才能
「……ヴェラさんは返したわけだけど……ザック君。身の回りのことをしゃべってくれるかな?」
「いいけど……。僕は一応王国十二騎士なんだ。魔族に情報は喋れない」
「もう、意地を張っても意味ないのに。……じゃあ質問を変えようか。なんであんなに足が早かったの?」
「僕は生まれつき足が速い。それだけのこと」
「ふーん……。なんでだろう、ちょっとムカついてきた」
生まれつき、か。才能って妬ましいよね。
「え?」
「うーん、この子どうしようかな……。ザック君はどうして欲しい?」
「…お家に帰りたい」
「そっか。じゃあこうしようかな」
僕はフロレントを取り出しザック君の足を切った。
「あー、ごめん。殺すのはできないからさ、足だけ切らせてもらったよ」
「なん……で。僕の足は…?足がないよ!」
「そりゃそうじゃん。切ったんだもん」
「僕は君を信頼していたのに!魔族でも……いい魔族だって!」
強い目付きで僕を睨んでくる。
「残念ながらね、ボクは割と非情な方なんだ。ヴェラさんの方がまだ優しかったかもね」
顔が絶望に染まっていっているのがわかる。
「あはは。その顔、良く見せてよ。今すっごいいい顔してるからさ」
顔と顔を近づけて表情を観察する。
「はあー、いい気分になった。そんなところで刺激が欲しいな。君は魔術師だって言ってたけど何か打ってみてよ。ボクに向けてさ」
「え……」
「何?やらないと本当に殺すよ」
「本が……ないと」
「これのこと?」
地面に落ちていた本を拾う。多分殴った瞬間に落ちちゃったんだと思う。
「はい、あげるから魔法打ってみてよ。君の全力でさ」
「せ、<聖なる槍>!」
ボクに放たれたのは一本の槍。光属性を纏った厄介な代物だ。…魔族から見れば。
「でも、これは弱い」
ボクに槍が当たった瞬間に弾け飛んだ。粉々になりながら。
「残念。これはボクには効かない」
「なんで……?この魔法は魔族に効くんじゃ…」
「…それがね」
自身についていた認識阻害の魔法を解除する。
「ボクは人間なんだ」
「え…?」
「その表情もいいね。好きだよ」
「今なんて言ったの?君が…人間?」
「そうだけど。ボクは一応人間なんだ。だから光属性の魔法は効かない」
「なんで同じ人間が魔族に加担して……」
「さあ?成り行きってやつ?」
「人間に……殺されるのか…僕は」
「だね。情報を聞き出そうと思ったけど人間だって言っちゃったから殺さないとだからね」
「……絶対にお前を殺す」
「今なんて?声がちっちゃくて聞こえなかったんだけど」
「お前を殺す!絶対に!」
「あっそ」
ボクはフロレントでザック君の首を切った。首からは血飛沫があがりボクの服に飛び散った。
「あーあ。つまんないの」
今は死体になったザック君を見る。
「それにしても可愛かったなー!足を切った時の絶望の顔とか人間だって明かした時の反応とか!愛おしかったよ」
「名残惜しいけど、ナイロンと同じように首だけでも王都に送り返してあげるか」
ザック君の死体を漁り、王都に向かうはずの転移石を取り出す。
「じゃあね、ザック君」
そう言って首を王都に送ってあげた。
「……真面目に推理するならザック君は切り札だったんだろうね。ナイロンと同じぐらいの存在がもう1人、そんなサプライズをボクらに仕掛けようとしていた。多分狙いは本陣かな。この森はずっと行けば魔王軍の本陣の真裏に出るはず。その作戦はナイロンにも伝えられないほど極秘裏に行われていたけど、ヴェラさんに見つかった。そんなとこでしょ」
もう首もないザック君の方を見る。
「実際彼は魔術師だ。その足の速さを生かして火を本陣に放つなんて造作もないはず。でも経験が浅かったかなー。詰めが甘かったし」
さてと、この死体は燃やしておいて戦場の方に戻るとしますか。