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作戦会議

いつもより長いです。

「はぁ。久しぶりに来た……と言うわけではないか」


 来たのはおそらくモンスーンの帰り以来。だからそんなに長い間きていなかったわけではない。


「ヴェラさーん!」


「お、ラミアじゃないの。体調は大丈夫なの?」


「お陰様で。記憶を取り戻すのにそんなに時間が掛からなくてよかったです」


「そうね。でもまあ、私たちが担当する戦場はちょっと押されてしまってるみたいだけど」


「そうですか……」


 その原因はおそらく、ボクらの隊が行けなかったからだろう。元々ボクらの隊とボクだけでその戦場を担当することになっていて、ヴェラさんはペアと言っても近くの戦場の指揮をするだけの予定だった。けれどボクが記憶を失っちゃってたから加勢には行けず、その補填としてヴェラさんも共に行くことになった。ボクのせいで何人の兵士が死んだか…申し訳ない。


「じゃあボクは自分の隊のみんなに挨拶してくるので。少し待っていてください」


「わかったわ」


 そう言ってボクはヴェラさんとちょっと距離がある位置にいたみんなに声をかけた。


「おはようー。みんな大丈夫だった?」


「おう!俺はバッチリだぜ、団長」


「それよりも、団長。なぜ特訓ができなかったのですか?」


「えっと……」


 実は隊のみんなには記憶を失ったことは言っていない。理由としてはいくつかあるけど主には情報漏洩のことを危惧して。


 仮にボクが倒れていたということを伝えてしまったらそれは幹部未満の人に伝わるということだ。ボクはみんなを信頼しているとはいえ、幹部の方以外に話をするのはそれなりの意味を持つ。まあ簡単に言うと、極秘事項ってやつだ。


 魔王軍においての極秘事項は幹部の人しか知らない情報のこと。それにボクの記憶喪失の件は分類された。


「いやぁ、まあ色々あって魔都にいなくてね。どうしても特訓できる状況になかったんだ。ごめんね」


「……魔都の外に用事、ですか。まあ深くは詮索しませんが。ラミア様がそういうならそれが事実なのでしょう」


「ごめんねミーナ。心配かけて」


「…いえ」


 ここ最近、主にミーナが過去の話をしてくれた時から対応が随分優しくなった気がする。心なしかメンバーにも笑顔を向けることが多い。


「あ、そうだ。一つ聞きたいんだけどなんでみんなヴェラさんと距離を置いてるの?てっきりみんな楽しく話してるんだと思ってた」


「そ、それは…」


「ん?どした?ヴェラさんになにかされた?l


「そんなことはないんだがな…」


「じゃあ何があったのさ。普段のみんななら結構ガツガツいくじゃん。初対面な人にも失礼なほどに」


「し、失礼ってなんですか⁈」


「いいから、いいから。で、理由は?」


 メンバー同士が顔を見合わせ沈黙が流れる。


「…みんなが言わないなら私が言う」


 前に出てきてのはミーナだった。


「実はですね。私以外のやつ、ヴェラさんのことが怖いんですよ」


「怖い?そりゃまたなんで」


「さあ?それは私には理解しかねますが」


「はぁ。みんなヴェラさんが怖い理由がボクには分からないけど、せめてコミュニケーションをとれるぐらいにはなっておいてよ。戦場で喋れないのは負け確定だから」


「「「わ、わかりました……」」」


 本当に、よくわかんないよ。


「ヴェラさーん!転移しようと思うんですけどいいですか?」


「もちろんよ」


「じゃあみんなボクを中心に円になって」


 指示通り、ボクを囲むように円陣を作る。


 それを確認したボクはポケットに忍ばせておいた転移石を使って戦場に転移した。



※※※



 転移して最初は絶対に周りの安全を確保する。これは鉄則。


 で、安全が確認できたら次はテントに入る。主に上級士官用の。


「あーあ、これから当分ティアと会えないのか……」


「テントに入って第一声がそれなのね…。あなたは本当にミーティアが好きなのね」


「もちろんですよ。ボクの親友ですからね」


「…それもそうね。まあ一旦ミーティアのことは置いといて」


 ヴェラさんが宙に何かを置くそぶりを見せる。


「今後の作戦を話し合いましょう」


「はーい」


 隊のみんなも続々とテントに入ってきた。


「よし。全員揃ったみたいだし、ちょっと今後のことを話そうか」

 

 広げてあった周辺部の地図を指差す。


「まずはじめにこの場所から。ここはメデア平原という場所で、勇者が来るんじゃないかと予測されている戦場の1つ。というか、今回魔王軍は勇者が現れると予想される場所に幹部を送っているからどれかにはヒットすると思うんだけどね」


 勇者の出現について我々魔王軍は非常に慎重になっている。そのことは今の魔王軍幹部の配置にも現れていて、勇者が来ると思われる場所に全員を配置している。これは勇者による魔王軍の被害を抑えると同時に、勇者のレベルアップをさせないためでもある。勇者というのはレベルとステータス上昇の割合が普通とは異なり、一般人の3倍ほどのスピードで成長する。なので1人やられるだけで、経験値の入り方は3人分に匹敵してしまう。そんな奴に何人も殺されては、後々の戦場で苦しくなってしまうことは明白だった。


「で、今の戦場の様子についてだけど実はボクもよく知らない。だから…君、説明を頼める?」


「は、はい」


 ボクが指名したのはボクらより前にここに来ていた士官。このテントに入れているということはそれなりに地位は高いんじゃない?っていう勝手な予想。なお、知らなかったらどうしようかは考えていない。


「現在、我ら魔王軍と王国軍は拮抗しています。……と言っても、それは建前で3つある戦場のうち2つは前線がかなり押されています。具体的には我々の防衛ラインが2つ、瓦解してしまいました。しかし残る1つは逆に押していて相手の防衛ラインをかなり破っていると伝達が入っています」


「なるほど。その優勢なところはどこの戦場?」


「真ん中です」


「そうか……。ありがとう、下がっていいよ」


「失礼します」


 んー、この子がしっかりしててよかったー。説明もうまくて助かる。


「でもまあ、状況は芳しくないね」


「そうわね、せめて真ん中以外で攻められていたらねえ」


「ですね」


「ん?どういうことすか?」


 口を開いたのはギルクだった。


「えっとね、まず両端が取られている深刻さは理解できる?」


「それはまあ。本陣が挟み撃ちにされたらピンチになりますよね」


「そう。それが問題なんだよ。いくら真ん中を突き破っているとはいえ2つの隊がこちらに迫ってきているのはまずい。さらには両端。せめて真ん中ともう片方だったらマシだったんだけどね…」


「何が違うんすか?取られている戦場の数はそれだと変わらないですけど」


「たしかに、不利な戦場の数はどちらの場合も2つ。けどその特徴が違う。仮に真ん中とどちらか片方が取られていた場合。敵は一方向からなだれ込んでくるからそれを防ぐのは難しくない。その一点に戦力を集中させれば耐えれるはずだし、最悪の場合空いているもう1つの戦場から逃げればいい。でも両端が取られている場合。ボクらは戦力を2つに分ける必要が出てくるけど……それはまあ、厳しいよね。2人で2隊を相手するより、1人で1隊を相手する方が辛いから」


「なるほど…」


「じゃあ本題のこの状況を打破するにはどうすればいいかなんだけど……」


「どうすれば……?」


「ボクにもわかんないや」


「「「ちょっと!!!」」」


 一斉にツッコミがとぶ。


「あはは。でも実際、打つ手がないんだよね。どう思います?ヴェラさん」


「そうねえ……。私は3つの戦場、どれも捨てない方がいいと思うわ」


「なんでですか?」


「それだと犠牲が多すぎる。さらには勝てる可能性も低くなるし」


「……じゃあ、しょうがないんで戦力を3つに分けますか」


「そうしましょう」


「配分どうします?ボクまだ1つぐらいしか案がないんですけど」


「あなたに任せるわ。私、こういう軍師みたいなこと苦手だもの」


「そうでしたね……」


 実はヴェラさんも相当な脳筋戦士。正確には本能に従ってる。ヒリアさんとカルタさんみたいなタイプだ。その場のノリとかいうやつ。


 だからハマれば強い。けど頭を使わないといけない時は無策に突っ込んでバイバイのパターンが多い気がする。


 でも、幹部になれる実力を持っているため実際は勘が働いて罠を全部避けていくし、そのモードに入ったら誰も迂闊の攻撃はできない。それがヴェラさんの強みだ。


「…ボクの案はこうです。中央の戦場はこのテントにいる者たちでは加勢しません。代わりに両端にいる兵士達を一定数中央に充てます。それによって真ん中の戦場は最後まで突っ走ってもらい、彼らによって相手の本陣を落とします。で、次に左側の戦場。そこにはヴェラさんと魔剣士隊が行って、残る右側の戦場。そこにはボク1人で行きます。これがボクの案になりますが……異論は?」


「ラミア、あなた右側の戦場を1人で片付けるつもり?こう言ってはあれだけど、今戦場に出ている兵士は疲労して対して使えないわよ」


「わかってますよ。でも大丈夫です。ボクならやれるんで」


「でも……」


「いいですから、なんてったってボクはペンタグラム筆頭なんですよ?そこらの雑兵には負けませんよ」


「……そこまで言うならいいわよ」


 堂々としていれば大抵の物事は通る。これも処世術の1つだよね。


「ありがとうございます。みんなはこの案に異論ある?」


「…ねえけどよ」


「大きな問題はありませんが、指揮は誰が?」


「そりゃあギルクでしょ。だってヴェラさん、指揮とかしたくないでしょ?」


「そうね、ラミアは私に対する知見が深くて助かるわ」


「それほどでも」


「では、ギルクさんが指揮をするということでいいのですね?ラミア様」


 ミーナが確認してくれる。


「うん。ギルク、できるよね?」


「も、もちろん!団長がいない戦場はちょっと寂しいんだけどな…」


「もう全く」


 場の空気がまとまってきたところでヴェラさんが動き出した。


「そうと決まれば早く移動してしまいましょう。それぞれの配置にね」


「オッケーです。じゃあボクは最初に……」


「悪いけど、ラミア以外はこのテントから出て行ってくれる?」


 出て行こうと後ろを向いた瞬間にそう言われた。



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