報告と怒り
「……うーーー。やっと体で動けるー!」
「…ミアだ!」
「おっと。抱きつかないでよ。最近ただでさえハグする機会増えたんだからさ」
「だって、だってミアが失われちゃうかもしれなかったんだし……。そうしたらもう会えないって……」
目に涙を浮かべながらのハグは心にくるものがある。ボクのせいでこんなに心配させ、ティアに苦労をかけさせたこと。その事実がボクにのしかかっている。
「そんな気負わないでよ。ね?ボクは戻ってきたんだ。ここにさ。だから落ち着いて」
「…うん」
「はあ。まあ、ボクが戻ってきたとはいえ、問題は解決してないんだけどね」
「?どういうこと?」
「ボクがどうして記憶を失った…正確には、なぜボクの人格が分裂したのか。それがまだわかっていない」
「そう言われれば……」
ティアはピタッと泣き止み、ボクの顔を下からのぞいてくる。そのアングルはずるい。ティアの顔が可愛すぎる。
「でしょ?ボクが知っているのは毒に気づいてティアを庇ったところまで。それ以上は何も覚えていない」
「毒が回ってたんだ……」
「あれ、気づいていなかったの?」
「う、うん。私が気づいたのは廊下でミアが私の隣で倒れてるところからだもん」
「そうなんだ。えっとね、時系列順に話すと、まずボクが起きようとした矢先に、ベッドに毒が盛られていて出血が始まった。異変に気づいたボクは急いでティアの部屋に行くと、毒が充満しているのに気づいて部屋の外に連れ出したんだ。で、ボクは部屋の外にティアを運んだところで力尽きて倒れたってわけ」
「私はその倒れたミアを発見したのか…」
「多分ね。で問題は、その毒の正体と誰がいつどうやってその毒をこの家に持ってきたかだ」
「それは私たちだけじゃ分からなくない?どうしても軍の力が必要になる」
「だね。だから魔王様に相談しないと。あとボクの記憶が戻ったっていう報告も」
「そうと決まれば早く行っちゃおう。魔王様も結構心配してたから」
「はーい」
※※※
「魔王様ー!」
「この声は……ミア⁈記憶は戻ったのか?」
「お陰様でね。結構心配かけっちゃったみたいだし」
「…ラミアの馬鹿…」
「…?今なんて言った?」
「馬鹿かお前は!なに記憶無くしといて良く飄々と来れるんだ?我が…どれだけ心配したことか…」
「それは…ごめんね。でも別にボクの意図的な記憶喪失じゃないしなんとも…」
「わかっている。でもこれだけは理解してくれ。大勢の人が、お前のことを心配していたんだぞ」
…それだけ、愛されてるってことでいいのかな。
「ごめんね…。ほらお返しに」
魔王様をハグする。ボクの方が少し身長が高いからハグしやすい。
「ちょ、やめろ」
「無駄だよ。ボクの筋力は理解してるでしょ?」
「くそっ。この筋肉馬鹿が」
「あー怒っちゃった。もっと抱きしめてあげる。ほらぎゅーっと」
「流石にそれぐらいにしておけ。お前の恋人が嫉妬の目を向けているぞ」
「?ティアのこと?」
「そうだ」
「え、ティア?もしかしなくてもウーロンのこと言った?」
「………」
「目、逸らさないでよ!言ったの?」
「…う、うん」
自分の体温が急激に高くなっていくのがわかる。脈も心なしか早い。
「いい加減、お前はティアの問いに答えたらどうなんだ?」
「問いって?」
「その〜…船の上のこと」
「あ、あれは……。いつか返すからちょっと今は待って!お願いだから」
「もう十分待ったと思うんだけど?」
「まだ、もうちょっと。せめて勇者を殺すまでは……」
「言ったな?」
「言ったね?」
「え?」
「言ったからには約束を守ってよ」
「ああ、ペンタグラム筆頭が嘘をついたとかいう噂が広まってもなあ」
「えっと、もしかして仕組んでた?」
「まさか。ねえ、魔王様」
「ああ。仕組んでなんかいないぞ」
あ、これは完全に仕組んでたやつだ。くそぉ、してやられた。
「そのためにも、ミアが記憶を無くしていた分働いてもらわないとな」
「…ええい!わかったよ。前線で暴れて来ればいいんでしょ!」
「そうだ。頼んだぞ」
「頑張ってね。私も別の場所で戦ってるからさ」
「うう…。ティアがいない場所にいくの嫌だよー。」
「もう……」
「全くだ。このティア好きめ」




