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第一話:人間なんて……

「ああ、人間なんて嫌いだ」


 そう口にした、人間である俺。テレビやスマホを見ると犯罪、誹謗中傷、その他ありとあらゆる人間の悪意に関する嫌な情報が入ってきて、人間という生き物の醜さばかりが目についてしまう。


 もちろん俺も、そんな人間である。だからこそ俺は、自己嫌悪。俺は、俺こそが人間であるのだ。人間嫌いである俺が自らを嫌ってしまうなんて、当たり前のことだろう。


 そんな俺は、「へへへへへへ」と笑う。


 俺の横、とある存在が俺の方を見ている。


 おそらく誰かのペットであろう。リードにつながれ尻尾を振っている犬が、俺の横で笑みを見せているのだ。


「お前らはいいよな、人間とは違って悪意がないから」


 俺はその柴犬に対して、そう告げる。人間は嫌いだが、動物好きな俺である。俺は子供の頃に、いじめられていた。その俺の唯一の友達だったのは、家で親が飼っていたペット達であった。犬や猫、インコといった、生き物好きな両親が飼っていたその動物達のみが、俺の友達であった。だから俺は、動物が好き。人間は嫌い。


 その俺は、柴犬の頭をなでる。


「へへへへへへへ、かわいいね」


 そう告げる俺の腹からは真っ赤な血が出ており、付近に血の水たまりができている。


「大丈夫ですか!!?」


 そんな声が、付近から聞こえる。


(だから、人間なんて嫌いなんだよ)


 俺はかけられた声には全く反応せず、そんなことを改めて思う。


「早く救急車を!!!!」


 近くにいる女性が、そう騒ぐ。


(間に合わねぇよ)


 自らから流れる血の量で、致命傷であることくらい分かるのだ。これでも医学に携わる仕事をしているのでね、獣専門のではあるが。人間嫌いだが動物好きな俺は、動物のお医者さんになったのだ。


 もっとも俺が開業した獣医のクリニックでは、インコではなく閑古鳥が鳴いていた。


 まぁ、こんな人間嫌いで偏屈な俺に大事なペットを預けたくはないだろう。獣医にペットを預ける飼い主は、人間なのだから。


 だから、獣医として自らのクリニック(全社員俺1人のみ)で働く傍ら、アルバイトをすることで生計を立てていた俺である。もっとも仕事の割合は、9対1でアルバイトが多かった。我ながら情けないと思う。人間嫌いな俺だが人間に使われて金を稼ぐ。そうしないと、命を維持できないのだ。


「あ~~あ、なんで人間の子供なんて助けちまったんだよ」


 俺は血を吐きながら、そう口にする。人間嫌いな俺の死因はあろうことか、"見ず知らずの人間の子供を助けたから"であった。俺がアルバイトから帰っている道に突如として刃物を持った人間が現れ、子供の方に向かったのだ。


 おそらくその犯人に大した思想はないだろう。その顔には誰でもいいから殺してやりたかったとでも言わんばかりの、意思のなさが見える。だからこそそいつは付近を歩いていた男勢に集団で捕らえられ、ジタバタしている。


 そいつから見ず知らずの子供を守り、代わりに刺されてしまった俺。


「へへへへへ、笑えねぇよ」


 俺は、そう口にした。


「大丈夫ですか!!?」


 俺が助けた少女が泣きそうな顔で俺を見ている。


(へへ、もちろん大丈夫じゃねぇよ)


 そんなことを思いながら俺は、28年というその生涯を終えた。


(ああ、ほんと、人間は嫌いだ……)


 死にゆく俺は、最後の最後、そのことを再認識した。




 

 そして俺は、とある場所に現れた。真っ白な部屋だ。見渡す限り真っ白なその部屋。四方八方地平線すらない、ただただ真っ白な世界。


 そんな世界に現れた俺の前に、真っ白ではない存在がいた。


 フード付きのコートをまとった女性。フードを深くかぶっていることによりその顔は口しか見えていないが、ピンクで艶のある唇及び膨らんだ胸から、女性であることが分かる。


「くふふふふふふふふふふふふふ、君は夜鹿よるしか けい君だね」


 フード付きのコードをまとった女性は、俺の名前を読んだ。


「えっと、あんたは?」


「神様」


 フード付きのコートをまとった存在は、そう断言した。


「そしてここは転生の間という名の、死んだ面白い魂を転生させる場所だよ」


「面白い魂?」


 俺は、訝し気な表情を見せる。


「そうそう、面白い魂。もっと正しい言い方をすると、私が面白いと認めた魂」


「へぇ、転生させるも転生させないも、あんた次第ってことかい」


 俺は、そう告げる。


「くふふふふふふふふ、そうだね。だが安心してくれていいよ。君は私のお目にかなった、とっても面白い魂だから」


 神様であるらしい目の前の存在は笑いながら、説明を続ける。


「私はただただ死ぬだけの人間に役割を与えた上で、別の世界に転生させてあげてるんだ」


「てことは俺にも、役割ってのが与えられるってことかい?」


 俺の問いに、神様は頷く。


「ああ、そうだね。実はね、わけあって魔王を務められる存在が必要なんだ。そして君は動物が好きで人間嫌いという性格だろう? だから君には、魔王になってもらいたいんだ」

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