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不安と作戦概要

「悪いけど、ラミア以外はこのテントから出て行ってくれる?」


 出て行こうと後ろを向いた瞬間にそう言われた。


「い、いいですけど。じゃあみんなは先に行ってて。多分話はすぐ終わるから」


「わかりました。俺らは出て行くぞ」


 ギルクがみんなを引っ張ってテントの外に出てくれた。気遣いありがとうね、ギルク。


「ヴェラさん、人払いまでしてなんですか?」


「…ねえ、あの配置正気?」


「?ボクは至って真面目ですけど……。あ、ボクなら大丈夫ですって、腕には自信がありますから」


「違う、そうじゃなくてね」


「じゃあ何を心配して…」


「私とあの子達が組むってこと。色々不安なのだけれど」


「大丈夫ですよ。ヴェラさんが言えばみんな言うこと聞きますし。実力もそれなりにあると思います」


「……具体的にはどの程度?」


「えっと、ザルバトス相手に長い時間耐えてましたね。みんなが集まれば十二騎士下位なら倒せなくもないんじゃないですかね」


「そうねぇ……。仮置きは60点ってとこかしら。私が懸念しているのはよその子を預かるということなのよ。仮に死なせでもしたら……」


「それは気にしなくていいですよ、死んでしまったらそれは、ボクの指揮官としての技量の問題です。けど、ボクは彼らとうまくやっているという自信があります。この程度の戦場では死にません」


「すごい信頼ね。私にはできそうもないわ」


「そんなこと……あるかもですね」


「そこはないって言って欲しかった」


「ごめんなさい。素直に答えたらこうなっちゃって」


「あなたは本当に嘘がつけないのね」


 そんなことないですけどね。


「まあいいわ。そのことは心配しなくてよさそうだし。けど、なんかあなたの隊士たち私を怖がってない?」


「そうなんですよね……。なんでか聞いても口を割らないし、お手上げって感じですよ」


「でも避けられてる理由は想像に難くないわね。多分だけど、私の性格と二つ名を気にしているんだと思う」


「そうですか。確かヴェラさんの二つ名って『破壊』でしたよね。ピッタリじゃないですか」


「それね。おそらくは。一般兵の子は私を破壊の化身とでも思っているのでしょうね。別に私、部下に暴力とかしたことないのだけれどねぇ」


 そっとため息をついた。


「勘違いされている節はあるのかもしれませんね。特にヴェラさんは戦場にいる期間が幹部の中でもかなり長いですし、魔都の噂をどうこうできる感じじゃないですよね……」


「…まあ善処するわ。頑張ってあなたの部下とコミュニケーションをとってみる」


「お願いします。結構話してくれると思うので」


「引き止めて悪かったわね。それじゃあ、健闘を祈ってる」


「ありがとうございます。ボクも健闘を祈ってますね」


「ありがとう。それじゃあ、また勝って会いましょう」


 そう言って2人揃ってテントから出て、左右に分かれて歩き出した。それぞれの戦場へ向かって。



「ここかな。ボクの持ち場は」


 着いたのは割と広めの平原。ボクの通常時の視力では端まで見ることが難しいぐらい。


 そこでは結構な数の人で乱戦になっていた。確か魔王軍は3万、王国軍は5万とかだった気がする。でも明日には魔王軍は1万に減ることになる。中央に回すからね。


 だから現状維持だけでもボクは2万人の兵士と同じ働きをしないといけないってことだ。わぁ大変。


 そう思いながら周りを再度見回すと、疑問に思う集団があった。


 ちょっと試しに身体強化で視力を良くしてみる。


「多分王国側なんだけど……あの動き、確実に指揮官がいるな」


 基本どこも乱戦、主に個人で。でもその部分だけ組織的に動きがあって、数は1000ちょい。ちょっと多いかな。もっと言うなら装備もいいから村から徴兵してきましたって感じでもなさそう。ありゃあまあまあ厄介だぞー。


「早めに対処したいけど明日に回すことにするか。ボクが今日出ていっちゃうと対策されちゃうし。これはヴェラさんも理解しているはず」


 我慢するしかないなぁ。


 ………というかさ、この場にいる人間を全員殺したらどのぐらいレベルが上がるんだろう…!楽しみだ!ボク的には15ぐらいは上がって欲しいんだけどな。


 実は、レベルを上げたいからボク1人でこの戦場を担当するっていう意図があったりもした。出来るだけ人間を多く殺して、レベルを上げて、十二騎士にも引けを取らないような剣士にならないといけないからね。それがボクの今の立場にある責務だ。


 それともう1つ理由をあげるとするならば1人だとボクの力を思う存分解放できるから。ボクがステータスを全解放した状態で剣を振るったら味方を巻き込みかねないし。明日気をつけないとな。



「あ、あの…ラミア様でしょうか」


 声が聞こえてきた方を振り向くと、そこには可愛らしい女の子がちょこんと立っていた。


「うん、そうだけど……。ボクに何か用かな?」


「い、一応挨拶をしておこうと思いまして。つい先ほどまでこの場の指揮を担当していたものなのですが」


「君だったんだね。で、どう?戦場の雰囲気は」


「雰囲気、ですか?私としては割とどんよりしているかもしれません。夜になったら一定数こちらに帰ってくるのですが、皆顔が気だるそうになってます」


「ならちょっとした応援とかも必要か……」


「ラミア様が応援をしてくれるなら、兵士たちも喜ぶと思います!」


「ありがとう。それにしても、君何歳?不老の年になるには幼いように見えるんだけど」


「今22歳です。なのでそろそろ不老が来るんじゃないでしょうか」


 目の前の子はエルフだ。だから不老は一定の歳になったらくる。けど身長がちっちゃくて可愛い。ボクの方が年下なんだけど。


「そっか。でもその歳でこの場の指揮官を任されるということはそれなりに指揮系統に自信があるんじゃないかな?」


「少しは…。一応軍の養成学校で成績はトップでしたから」


「へー!すごいね!養成学校かぁ、行ってみたいなぁ」


「ラミア様がですか?」


「うん。ボクはこう見えてもまだ幼いからね、魔王軍の中では。だから学校に居る子達とも仲良くできると思ったんだけど……そんなことないかな?」


「いえ、仲良くできると思います。ラミア様が学校を訪問、幹部の方が来るというだけでもみんな大喜びだと思いますよ」


「そっか。だといいけど………。ちょっと話を戻すと戦線にいる人たちにはどういう指示を出してるの?」


「…単純に個々で殴れ、と。いかんせん、兵士が心酔するような方がここにはいなかったので」


 おお。その判断ができるのはすごい。兵士をまとめ、上手に指示を実行させるには誰か先導できるような強い人物が必要不可欠になるが、魔王軍の場合准幹部か幹部がその役割を担っている。そして、もし無理に先導役が不在の中命令を実行させようとしたら、魔王軍内で争いというか派閥ができてしまうこと間違いなしなのだ。准幹部の次の位は上位兵士だが、彼らはどの戦場にも2桁ほどの人数がいる。イメージすればわかると思うけど、そんな人数の先導が居たら兵士たちが誰について行けばいいのか分からない上に、そもそもその人物が十分信頼できるのかという点も疑問となってしまう。船頭多くして船山に登る、だったかな。要するに指揮官は多すぎてはダメってことだ。


 なのでさっきまでは単純に個々で殴るみたいな命令しか出せなかったのだろう。それにしても、このように判断をすべきというのはこの子はどこで知ったんだろうか。軍師だから実際の戦場に乗り込んで、その場の空気を肌で味わうなんていうことは難しいだろうし。やっぱりこういう空気とか雰囲気っていうのは軍師がいる所からでは感じられないことなので、教わるのはそれこそさっき言っていた養成学校なのだろうか。


「それは正しい判断だね。でもさ、あの王国軍の中隊。どう対処すればいいのかな。あの部隊の練度は100点とは言わないけど相当レベルが高い。きっと優秀な指揮官があそこにもいるんだろうね」


「そこにも…?」


「うん。こっちには君という素晴らしい指揮官がいるじゃないか」


「……あまり…褒めないでくださいよ」


 顔が赤くなってる。ちょっとからかいすぎたかな。


「話を戻すとあの部隊、個々で突破するのは難しい。だから一旦は放置しておこう。どうせ、今日は夕暮れまでもうすぐだし。今からどうすることもできないよ」


「そ、そうですか……」


「でも安心して。君の指揮に不備があったわけじゃない。単純に相手の方が持っている手札が多かっただっただけだ。能力的には劣ってないからね」


「ありがとうございます。しかし、どうやってあの隊を潰しましょうか」


「そこはボクの出番でしょ。あの隊はボクが引き受ける。君たちは手出し無用だ」


「先ほど単独では突破が難しいとおっしゃてたじゃないですか」


「大丈夫。自分に自信があるわけではないけどあのぐらいじゃ負ける気がしない。仮に王国十二騎士がいたとしても」


「十二騎士がこの戦場にいるのですか?」


「さあ?そこはボクも知らない情報だ。でも不自然には思うよね。中央の戦場は魔王軍が圧倒的に優勢なのに、両端は結構押されてるってこと。多分だけどこの戦場と左端の戦場、そこに十二騎士がいる。下位か上位かは知らないけど」


「その可能性は十分にありますね……」


「そいつらに対処できるのは最低でも幹部か准幹部上位の実力を持っていないといけない。この場にいる人だとボクだけでしょ?だからあの部隊はボクがやる。繰り返しいうけど手出しは無用ね」


「わかりました……」


「ありがとう、じゃあ下がっていいよ」


「ではまた」


 そう言ってその子は自分の持ち場らしきところに戻っていった。



「はあ。とりあえず対処は考えておこうかな……。流石に負けたらやばいし」



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