王に対して発動したのだ。


「何をしている?」


「へへへへへ、あんたの過去を見て少しばかり、共感してしまった。勇者に負けてしまったがそれでもあんたは、誇り高き魔物の王だ。そして俺は人間嫌い。だからこそ、あんたを応援する。ちょっとでも早く力を回復し、魔物達を救ってやってくれ」


 そんな、俺の言葉。


「貴様を殺す我を回復するか」


「へへへへへへへへへ、どうせあのシャマラとかって神に、いたずらに与えられた命だ。惜しくもないさ。そんな価値のない命によりあんたが魔物達を救うことができるんなら、それに越したことはない。俺は人間は嫌いだが、その他の生物は好きなんだ」


 俺はヘラヘラと、そう告げる。


「奇妙な奴だ」


 ギレンは俺を掴んでいた手から力を抜いた。俺は床に落ち、無様にしりもちをついた。


「どうしたんだ?」


 しりもちをつきながらも、立ち上がった俺。


 俺は、殺される覚悟をしていた。だが、殺されなかったという俺。


「わははははは、貴様も我の過去を見たことにより把握しただろうが、我ら魔物には魔核というものがあるのだ。そしてその魔核が損傷した場合、ちょっとやそっとの回復スキルでは治らない。少なくとも貴様のような実力なきものの回復ごときに意味はない」


 ギレンは、そう断言する。


「ああ、そうかい。なら、さっさと殺せ」


「いいや、殺さぬ」


 ギレンは、そう告げる。


「貴様は面白い。貴様の意思疎通というスキルにより、我の境遇を貴様が見れたのと同じように、貴様の境遇が我にも見えた。その見えた境遇により、確かに貴様が人間を嫌っていることが分かった」


「ああ、俺は心から、人間が嫌いなんだ」


「わはははははははははは。そうか」


 ギレンは、深く深く頷いた。


「シャマラが貴様をよこした意味は分からぬ。だがそれでも我は、貴様に託すしかないのかもしれぬな」


「どういうことだ?」


「わははははは、我はもはや、死にゆく運命なのだ。あの勇者から受けた傷を回復する時間を確保するためこの場所に来たが、駄目だった。勇者に傷つけられた魔核は治るどころか、徐々に徐々に崩壊している。おそらくあと数か月でその魔核は完全に滅び、我は死ぬだろう。その我の所に、魔物の味方となってくれるであろう思考を持つ貴様が来たのは、運命なのかも知れぬ」


 ギレンは、俺をまじまじと見る。骸骨の顔に見られるというのは怖いことではあるが、俺は相も変わらずヘラヘラとしている。


「これから我の力を貴様に渡す。そして力を渡した我は、息絶える。だからこそその力を受け取った貴様が、二代目の魔王となれ」


 ギレンは、そう告げる。


「そして魔王となった貴様がすべきことは分かるな?」

 

「ああ、あんたが元いた次元に戻り、魔物達を助ければいいんだよな」


 俺の言葉に、ギレンは頷く。


「その通りだ。我の願いごと我の力を、引き継いでくれるな?」


「へへへへへ、もちろんだとも」


「なら、頼むぞ」


 ギレンは俺の眼前に、手を掲げた。その手が真っ黒に光り、そこから影のようなものが俺の口に入り込んできた。それが入り込んできたことで俺の身体には不思議な感覚が現れる。なんというか、力が溢れているような感覚だ。


「これが力か」


 俺は、そう口にした。


「ああ、そうだ。その力で、魔物達を助けてやってくれ。だが、たかが人間である貴様が我の力に適合するためには、相当の苦痛を味わうだろう。その苦痛に耐えきるのだ」


 ギレンはそこまで言ってから倒れた。力を全て渡したからだろう。そしてギレンが倒れたと同時に、俺の身体が熱くなった。

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