大きな報せ
「2人……死んじゃったな」
さっきボク以外の子が退散して行った方向にボクも向かう。
すると物陰を超えた安全な通路の真ん中に、30名全員が2人の遺体を見ながら泣いていた。
「……君たちに、怪我はない?」
「………はい」
「そっか。………大切な仲間だったんだよね」
「私の…幼馴染で…」
「…………」
何も言うことができなかった。慰めてあげようにも、これはボクの判断ミスでもある。ボクだけ出て行って場を制圧してればこんなことにはならなかったかもしれない。けどそんなミスを犯したボクが言葉をかけるのは間違っている気がした。
「………ラミア様」
「なに?」
「この2人を殺した奴は…何者なんですか?」
「知って、どうするの?」
「心に留めておきます。私たち、この隊のみんなの心に。……復讐したいのも、ありますけどね」
「……この人たちを直接殺したのはニーアっていう魔法使いだよ」
「ニーアって、王国十二騎士のですか?」
「うん。あくまで直接殺したのはね。……でも、人間の前に出て行けって命令したのはボクだし、ボクも間接的ではあるけど死因をつくちゃったかな」
「…それを言うなら私たちもです。あの時こうしていればって、今でも思い返します。なんでこうしなかったんだろうという黒い渦が自分の中でずっと残り続けているんです。そしてそれはこの場にいる全員、そう思ってます。…だから、ラミア様の責任ではありませんよ」
「…………」
「俺ら、仲間を失うのはこれで初めてなんです。初陣から2年経って、初めて仲間を失った。正直、今のタイミングで失うのが一番辛いです。ようやく仲良くなれて、思い出も作れて、その矢先に居なくなって。正直、出会った直後ならまだ立ち直れたかもしれないですけどね」
「……その気持ちはわかるよ。ボクも、目の前で沢山の仲間が死んできた。もちろん敵も。けどそれはどうでもいい。だってそうじゃない?名前も声もわからない人が目の前で死んでも、何か思う?思わないよね。でも名前も声もわかっている人、仲のいい人が死んだら何か空虚なものを抱えることになる。……それは、ボクら軍人にとって避けては通れないものなんだ。ボクらが軍人という道を選んだ時点で、確定していた未来なんだよ」
「……じゃあその空虚なものを抱えなくてはならないんですか?」
「うん。それは捨てられない。けど小さくすることはできる。一旦清算して、立ち直るんだ。自分には未来があるんだって、ね?その気持ちを思い出すのは落ち着いた時、感傷に浸りたい時でいい。そうやって、ボクらは生きていくんだよ」
「………そうですね。この2人のためにも頑張って生きなきゃですね」
「そう。今すぐ立ち直れとは言わない。けどこれだけは言わせてほしい。ニーアはボクが殺す。君たちの思いも背負って」
「ありがとうございます。今度会った時は、笑顔で会いたいですね」
「そうだね。やっぱこの空気感は好きじゃないよ。君たちも、笑顔の方が似合ってるから」
場が少し和やかになるのが感じられる。
「さあみんな出よう。この都市とはおさらばだ」
そう言ってみんな、遺体から離れていく。戦場の習わしだ。軍人が死んだ時は、死んだ場所に埋葬をする。魔都に持って帰らずに。
「魔法都市シタデル、攻略完了」
※※※
「ヴェラさん。何か大きなことはありましたか?」
シタデルの前に陣取っていた魔王軍の本陣に帰ってきてヴェラさんと情報を共有する。
「こっちは特にないわ。シタデルを納めていた長は転移で王都に逃げて、お抱えの軍隊も一緒に逃走。完全にこの都市は捨てていたわ」
「はあ。やっぱりそうか………。でも実際、おかしいですよね。あんなに早く退却するなんて」
「おそらくだけど、無駄に戦って貴重な人材や実験道具を失いたくはなかったんじゃないかしら。それなら全て持って先に逃げる方が得策じゃない」
「まあそうですね………」
「…それよりも、ニーアが出たって本当?」
目の色を変えてボクに問い詰めてくる。
「本当ですよ。あの強さ、この身で体感しましたよ」
「そう……。サラにも伝えた方がいいのかしら」
「さあ?あの人のことですし、伝えたらニーアのとこに直行しそうじゃないですか?」
「ほんとに、サラは魔法のことになると敵だろうがなんだろうが語り合うからね。ニーアも見つけ次第魔法談義を始めそうよ」
「あはは。あり得そう。……でも実際ですよ?ニーアとサラさんとティア、3人で戦ったら誰が一番強いですかね?」
「私は魔法について詳しくはないけれど…ニーアが勝つんじゃないかしら」
「なんでですか?」
「あなたも知っての通り、彼女はこの世界で最も多くの魔族を殺しているの。つまりは何かしらの魔族に対する対策を持っているはずよ。けれど、サラやミーティアちゃんにはどうしてもそのニーアと渡り合うほどの切り札得ることができていない」
「確かにねー。厳しいか」
「でも別にこれは空想上の話。現実ではないから気にしなくていいわ」
「そっか。なら安心だ」
ほっと胸を撫で下ろすような仕草をする。
「魔王様にはこのことを伝えたの?」
「シタデルのことですか?もちろん伝えましたよ。返答も来ましたし」
「なんて?」
「とりあえずは魔都に戻って来いって。新たなニュースが入らない限りは近くの村を滅ぼしてバカンスを楽しんだら帰れって」
「戦争のことをバカンスなんて…魔王様も言うようになったわね」
「あ、そういえばヴェラさんは魔王様の子供の頃を知っているんですよね?どんな人だったんですか?」
「一言で言えばお調子者だったわ。私たち幹部の中ではそれを可愛がる人もいたけど、懸念していた人も多かったわ」
「ちなみにヴェラさんは?」
「私は可愛がっていたわよ。サラと一緒に遊びに行ったりしてね、お姉ちゃんって抱きついてきてかわいかったのよ」
「へー、意外な一面」
「でも先代の魔王が亡くなった頃から甘えている機会はだんだんと減っていったわ。ちゃんと魔王の仕事をしなきゃってね。案外、あの子は根は真面目だからね。サタンの助けもありながらなんとか魔族を束ねていっているって感じよ」
「そうなんだ……」
「ええ。残念ながらあなたは意外と精神的に発達した状態でこちら側にきたから甘える姿は見れていないけど」
「あはは。ボクはティア以外に甘えたことはありませんよ。もちろん親にもね」
「……私も聞きたいのだけれど、ラミアの両親ってどんな人なの?もちろん話すのが嫌だったら話さなくてもいいのだけれど」
「いや、気にしなくていいですよ。あんな奴ら、親ではないですからね」
「そんなに?」
「ええ。ボクの親……まあボクにとっては他人ですね。あいつらは小さな辺境の村で今も過ごしていますよ。でも風貌とかは全く覚えていないんです。なんならあの村の場所も知らない。いつかは殺したいですけど……それが叶うのはもう少し先になりそうですね」
「そう………。でも実は、あなたが居たと思われる村はもう見つかっているの」
「え?そうなんですか?」
ボクにとっての大きな情報が舞い込んできた。
「あなたが魔王軍に入る際にあなたのことを我々は調べたわ。その時に、ね」
「なんで言ってくれなかったんですか……」
「ごめんなさいね。この話を誰ともしていなかったから忘れてしまっていたの」
「はあ……」
「あなたは行きたい?その村に?」
「もちろん。でも……今じゃないですよね」
「?どういうこと?」
「せっかくいくなら、ちゃんと準備していきたいじゃないですか。ティアとかとも話して」
「…そういうところ、私は嫌いじゃないわ。それもそうね。しっかり話し合ってから行きましょう。下手したら、それがあなたの人生にとって最も意味を持つイベントになるかもだからね」
「はい。だから……今はいいです。目の前のことに集中して、気が向いたらって感じで」
「わかったわ。ではこの話は終わりにしましょう。ここで私たちは解散するなら、早めに別れてそれぞれの裁量に任せた方がことはうまくいくわ」
「わかりました。ボクは魔王様のいう通り村を滅ぼして魔都へ帰還します。ヴェラさん、ありがとうございました」
「こちらこそね。あなたのお陰でいい機会が得られたわ。また一緒になれば、その時もよろしく」
「はい。じゃあボクはこれで」
そう言ってボクは本陣から出た。