第三話:俺 vs 魔王
「さらに貴様に、悲しい事実を告げねばならない。転生者である貴様は知らぬだろうが、この世界にはスキルというものがあり、そのスキルにより特殊な能力が使えるのだ」
魔王が付近に存在している白骨に視線を移した。
「そこらへんに転がっている雑魚達でも一応、"攻撃力強化"、"サンダーボルト"などという、我に効かぬまでも攻撃系ではあるスキルを持っていた。対する貴様が持っているスキルは"全回復(人間以外)"、"意思疎通(人間以外)"というものである」
俺は、ごくりと息を飲む。
「そのスキルは今、我を前にしてあまりに無力だ。つまり貴様は、なす術もなく殺されることになる」
魔王は、楽しそうに笑っている。まぁ、そうだよね。俺の脳内にもそのスキルの詳細が流れこんできていた。俺のスキルは、以下二つ。
全回復(人間以外):体に触れることで人間以外の生物の負傷を、全回復できる。
意思疎通(人間以外):体に触れることで人間以外の生物の過去を瞬時に把握することができる。
そんな、二つの能力だ。確かにそのスキルでは、この魔王を倒すことはできないだろう。
「さて、だからこそ貴様の転生ライフは、始まって数分で終わる」
魔王が玉座にてその顔をゆがませ、楽しそうに笑った。その笑みを見ていた俺の足は突如、地面から浮かんでいた。
気づいた時には魔王が俺の眼前におり、その骨の手で俺の首を掴み、身体を持ち上げていたのだ。玉座と俺との距離は数十mあったはずだが、そんな距離など関係ないかのように、魔王は俺の前に瞬時に移動したのだ。
「一応聞いておいてやろう。何か言い残すことはあるか?」
魔王が、そう告げる。
喉を掴まれ、当然苦しい。だが俺はいつものように「へへへへへへ」と笑いながら、
「スキル"意思疎通"」
と口にした。
その瞬間俺の脳内に、魔王の過去の境遇が流れ込んでくる。俺の"意思疎通(人間以外)"というスキルが発動したのだ。
そして俺が見た魔王の過去の境遇は、以下のようなものであった。
魔王はとある場所で、笑う。美青年と呼べる魔王だ。今のがいこつのような姿ではなく、長身で青白い皮膚、左右のコメカミから天に向かうような角を生やしているという姿のそ奴。
その魔王の前に立つのは、5人の人間達。RPGの勇者、戦士、僧侶、魔法使い、聖女という役割でイメージできるような見た目のそ奴らである。
魔王は右手に、刀身が真っ黒で刃渡り2mもありそうな剣を持っている。そして付近には魔物も数体倒れている。きっと勇者パーティ達が倒したのだろう。勇者パーティ達も、なかなかの手練れであると見受けられる。
魔王と勇者パーティとの距離、数m。
「スキル"次元超越"」
魔王がそう口にした瞬間、魔王が真っ黒な剣で勇者に斬りかかっているという状態で、勇者の前に現れた。先ほど俺に見せたような、瞬間移動の能力でだ。だが勇者の持つ剣で、その攻撃は受け止められた。よく見ると魔王の身体は、ボロボロだ。いたるところから青色の血が出ている。
「スキル"聖なる剣"」
勇者がそう口にすると、手に持つ剣が黄金に光りだした。その剣で魔王の剣をはじいた勇者は、魔王の心臓部にそれを突き刺した。
「わははははははは、そうか、我が負けるか」
魔王は地面に膝をつき憎らしそうな顔で、そう告げる。勇者が光り輝く剣を魔王の心臓部から抜いた。そして再度魔王に斬りかかろうとする。
「スキル"次元超越"」
魔王はそう告げ、勇者達から距離を取った。数十m離れた場所に移動した魔王に対して、勇者が言葉を発する。
「お前のスキルはあらゆる場所に瞬間的に移動できるというものだろうが、魔核を突き刺されたお前はもはやそのスキルで逃げたとしても助からない」
勇者が、勝ち誇った顔をしている。
「わははははは、そうかもな。先ほどの一撃は致命傷になりうる。さらにそこに転がっている我の配下を見捨てて逃げるというのも、魔王としての威厳に関わる」
魔王は、そう断言した。
「ああ、そうかい。なら配下を見捨てずにこの場で死ね」
勇者はそう告げ、剣先を魔王に向ける。
「だが我は、ただでは死なぬ」
魔王はそう口にする。
「我の最大級の力を、見せてやろう」
魔王の、そんな言葉。魔王は、床に右手の手の平をあてた。
「スキル"次元超越"」
魔王がそう告げるとともに、戦いの舞台であった魔王城付近に、地響きが発生し始めた。
「何をやってやがる?」
勇者は不思議そうな顔で、そう告げる。
あまりの地響きにより、魔王城が崩れ始めた。