第四話:次元超越
「わははははは、我の最後の力を振りしぼり、この魔王城ごと瞬間移動する。この世界のどこにもにつながっていない、別の次元にだ。我の力を使わねば出ることすらできぬそこで未来永劫、ともに暮らそうぞ?」
魔王のその目は、落ち着いている。つまり魔王は次元を超えて瞬間移動できるというそのスキルでこの魔王城そのものを、別の場所に移動させようとしているのだ。
「おい、逃げるぞ」
勇者のパーティーである戦士のような男がそう告げるが、勇者が首を振った。
「魔王の息の根をここで止めた方がいい」
「いや、このままだとこの魔王城ごとの瞬間移動に巻き込まれ、移動した先で閉じ込められてしまう。魔核を貫かれたあいつにできることなんてもはやないのだから、逃げよう」
戦士のような男はそう断言する。魔王の身体の皮膚が徐々に徐々に崩れていき、俺の前に現れた時のような真っ黒な骸骨に変わっていっている。
「わははははは、我は負けたのだろう。だが、終わりではない。我は別の次元で体を回復させ、再び貴様達の前に現れるだろう。そのことを、ゆめゆめ忘れるな。わははははははは」
「へっ、いくら魔王と言えど、魔核が貫かれたお前は回復できずに死に絶える運命だ」
勇者はその部屋の出口に向かうように走りながら、魔王に向けてそう口にする。
「ふふふ、そうかもしれぬ。だが、ここで貴様らにただただ殺されるよりは100倍マシだ。貴様らを道連れにできる可能性すらあるのだからな」
魔王のその顔が、とても楽しそうに歪む。
「スキル"移動速度 超上昇"」
聖女がそう告げ、勇者達全員のスピードが速くなる。聖女のそのスキルは、味方のスピードをとても速くするというものだ。そのスキルにより勇者達は、魔王城から去った。
「わはははははははは、奴らが逃げてくれたことでこの城が移動開始するまでに、一仕事する猶予ができた」
骸骨となった魔王は笑う。そして、勇者達にやられて倒れている配下の一人に声をかける。真っ黒なドレスを身に着けた、とても美しい色白の女性だ。一見するとただの美人な女性ではあるが、その背には真っ黒な翼が生えている。その女性に対して魔王は声をかける。
「おいララーシャ、お前はまだ生きておるな」
ララーシャと呼ばれた女性は、目を覚ました。
「え、ええ。申し訳ございません。あの戦士にやられ、気を失っておりました」
ララーシャは、魔王を見る。
「あららら、魔王様もやられてしまったのですね」
ララーシャは骸骨の存在が魔王であることを即座に理解し、そう告げる。
「ああ、我だけでなくこの城に配備されている魔物達は、みんな殺された。残っているのは弱っている我とお前だけだ」
魔王は悔しそうな顔で、言葉を続ける。
「今の状態の我にはもはや魔王としてできることはない。この状態でこの世界に残っていたとしても見つけ出され、勇者に殺されるだけだ。さらにあの忌々しい勇者の攻撃により受けた傷を回復するには、途方もない時間が必要となる。だからこの魔王城ごと、別の次元に移動する」
魔王城の天井が崩れてきた。もうじき城の移動が開始されるのだ。だがそんなこと関係ないかのように、魔王は言葉を続ける。
「次元すら移動できるという我のスキルだが、次元を移動するにはかなりの力を必要とする。だからこそお前は、この世界に残ってくれ。誰もいない次元で我は力を回復させ、再びこの世界に戻ってくる。その時までお前はこの世界で、魔物達を救ってやってくれ」
「うふふふふ、分かりました」
ララーシャと呼ばれた女性は、笑った。
「それでは、今までありがとうございました。再びお会いできるのを楽しみにしております、偉大なる魔王様」
そんなララーシャの言葉に、魔王は頷いた。
「ああ、こちらこそありがとう。とても素晴らしき、我が配下よ」
「うふふふふふふ」
ララーシャは笑い、そのララーシャに魔王が触れる。
「スキル"次元超越"」
魔王は、そう告げた。その瞬間ララーシャは、この場所に元からいなかったかのように消えた。
魔王はその"次元超越"というスキルを城だけでなく、ララーシャにも使用したのだ。自らの望んだものを瞬間的に次元すら超えて移動することができるというそのスキル。
そのスキルによりこの城は次元を超えて移動させる。対してララーシャは、この世界の安全な場所に移動させた。
次元を超える移動と次元を超えない移動では、次元を超えない移動の方がはるかに力を使わない。むしろ今の魔王ではこの城の移動を終えてしまったら当面、次元を超えての移動はできないだろうと理解していた。
だからこそララーシャをこの世界に残し、自らは別の次元に移動したのだ。
そしてそのそれぞれの移動が完了し、魔王城は今の場所(俺と魔王が出会った場所)に現れた。その際に城は移動に耐え切れずところどころ破損したが、移動自体は完了した。