第二話:魔王
「へっ、魔王かい」
俺は、にやりと笑う。
「神様がわざわざ魔王を用意したいという意図は分からねぇが、人間に転生させられるよりはよほどいいな」
「くふふふふふ、そうだろうそうだろう」
神様は笑う。
「私は、シャマラっていうんだ。君が素晴らしき存在なら、私と再び会うことになるだろう。だから、また会う時までバイバイ」
シャマラと名乗った神様は手を振ってくる。そして俺の身体は、透明になっていく。転生先に移動させられるのだろう。
「くふふふふふふふふ、転生に関する一切の不平不満は受け付けませんのでね」
そんな不思議な言葉を聞きながら、俺の身体は完全に透明になった。
そして現れた場所で俺は、付近を見る。
「禍々しい場所だねぇ」
赤い月が、付近を不気味に照らしている世界。宙に浮かぶかのように大地が存在しており、その上に魔王城だろうと推測される厳かな建物が存在している。その浮かんでいる大地から下は奈落のような、底すら見えぬ深淵。
その深淵を見てから改めて見た魔王城は、崩壊している。元は天に届くかのように大きかったと推測される魔王城。
だがその魔王城は今、ボロボロに崩壊している。厳かな門は破られ、もはや侵入を防ぐという本来の目的は全うされない。ところどころ外壁も崩れている。そんな魔王城。
「へへへへへへへへへ」
俺は、ヘラヘラとしている。いつもいつも俺は、そうやって笑っている。このにやにやと笑うのが、子供の頃からの俺の癖なのだ。
その俺は、魔王城の中に入った。当然魔王城の中も外と同じくボロボロだ。所々壁が崩れており、魔物達も存在していない。
俺は、その崩れかけの魔王城を歩く。魔王城の中、ふと横を見ると姿鏡が存在しているのが目についた。
「見慣れない服装だ」
俺はその鏡を見て、そう告げる。元々俺は死ぬ前、TシャツにGパンという服装であったはずだ。だが今、真っ黒なフード付きのコートをまとっている。そしてそのフードはかぶっていないという状態だ。
コートの内側には同じく真っ黒な作務衣をまとっているが、それはコートにより見えはしていない。
そんな服装が、姿鏡に映し出されていた。
俺はそんなこと関係なく、その滅んだ魔王城を歩く。そして、最奥の開けた場所に到達した。
そこも他と同様崩れており、上を見ると天井すらなく、夜空に赤色の月が見える。その月が真っ赤に照らしているというその最奥部。そこには玉座のみが存在しており、その玉座にとある者が座っている。
真っ赤なマントをまとう、真っ黒な骸骨。本来眼があるであろう場所には、紫色に輝く光が灯っている。
「わははははははははは、客人か」
地を揺るがすように低いその声、頬杖をついて俺を見るという姿勢、離れているのに気圧されそうになるその威圧感。どこをどうとってもそ奴は、魔王という表現がぴったりと合う。
俺の足元には、白骨が無数に転がっている。一つ二つではない。無数に存在している人間の骨が、ここの異様さを際立たせていた。
「シャマラとかって名前の神様から言われたんだ。この世界で魔王になれってな」
「ああ、そうだろうなぁ。魔王である我を倒して新たな魔王になれと、言われているのだろうなぁ」
目の前の骸骨はそう告げる。
(魔王を倒せってのは、言われてねぇよ。"転生に関する一切の不平不満は受付ませんので"とかっていうふざけた言葉は言われたがなぁ)
そんな俺の思いを、自らを魔王と名乗ったそ奴に告げてもしょうがないだろう。だからこそ俺は、言葉を発さない。
「そこに転がっている骸骨達と一緒だ。みなそう言われて我の前に来る。そしてみな我に殺され、死に絶えた」
「こいつら、お前が殺したのか」
俺はそう告げる。まぁ、こいつならそれくらいのこと、造作もないだろう。その威圧感からそんなこと、容易に理解できてしまう。
「ああ、そうだなぁ。あの馬鹿な神は別の世界で死した者達の中で可能性のある魂を、我の前に転生させているのだ。その意図は分からぬがな」
「へぇ、そうかい」
俺は、頷く。