自分なりの授業
数分待っていると生徒たちがゾロゾロと校舎の方から出てきた。
「お、あの子たちかな?」
「そうじゃない?」
そしてその子たちはボクらの方に向かってきて、ボクをドン!と肩でぶつかってきた。明らかな故意での接触だ。
けれどもボクはびくともせずにただ立っていた。けど、ぶつかってきた子は逆に反動でよろける。そしてその姿を見てまた数人の子は笑っていた。
「はぁ。たしかにガラの悪いクラスだね」
「大丈夫?」
「ボクは大丈夫。だってそもそもの体の強度が違うもん」
そしてまた数分後。全員が揃い授業が始まる時間になった。ボクは今回最初から最後まで任せると言われているので好き勝手やることにした。
「はーい。みんな静かに。今日は特別授業って事でいつもの先生ではなくボクが一時間授業をしたいと思います。まず最初にボクのこと知ってる?」
知ってるーという声が大多数だが一応自己紹介をしておく。
「大体の人はボクのことを知っているみたいだけど一応名乗っておくね。ボクはラミア。魔王軍幹部第7席、ペンタグラム第1席を務めています。種族はみんな知っての通り人間ね。じゃあ今日は、みんながやりたいことをやろうと思うんだけど何かやりたいことはある?」
「一騎討ちとか?」「団体戦だろ」「いやいや……」
そう言ってすぐに会話の波は大きくなってだんだんうるさくなる。
「んー、なんか意見が割れてるからどっちもやっちゃおうか。最初は一騎討ち、そのあと団体戦で」
「「「わかりましたー」」」
意外と聞き分けが良くて助かる。
「じゃあ別にやりたい人同士でやってもらって構わないんだけど、ボクとやりたい人も受け付けるよ」
「っじゃあ俺はあんたを指名させてもらうぜ」
「あんたって、ボクのこと?」
「ああそうだ」
ボクと一騎討ちがしたいって言った子はさっきボクにぶつかってきた子。荒ぶれてんなー。
「俺がお前に勝って、俺がこの魔王軍の間で一番強いってことを示してやるよ」
???君はまだ軍に入隊すらしてないだろ。そう心の中でツッコミを入れる。
「いいよ。けど、ハンデが必要だよね。どうする?何かお望みのハンデはある?」
「んなもんいらねえよ。けど、お互い真剣でやり合おう。そっちの方がおもしれえ」
「真剣?ボクが持ってる真剣これしかないんだけど」
そう言ってフロレントを見せる。
「別にいい。早くやろうぜ」
この煽りを聞いてクラス全員がボクらを囲むように円になる。別にすぐ終わるから見なくてもいいのに。
「えっと、ボクは本気を出していいんだよね?」
「もちろんだ。おいそこのお前。スタートの合図をしろ」
相手の子が指名したのは近くにいた内気そうな女の子。
嫌そうだったが断る理由もないので引き受けてくれた。
「で、では、始め」
そう小さく開始の合図が成された。
「先手必勝!」
そう言って馬鹿正直にボクの方に真剣を向けてくる。でもダメだね。構えがなってないし隙も大きい。力任せにやってくるタイプだ。
そして剣がボクの方にヒュッと振られたらボクはそのまま避けて、剣を取り上げて腕を後ろに捻った。
「はい、終わり。どの時点で勝負が終わるか規定していなかったけどこれでいいでしょ」
「な、何が起こったんだ…?」
制圧された当の本人はなんか言ってた。別にこんな未来予測できたじゃん。
「ちょっと弱すぎかなー。煽るつもりはないけど君、ボクと同い年でしょ?ステータスから見ても勝ち目がないから何か奇策でもあるんだと思っちゃったよ」
「お、お前…!」
「どした?何か言いたいなら後で聞いてあげるから。今は潔く負けを認めな」
「う、うう……」
そう言ってボクは抑えていた腕を解放してあげた。はぁ……なんでボクに勝とうと思うのかね。どう考えても無理でしょ。
「次、ボクに戦いを挑みたい人はいる?別に煽らなければ真面目にアドバイスとかしてあげるから」
そういうと何人かの子が一騎討ちを申し込んできて、終わったあとボクは1人1人にアドバイスをあげた。
「はい。じゃあ次は団体戦。何人かでチームを組んで、乱戦を想定しながら戦ってね」
そう指示を出すとみんな仲のいい子同士でチームを組み始める。
「じゃあまた自分達が希望する相手チームと試合してね」
「なあ、これってお前ともできるのか?」
「ボク?別にいいけど、多対一だよ?それでいいの」
「それでいい。今回こそは勝つからな」
その悪ガキが連れてきたのはこのクラスでステータス的に強い上位7人。うーん卑怯。まあ負けないけどね。
「いいよ。終わりは全員が戦闘不能になるか負けを認めた場合。これでいいね?」
「分かった」
「じゃあスタートの合図はボクが。みんな位置についたね?よーいす……」
「不意打ちだ!」
全員でボクがスタートの合図をしていないのにも関わらず襲ってきた。
「でもこれだと……。って、おお」
ボクが剣の峰で打とうとした瞬間、別の子がボクが剣を握っていた手に衝撃を与えようとしてきた。それは手を切断する、というよりかは単純に剣を振るえなくするって意図だったと思う。さらにその子のうまい点はちゃんと弱点をついてこようとするところ。
どういうことかというと、人間誰しも手首に強い衝撃が加わると反射的に剣を離してしまう。おそらくはそれが目的の攻撃。でも流石にそんな危険な攻撃には当たらない。
ボクも体をひょいとひねって攻撃を躱す。
「強いね、君。技術的な面では、だけど」
真に強いっていうのは技術と筋力の2つが必要になる。この子には技術はあってももう片方が欠けている。
その甘さを突くようにボクはその子に剣を振るった。剣同士がぶつかり合うが筋力ではこちらに分があがる。
「これで1人ダウンっと」
まあぶっちゃけ、あとは消化試合かなぁ。
残る6人は対して強くもなく簡単に剣を手放した……あれ、あの悪ガキくんは手放してないね。
「まだやるー?」
「くっそぉ。なんで俺がこんなやつに……」
「こんな奴って言われてもなぁー。君らの方が弱いんだから負けて当然でしょ」
少し煽ったら顔を赤くしていった。
「お前、どうせ人間側のスパイなんだろ?年齢とか過去も偽ってこっちにきたんだろ」
……?よくもこんな事実無根のことを堂々と言えるね。
「どこにその根拠が?」
「俺は知ってるぞ!お前がウーロンで十二騎士を殺すことを躊躇ったのをな!」
「……………」
なんだこいつ。どっからその情報が漏れたんだ。
「ほらみろすぐに黙った。やっぱりお前は今も人間側なんだろ⁈」
「……うーん、今のはちょっとむかついたなー」
そう言ってフロレントの刀身を向ける。
「今の言葉、取りやめてくれるかな?そうしないとこの剣が君を斬ることになるよ」
「取りやめるもんか。俺は真実を言ってるだけだ。こいつの過去なんてそう悪いもんじゃないってな」
完全に火がついた。今なんて言った?ボクの過去はそう悪くないって?ボクはそいつの腕と脚の骨を折った。そして胸ぐらを掴む。
「もう1回言ってみろ。ボクの過去が、そう凄惨なものじゃないって?お前がボクの立場になっても言えるのか⁈」
10秒待っても何も答えないから顔を殴った。
「……。もういいや、お前にあたっても何か生まれるわけじゃないし。けど、君が軍に入隊するときにはいい思いはできないよ。ボクは優しいから、君に睨みを効かせてあげる。なかなか昇進できないようにね」
そう言ってボクはその子を治癒魔法で治してあげた。
「はぁ……ごめんね、不快なものを見せて。まあ人は時には感情的になるって事で水に流してもらえたら嬉しいな。んー、あとなんかいうことあるかな………」
「あ、そうだ。ここから真面目な話なんだけど、なんでみんなは軍に入りたいの?」
「なんでって言われても……義務だからとしか…」
「じゃあ質問を変えよう。君たちは軍に入って何をしたいの?」
「…………」
「ボクはね、真っ先にこの問いに答えられるようになってほしい。別になんでもいいよ、憧れの人に追いつきたいからとか、ボクみたいに人間を殺したいっていう願望でも。でもやりたいことがないのは無しだ。だって理由もないのに居続けるのは辛いでしょ。軍に入ったらいろんな選択を迫られるから、そこでやりたいことを見つけてもいい。ある程度の年月入隊してたらどこの隊に配属されたいか聞かれると思うし」
「うん…それぐらいかな、ボクが言っておきたいのは。君たちはまだ入隊していない子供なんだから、自由なものが沢山ある。選べるっていうのはすごい貴重なものだから大切にしてほしいな」
「……じゃあボクの授業は終わりかなー。最後に何か聞きたいことはある?」
「……ラミア様は今何歳なんですか?」
「え、……18……かな」
「じゃあ私たちと同い年ってことですか?」
「まあ〜……見方によっては」
「はー…そんな若いんだ…」
「あはは……。他に何かある?なかったらそのまま解散でいいよ」
そう言ってボクはみんなを解散させた。
「はぁ……まさかあんなに煽られるとは」
「だけどあれはやりすぎよ」
「別にいいじゃん。四肢を折ったぐらいだし」
「ついでにトラウマも植え付けたわね。本当に何をやってんだか…」
「あははそれもまた一興ってことで。ボクらもそろそろ帰らない?ちょっと用事ができちゃったからさ」
「用事って何よ……。けど引き上げるにはいい時間かもね。すいません。では私達もそろそろ帰らせてもらいます」
「そう、ですか…」
「ごめんね、ボクも空気を悪くしちゃって。悪気はなかったんだけど…」
「いえ、これは私たち学校の指導の怠慢が原因ですので」
「じゃあお互い様ってことで。今日は貴重な体験をありがとうございました」
そう言って手小さく振りながらボクとティアは帰っていった。




