圧倒的な強者
「あー…これはボクがくる意味なかったかもしれない」
いざ街に入っても人間の気配はなかった。全員が魔王軍に殺されてる。
「………でもなんか数が合わなくない?この都市18万とかいるんだよね?死体だけだと10万ぐらいしかないから計算が合わないんだけど」
でもボクらの目的はこの都市を破壊すること、占拠ではないので別に人がいようがいまいが関係ない。けどどこか不気味で、聞こえてくる音や感知される生命反応は鳥などの小動物だけ。これではまるで廃墟都市だが、確実にさっきまで人間がいた痕跡がある。家の中にはまだ温かい空気が残っているし、周りにも足跡が残っている。
「そこの君たちー!」
「お、俺らですか?」
近くにいた子を呼び寄せる。
「ごめんね呼んじゃって。ところで今からボクと一緒に中心にある城塞を攻めない?事情があって人手が欲しいんだ」
「わかりました。おい!お前らラミア様と中心部に向かうぞ!ラミア様についていけ!」
「「「了解!!!」
……なんかいい感じの集団にヒットしたっぽい。よし、それは好都合だ。なんか変な予感がするからね、単純に数が欲しい。
「じゃあボクについてきて」
そう言ってボクらは魔法研究所へと向かった。
「ここか…。中には簡単に入れるのかな?」
みた感じはそんな頑丈そうな扉があるわけでもない。簡単に入れるはず。
「んーなんか不気味だなぁ。人が1人もいないなんて。上から見てた感じ万単位でここに入って行ったと思うんだけど」
通路が右と左に分れたところで振りかえって、ついてきてくれたみんなに呼びかける。
「とりあえずここから二手に分かれよう。この城塞なんだかんだ言って広いから、このまま全員まとまって動くよりそっちの方がいいからね」
「わかりました。数は半々ぐらいで?」
「うん。半分は君に預ける。もう半分はボクについてきて」
「任されました!」
「う、うん。けど気をつけてね、隅々までみないと分からないこともあるし。じゃあボクは右に、君は左に行ってね。くれぐれも2階には行かないように。おっけー?」」
そう言って右側の道を進んでいく。
「ねえみんな。これはボク個人の質問なんだけど君たちは1つの隊なの?」
少し進んだところで気になったので質問してみる。
「そうです。別に魔王様から隊として認められている訳ではないんですけど、ただ仲のいい人たちで勝手に集まって動いてる感じです」
「へぇー…。いいなーそういうの。ボクも混ざってみたいよ。いつか身分を隠して行ってみるのもありかな……?」
「ラミア様はそういう経験はないのですか?」
「残念ながらね。ボクはみんなと種族が違うから目立っちゃうんだよ。だからそういうのは、ね」
「……いつかただの兵士を体験したい!って時は歓迎しますよ」
「そう?ありがとうね」
「…あ。ラミア様」
「あれ。君はさっき左に行った隊だよね?もう合流したのかい?」
だとすると1階部分はかなり狭いけど。
「そうみたいですね。合流したということは左右に分かれていた道が一周したということでしょうか」
「そうなのか……2階には行ってないよね?」
「はい」
「わかった。でももう少し待ってね。ボクら右側の方はまだ全部を探索しきっていないから」
「わかりました。着いていきますよ」
「ありがとね」
「…‥…がずに!焦らないで!」
話をしていると前から声が聞こえてきた。聞く限りは人間だろう。おそらくは避難指示というか、何らかの集団がいることは確かか。
「今声が聞こえたよね?」
「はい…しましたね」
後ろに合図を出し、隠密行動するように指示する。
全員がしゃがみこみ、進んでいくと、瓦礫の物陰に隠れた。
「うわー……」
物陰から顔を出してみた光景はそんな子供みたいな感想しか出てこなかった。
目の前にあるのは大きな転移ゲート。青色に光るそれに、人々は誘導されて入って行った。おそらく繋がっているのは王都。ここシタデル特有の魔法技術だろう。と、いうのも魔族でもこの転移ゲートに関する研究は行われている。けどどうしても長時間、そして割と大きな規模でゲートを維持するのは難しいらしい。けど目の前にその完成形がある。……やっぱこういうとこなのかな。人間が生き残ってきた理由は。
まあその話は置いといて一旦ゲートのほうに集中する。おそらくはこれが違和感の原因。人が消えてるなー、というのは転移していたからか。大規模での転移は無理だと勝手に思ってたからその可能性を除外していた。
ゲートをまだ通っていない人間は2000人ほど。兵も相当数が転移先へ向かっているから、すでにこの都市を捨てたのだろう。
「これはすごいですね……」
「だね。…作戦はみんなで同時に出て行って人間をできる限り殺す。それだけ。でもくれぐれも間違えて転移しないようにね。そしたら王都かどっかでリンチに合うから」
ちょっとした笑いが巻き起こった。
「ボクが最初に行く。その後に出てきて」
みんなが頷いて了承をする。
それを見たボクは剣を抜いて人間たちに襲いかかった。
「なんだ⁉︎」
「魔族だ!魔族がここまできたぞ!」
ボクらが出たら一瞬で阿鼻叫喚。やっぱり恐怖って伝染しやすいのかな。
ボクは大体剣を交えずに人間を殺していく。けどボク以外の子は苦戦している?いやそんなことないか。1名の欠けもなく任務を遂行している。ほんっとに優秀だな。魔剣士隊も強いけどそれとはまた違った強さがある。
頭の中でそんなことを考えながら人間を切り伏せていく。けど視界の端に映る一際目立つ人間がいた。
「ッ!みんな逃げて!急いで!ここはボクがなんとかするから」
「いきなりですか?」
「早く!」
「わ、わかりました。みんな退却、急いで退却して」
「<風刃>(ウィンドカッター)」
あたふたしていると後ろから魔法が詠唱された。逃げるのが遅れてしまった2人が目の前で死亡。けどそれ以外の子は逃れた。
「………その魔法、ボクの目は間違っていなかったみたいだね。王国十二騎士第二席『天人』ニーア。なぜ君がこんなところにいるのかな?」
「私の名前を知っているのね。あまり知られていないと思っていたけど」
やっぱりボクの視界に映ったのはニーアだったのか。人間界一の魔法の使い手。綺麗なお姉さんというイメージ以外ないが、流石にここで会うのは想定外だ。
「大多数の人は名前だけ知ってるよ、顔も一致するのは少ないと思うけど」
「そういうあなたは誰なのかしら。魔王軍幹部だったら見ない顔だけど」
「まあね、ボクはラミア。お察しの通り魔王軍の幹部、もっと言うならペンタグラムの第1席だ」
「ペンタグラム……聞いたことないわね。でも肩書きに加えられるってことは幹部と同じぐらいの効力はあるのかしらね」
「やっぱり頭の回転が速いな。ボクとは程遠いね。ところでさ、この都市もう捨てたって認識でいい?兵も残ってないし家屋もボロボロだけど」
「それでいいわ、魔法技術というのは知っている人がいれば再現はできるものだから。また別の場所でやり直すことができる。それなら土地ぐらい安いものだわ」
「羨ましいよ、その考え方が。で、君はボクと戦う?それとも戦わない?」
「戦わなくていいわ。お互いに無駄な戦闘はしたくないでしょ?」
「同感。じゃあ今回は顔を合わせるってだけでお開きにしよう」
「あら、私はあなたの顔を見れてないのだけど?」
両者の間に緊張が走る。ニーアから発せられる圧が増し、ボクもその勢いに飲まれそうになりながらも冷静さを保つ。
「それはごめん。でも公開するつもりはないからさ。この認識阻害の魔法、ボクでもどうなってるかわからないぐらい堅いから突破はおすすめしないね」
「忠告ありがとう。では今度会う時は殺りあいましょう。盛大にね」
「ええ」
そういってニーアはスタスタと転移ゲートを通って行った。
「ふう……流石に心労が溜まるよ。なんだよ魔法攻撃力20万って」
ティアより全然高いじゃないか。ボクも身体強化したら物理系はいくけどさ……。
「やっぱり、ニーアってやばいよな……」
間違いなくこの世界で一、二を争う魔法使いだ。少なく見積もってもティアとサラさんと同格、下手したらそれ以上ってとこだ。
そういえば、前にニーアの実績を聞いたことがある。
「確か……今までで一番多くの魔王軍幹部を殺してるんだっけか」
彼女は人間だ。だから寿命が魔族の人に比べて短い。けど彼女はこの世界に既に150年はいるらしい。なんでかって?それはメシア王国国王の力によって生きながらえさせられてるんだってさ。ボクも王様の力を具体的には知らないけど力の一つに寿命を増やすものがある。前借りではなく、ね。
だから前線にもずっと出てきていてボクら魔王軍幹部を殺しているんだって。恐ろしい話だよ、ほんと。