謎の切り札
「<共鳴感電>。ふう…結構片付いたんじゃない?」
右側の戦場の王国軍約5万は既にボクと軍のみんなが片付けた。あとナイロンとその隊も。
「ラミア様!もうここの戦場は片がついたんじゃないでしょうか」
「だね。あとは君たちで相手の本陣まで突っ走っちゃって。ボクは他の戦場を見てくるから」
「わかりました。本当にラミア様のお陰で助かりました。お礼してもしたりません」
「そんな大袈裟な。ボクは魔王軍の1人として役目を果たしたまでだよ。じゃあボクは行ってくるから」
ボクが次に向かうのは左の戦場。あと通り際に中央の戦場も覗こうかな。
それにしてもナイロンかー。ボクのことはあんまサンドバッグみたいに扱ってなかったかも。多分そんなに鬱憤は溜まってなかったんだと思う。見ての通り家族持ちだし、隊でもそれなりに人気があった。ボクの中ではまあまあいい評価がついてるね。
「さてと、中央の戦場はどうなってるのかな」
見た感じは昨日よりちょっと進んだぐらい?相手の本陣にはあとちょっとって感じだ。このまま放置でも十分間に合いそうだね。
「じゃあ左の戦場は……」
「あれ?あんま動いてない?」
盛り返してはいる。けどいっても五分か微不利か。ここから見るに数はお互いに結構減っちゃってる。何が起こってるんだろう。ヴェラさんと魔剣士隊は送ったし。
急いで乱戦に入っていく。全部の戦場で乱戦となっているのは共通らしい。
「みんなどこだー?」
全然見当たらない。流石に乱戦を切り抜けるのはきついし…。
「しょうがない。<隕石>(メテオ)」
空から火を纏った石が落ちてそこかしこを粉砕していく。あ、魔王軍のみんなは巻き込まないように術式を組んでるからね?
「あれえ?おかしいな。本当に姿が見えない」
魔法によって敵は少なくなり見晴らしも良くなった。けどヴェラさんがいない。
「魔力探知」
全てが透ける魔力探知を使う。
「………どこ?あれ」
ヴェラさんの反応はある。まずは生きていることは安心だ。あと魔剣士隊のみんなの分も。けどバラバラになってるしヴェラさんに関してはよくわからないところにいる。
「詳しいことはあとだ。とりあえず魔剣士隊に合流しよう」
方角的には北西、距離は800メートル。
「ギルク。何があったの」
「びっくりした、団長か。それがな、ヴェラ様がどっかいっちゃたんだよ」
「どっか行ったっていうのは?」
「まずいことになるって言って走ってったな。あっちの方向に」
ギルクが指差したのはここから見て西の方角。
「そうか。わかった。ボクはヴェラさんを追いかけるけど何か話したいことはある?」
「特にはないですけど、強いて言うならみんな損耗が酷い。団長と違ってみんな体力がすり減っている。体力的にも、精神的にも」
「みんな!」
隊のみんなに呼びかける。
「右側の戦場は片付いたし、中央も決着が着きそうだ!だからこの左端の戦場が勝てば、ボク達魔王軍の完勝だ!だから踏ん張って、ボクもすぐ加勢するから!」
それを聞いたみんなは顔が良くなった。やっぱり笑顔が似合うよ、君たちには。
「ギルク、最後に置き土産するから離れてて」
「りょ、了解」
ギルクも察したのかボクから距離を取る。ギルクもよくわかってるね。ボクが危険だっていうこと。
「剣技 百式星斬」
ボクが行った技は簡単に言うと百連撃の剣。簡単に百人以上を斬れるから結構多用してる。
「じゃあヴェラさんを追うから」
「は、はい。相変わらず団長は規格外だぜ」
「ラミア様……かっこいい」
そんな声が後ろから聞こえた気がするけど急いでヴェラさんの方に向かった。
※※※
ちなみにだけどヴェラさんがあの乱戦を抜けたきっかけは大体分かってる。ギルクが言っていたようにまずいことになる元凶を仕留めに行ったのだ。
「ヴェラさんの近くに大きな魔力反応あり、か。……確かにあの反応を見るに強敵だね」
ヴェラさんがいるのは少し足場の悪いぬかるんだ森。光は入ってくるけど見通しが悪い。ぶっちゃけ、今から無闇にヴェラさんの方に向かって敵と会ったりしても困るしな……。
「そうだ。ヴェラさんに連絡取るか」
そう言ってポケットから連絡用の水晶を手に取る。ボクの家にもあるあの水晶ね。
「……ヴェラさん、聞こえてますか?」
「……何よこんな忙しい時に」
「ラミアですけど…今どのような状況ですか?」
「あー、ラミアね。こっちの状況は最悪と言ってもいいわ、私の前方に敵がいるんだけどいかんせん足が早くて捕まえられそうにないの。敵は魔術師、自分のことを十二騎士とは言っていたわ」
「了解です。今向かうので少し時間を稼いでください」
「ありがとうね」
その言葉で連絡が切れた。どうやら相当切羽詰まっているらしい。あんなに焦っているヴェラさんは初めて見た。
「それにしても十二騎士か……。ナイロンは自分の他にいないって言ってたんだけど…騙しやがったな」
十二騎士の魔法使いと言って思いつくのは第四席のヒカリと第二席のニーア。2人とも恐ろしいほどに強い。ボクでも危ういレベルだ。
けど彼女らとはまた違った魔力の質。別人だ。そうなると、ボクの知らないやつかなー。困った困った。実力はわからないけど七席よりは下のはず、だからまだ戦えると思うけど。
「新たな魔法使いか…いいね。楽しみだよ。ボクもいい加減ティア以外の人と戦ってみたかったし」
なんだかんだ言って結構ヴェラさんと近くなってきた。あれ、ボクの目の前から高速で何かが迫ってきているような……。
ヒュンッ!
「うわ、はっや!」
「ラミアじゃないの。こっちの方向にさっき言ってた十二騎士がきてない?」
ボクが呆気に取られているとヴェラさんが話しかけてきた。
「来ました……。けどあれめっちゃ早くないですか⁈あれをヴェラさんはずっと追いかけてたんですか?」
「そうよ、私は生憎魔法が不得手だから地形をどうこうってのもできなかったのよ」
「それは……ご愁傷様です。そんなことより、急いで追いかけましょう。逃げちゃいますから」
「そうね」
そう言って例の十二騎士が走って行った方向にボクらも走って行った。
「ヴェラさん、ここで二手に分かれましょう。ヴェラさんはそのまま追いかけてボクは先回りして捕まえます。お願いできますか?」
少し走ったところで提案をする。
「分かったわ」
「じゃあまた」
ボクは今持てる全ての力を足に集中させて走った。この状態になると自分でも制御が難しいし音よりも早く移動しているから聴覚に頼れない。まさに全集中だ。
けどこの風に当たっている感覚、これが堪らなく好きだ。生きてるって感じがする。
ヴェラさんが向かってくるであろう場所を予測してそこに回り込む。
対象はボクの方に向かってきている。気づいてもないはず。だからそこを捕える。
「お前だ!」
ヴェラさんとボクで挟み撃ちにして対象を捕獲した。
「ヴェラさんナイスです」
「ラミアもね」
今捕らえた十二騎士はぶん殴ったからか気絶しちゃっている。けれど軽く殴っただけなのでそんなに時間も経たないうちに目を覚ますはずだ。なのでその間に拘束魔法で縛っておいて、動きだけは封印しとく。
「結構小柄ですねー」
「ね。あなたよりも低いんじゃないかしら」
眠っているのは小さな人間の男の子。けど、多分かなり凶暴。顔に性格が滲み出てる。魔術師って言ってたけどどうなんだろ。
「ほら起きてよ。ねえ」
「んぁー…?」
「お、起きた。君は誰なのかな?」
「君は…魔族?」
「まあそうかな…?」
「何でだろう…顔が良く見えないんだけど」
「なんでだろうね。で、話してくれる?君は誰なのか、魔王軍としては知っておきたいんだけど」
「嫌だ、言いたくない」
「なんでよ」
「そこの……女の人が怖い」
ヴェラさんの方を指差す。
「私のこと?」
「こくり」
「はぁ……子供にも嫌われるなんて」
「何傷ついているんですか」
「そりゃ人間といえども子供に嫌われるのは嫌よ」
「そんな駄々をこねないでくださいよ」
ヴェラさんから視線を避けて男の子の方に向き直る。
「で、ボクも早く質問に答えて欲しいんだけど。君の名前は?」
「…‥僕はザック。十二騎士の第十席」
「すごいねー、その歳で十二騎士なんてさ、荷が重くてしょうがなさそうだよ」
「ちょっとラミア!何考えて楽しそうに話ししてんの」
「いいじゃないですか別に。ボクはちゃんと情報を聞き出しますよ。あ、そうだ。ヴェラさん、悪いんですけどうちの魔剣士隊のみんなを助けてくれませんか?」
「……はぁ、分かったわ。ラミアに任せた方が尋問は早くすみそうだし。私じゃ怖がられて何も喋らないものね」
「すいません。じゃあよろしくお願いします」
そう言ってヴェラさんは戦場の方へ戻って行った。