指導
いつもの倍近く長いです。区切りがいいのはここだったもので…。
ボクらが校庭に移動する間、ティアはやけにウキウキしていたから聞いてみた。
「ねえティア、もしかして子供好き?」
「そうだけど…知らなかったの?」
「そうだけど…‥知らなかったよ?」
思わずティアが言った言葉をほとんどそのまま返してしまった。
「へぇ…なんか意外。子供は好きそうだけど教える側としてでも…」
「そうね。この空間において一番子供と触れ合えるのはやっぱり一緒に訓練をするということでしょう?だから教える側も好きよ」
そういうとまた歩くスピードを上げて外へ向かって行った。
「なんかすいません……ティアがあんなに興奮するとは思っていなくて」
「いえ、大丈夫ですよ。それよりも私はミーティア様の意外な側面について知れて嬉しい限りですよ…!」
「な、ならよかった」
あれ。もしかしなくてもこの人ってティアの大ファンだったりするのかな。
ボクらが無事に校庭についた時には授業が始まる直前だった。
先導の方が先ほどと同じようにティアが生徒にも指導してもいいかを交渉したら即オーケーが出されたのでティアはちゃんと教える側につくことができた。
「みんな注目ー!今日もいつも通り実技訓練をしていくんだけど、特別な方をお招きしています。ではミーティア様、前にどうぞ」
「ご紹介に預かりました魔王軍所属のミーティアです。一応魔法隊という隊を率いる隊長という立場もやっています。でも、皆さんとあまり年齢は変わらないのでそんな気兼ねなく話しかけてくれたらなーと思います」
うーん明らかに緊張してるな。ちょっと心の中で笑いそうになってしまった。
ちなみに今のティアの自己紹介を見た生徒は驚きを隠せないようだった。なんせ目の前には現在魔王軍で最も強い魔法使いがいるんだから。ざわざわという声はなかなか収まりそうにはなかった。
「では今回はミーティア様が直接実技の相手をしてくれるそうなのでウォーミングアップをしたらいつもの特訓にミーティア様も混ぜてもらう形で」
そう、教師が指示するとみんな自分の杖を取り出して好きなところに魔法を放ち始めた。でもそれは乱れ打ちという感じではなくちゃんとした規則性があった。最初に小範囲に効果を及ぼす魔法を放ち、次に広範囲に効果のある魔法を放っていく。これはおそらくだけど魔法を発動する際のゲートの間隔を確認してるんだと思う。
どういうことかと言うと魔法を放つときは媒体、要するに杖などに魔力を込める。けれどその魔力を具体的に込める場所、いわゆるゲートにうまく魔力を通せないと魔法が不発に終わってしまう。だからその感覚を確かめていく作業がこのウォーミングアップになっているわけだ。
その基礎練習が始まって数分。おそらくはそのウォーミングアップを終えたであろう生徒が出てきた。その子たちは終わった人同士でペアを組んでいく。そして全員がペアを組めたとき、先生の方から合図があった。
「ではこれから簡単な実践をします。今ペアを組んでいる人と戦って、勝った人は勝った人同士でまた新たにペアを組み、負けた人は負けた人同士でペアを組んでください。これを何回か行います」
おお、簡単なレクリエーション。おそらくだけどルールは魔王軍では主流の魔法合戦に倣っているはず。それはシンプルなもので、3回相手を被弾させたら勝ち。ただそれだけだからそんなに時間もかからないでいい感じかもね。
ちなみに、ティアもしれっと紛れていた。
「ではよーい、始め!」
チーンという音と共に訓練が始まった。みんな魔法を撃っていって、ところどころで試合が終わり始めていく。
ボクはそれを見て思ったことがあった。
「へぇーボクが思ってたより強い」
「そうですか?」
「うん。魔力も上手に扱えてる。実はステータスで表示される魔力は全員が全部使い切れるわけではないんだよ。多くを持っていても使い手によってはそれを全部引き出せない。だけどみんな自分が持っている魔力をほぼ全部思うがままに使えているから、これはレベル高いと思うよ」
「なら嬉しいというものです。教えていることが伝わっているんですから」
…話を終えてティアの方に視線を向ける。既に何戦か終えているがティアはどれも手加減とかいうレベルじゃないぐらい手を抜いている。けど心の底から楽しんでいるのは事実っぽかった。
なんだかんだいって授業は進行していき、このクラスで強い人が浮き彫りになっていった。おそらくだけどその子は中級兵士に入れるぐらいの実力は持ってる。
で、ボクがぼーっとしているうちにティアの実力を知りたい!って流れになってきていつのまにかティア対クラス全員みたいな構図が完成していた。……まあティアが乗り気なのでボクは何も言わないけどさ。やっぱ子供って思いついたことをすぐに実行しようとするよね。
ルールはさっきよりちょっと過激になっていてどちらかが負けを認めるか戦闘不能になった場合終わりというものに変更されていた。なぜ。
「みんなは私が手加減した状態と手加減してない状態、どちらで戦いたい?」
ティアのその問いにもちろん本気だよ!という声が多数上がった。まあ流石にティアがステータス全開放で戦うことはないと思うけどさ。
「始め!」
という合図と共に魔法合戦が始まった。ティアはやっぱり手加減している。それでもステータスは3万ぐらいだしてるけどね。けど、その重さの攻撃を耐えれるほど屈強な魔法使いはこの場にはいなかった。広範囲に影響を与える風魔法を放って大半は倒れた。まだその魔法の餌食になっていない人もいたが結局は魔法を打たれておわり。結局、ティアは1回も被弾しなかった。やっぱり強すぎるんだよ。
「こ、これが最強の魔法使い……」
そんな声が聞こえてきた。
「ねえティア。本気、見せてあげなよ」
「いいけど……受け止める相手がいないじゃない。生徒たちにやったら確実に死んじゃうし」
「ボクがいるじゃん。ティアがステータス全開放してもボクが受け止めてあげるから」
「本当?」
「うん。だから、ね?たくさんの人が間近で見たいと思うよ」
「…分かったわ。でもここじゃ危険じゃない?」
「それは結界魔法でなんとかする。ボクが張るから」
「………ねえ、みんなは私の全力で放った魔法を見たい?」
「見せてくれるの?」
「いいよ。…けど先生方。できたら私とミアを囲むように結界を張ってくれませんか?下手したら生徒たちが危ないので」
「わ、わかりました。けれど…ラミア様はよろしいのですか?」
「ボクは大丈夫だよー」
そう言ってボクらの周りに結界が張られる。そんなボクらに生徒は釘付けだった。
「ティア、遠慮しなくていいよ。あとこの結界、破らないよね?」
「流石に一発では壊れない…はず」
「ならいいや。で、正真正銘の本気なら堕天使の姿になる?」
「……うーん。流石にそれは無理かな。あくまでステータスの開放だけで」
「了解」
ティアは発動媒体である死霊術の本を取り出してステータスを解除する。
「<偽装解除>」
「<偽装解除>」
それに合わせてボクも一応解除しておく。
「先に聞いてもいい?なんの種類の魔法?」
「さあ?それは放ってからのお楽しみで」
「ちょっと!鬼じゃん」
反射神経で剣で捌かないといけないのかよ。
「じゃあいきまーす」
この場の緊張感はマックスに。みんなティアの手元に集中している。
「威力増加<死の衝撃>」
ティアから放たれたのは死霊術の最高頂点の威力を誇る魔法。まるで鋭い矢のように魔法がボクに向かって飛んでくる。
「これは、こう!」
剣を抜いて受け止める。見栄えを気にして完全には叩き切らないようにね。
フロレントで真っ二つに裂かれた魔法はボクのすぐ後ろで爆発を引き起こした。その衝撃はその名の通り死ぬんじゃないかというほど。本当に、やばすぎ。この魔法が放たれたらおそらくは十二騎士の下位だと一発であの世行きだ。
「はぁ、はぁ。本当にやばいって、今のは」
「あはは、ごめんごめん。せっかくだから本気を出そうと思ってさ」
「や、やばすぎ………」「ミーティア様は別格じゃない…?」
「ほら、言われてるよ」
「う、うう。恥ずかしい」
そういうところもかわいいなー。
「おっと、大丈夫?」
ティアがフラフラとしていたからだきかかえてあげる。多分だけどエネルギーを多量に使ったのが原因だろう。
「う、うん。大丈夫だよ…」
ボクの介抱を振り解いて1人で立ち上がる。けどその足はまだおぼつかなかった。
「本当に、大丈夫だから。今ふらついてるのはさっきの反動のせいじゃないし……どっちかというとミアが抱き抱えるからでしょ……」
?なんかブツブツ言ってる。まあよくわかんないからいいや。
「ティア、授業が終わる前に話でもしてあげたら?」
「それもそうだね」
「ちょっとみんなに魔法の話と軍の話をするね。これはあくまで私目線の話だけど」
ティアの目線の話、要するにそれは魔王軍幹部としての語りだ。それは貴重なものだからかみんな真剣に聞こうと姿勢を正す。
「じゃあまず1つ目。どうやったら魔法が上手くなるのか。これは実は至ってシンプルで、コツを掴んで練習すること。人にはそれぞれ適正のある魔法元素があるからそれらに応じて魔法を放つゲートを調節しないといけない。この感覚を1回でも感じてみてほしい。そして後は練習。隙間時間でも見つけて出来るだけ多く魔法を使って。私もそうしてた。夜に眠いなか起きて練習してたもん。そうすればきっと、上手くなるはず。それでも上手くならなかったり、もっと上手くなりたい!って人は私のところに来て。直接教えてあげるから」
「そして次。私がみんなに伝えたいことは1つ。魔法は殺しを行うための道具じゃないということ。おそらくみんなは将来、軍に入ることになると思うけど、そこではさまざまな経験が待ってる。別に悪いことだけじゃないよ?むしろいいことの方が多い。でもその経験の中で殺しというものがどうしても入ってくる。君たちはこの授業で魔法を選択しているわけだから、魔法を使って殺しを行うことが多くなる。でも、魔法はそれだけのための道具じゃない。原点に帰ってみると魔法は生活をより豊かにするためにあるものなんだよ。そのことを絶対に忘れないでほしい。もし忘れちゃったら私の今の話を思い出して、深呼吸しよう。そうしないと、君の精神は負の感情に飲み込まれちゃうからね」
「………私の話は以上だけど、何か私に聞きたいことはある?なんでもいいから」
「じゃ、じゃあいいですか?」
そろそろと手を挙げて質問していいか尋ねる子がいた。
「いいよ」
「ミーティア様のステータスはどのぐらいでしょうか」
「す、ステータスかぁ…。魔法関連だけで言うと20万ぐらいって感じかな」
ティアはそれを恥ずかしそうに言っていた。けど、この場にいるボク以外の人は唖然となった。それもそうだ。普通に今の魔王軍幹部に求められるステータスは大体2万弱とか。これでも昔に比べたらインフレしたんだけどね。それでもティアのステータスは基準の10倍はある。そりゃ驚くのも当然だ。多分だけど、この場にいる人はせいぜい1万に届くかどうかぐらいだと思ってる。
「まああくまで今のは1つの事例で……。何か他に質問は」
「ラミア様とはどういう関係なんですか?」
「うーん親友かな。あとは同居人ってぐらい。いい関係を持っていると思っているよ」
「王国十二騎士ってどのぐらい強いんですか?」
「ケースによるけど下位だと幹部の皆様なら結構の確率で勝てる。上位は幹部が1人はいないと絶対に倒せないぐらい。正直、私も1対1だと相性によっては負けちゃうと思う」
「そ、そんなに強いんですか……」
「そりゃそうだよ。強くなかったらこれだけ長く戦争なんてやらないから」
「………他には?」
「「「…………」」」
「無いようなら私からは以上。先生たちにバトンパスしたいと思います」
「は、はい。ありがとうございました。皆さん帰る時には来てくださったミーティア様に挨拶をして、今回の授業は終わりになります。以上、解散!」
生徒たちは立ち上がり、みんなティアにお礼を言ってから教室へと戻っていく。
そして残されたのはティアとボクと先導の方、そして魔法の先生の四人となった。
「今回はありがとうございました。生徒さんに魔法に関して少しでも教えることができたので楽しかったです」
「こちらこそありがとうございました。ミーティア様の魔法を間近で見れるなんて。その光景、一生忘れることはありませんよ」
「ならよかったです」
「ところで…あのステータスの話、本当ですか?」
疑問を呈したのは先導の方。
「本当ですよ?」
「それにしては気配というかステータスの圧を感じないんですが……」
「ああ、それは私が表面的なステータスを偽ってるからですよ。だって街中で圧を放ちながら歩いていたら引かれてしまうでしょう?だからこうして抑えているんです」
「そ、そうなんですか」
「正直、一発でこの偽装を見破られた時には結構キツイ戦いになりますね。私を苦戦させるほどの実力を持たなければ、初見では見破ることができないでしょう。そのぐらい見破るのは難しいと思います」
……なんか話してる。ボクはこの会話を頭に通しては何も吸収しないまままた放出してるだけになってる。つまり何も聞いていないと同意義。
だって、次はボクの番じゃん。ボクが剣術の指導?ティアみたいに上手くできる自信ないよぉー。
「ではそろそろ次のクラスが来るので私はこれで」
「さようならー」
「……ねえねえ。次のクラスって何?」
「えっと……次の校庭を使うクラスは剣術のクラスですね」
「じゃあボクの番か」
「そこの教師には既にラミア様がご指導する許可をいただいています。ですが……その、少し気をつけた方がいいかと…」
「ん?どういうこと?」
「それがですね、次に来る剣術クラスの子たちは問題行動が時々見られるんですよ。具体的には、気に食わない人をいきなり剣で刺すとか。そして、その中にはラミア様のことをあまり好いていない子も混じっていて……」
「なるほど。つまりボクが殺されるかもしれないと」
「ねえミア。そんな軽く言う事?」
「大丈夫でしょ。どうせステータス2万には届いていないんだし、それなら何人居ようが関係ないや。………そして、それを聞いてボクも上手に指導ができそうだと思った」
「どういうこと?」
「質問なんだけどさ、生徒の訓練場での怪我ってどうなるの?」
「どうなる、ですか。それは、そのまま医務室に運ばれて治療を受けますが」
「へえ。ならちょっと傷を負わせても大丈夫だね!いざとなったらティアも治癒魔法で治してくれるし。これで勘違いしてる餓鬼どもを叩きのめせるぞー!」
「物騒なことはやめてよ?魔王様からお叱りを受けるのも嫌だし」
「大丈夫だよ、さっきも言ったようにちょっと傷を負わせる程度だから」
「具体的には?」
「四肢を切らない程度」
「十分重症じゃん………」
よし!なんか上手く指導できる気がしてきた!
 




