自分ってなんだろう
ラミア目線です。
私は今……よくわからないところにいた。
近くには私よりも年上であろうお姉さんが2人。そして私はベッドに横たわっている。部屋は綺麗で見た感じ結構いいところだ。村ではないのは確定だが、どこかは見当もつかない。
お姉さんたちによると、倒れているところを見つけてここで看病してくれていたらしい。
けどおかしい。倒れた直前の記憶が全くないから。本当に倒れていたのかもわからなかった。
お姉さんたちが出ていくと、部屋には私1人になった。周りは静かで何も音が入ってこない。窓もなかったから外の景色もさっぱりだ。
そうして不思議がっているとさっきのお姉さんの声が聞こえた。
「……んね。<スリープ>」
その声を皮切りに、私は突然の眠気に襲われてベッドに倒れ込んでしまった。
※※※
「……あ、ようやく気づいたんだ。おはよう。ボクのこと、わかる?」
目を開けると視界に入ってきたのはどこかで感じたことがあるような雰囲気を持つお姉さん。周りは真っ白と真っ黒が入り乱れているような言葉にできない空間が無限に広がっている。
「あなたは…誰?」
「んーと、ボクは君で、君はボクだ」
「何を言っているんですか?」
思わず聞き返してしまった。
「だから、ボクと君は同じ人物なの。ボクをよく見て。君と似ていると思わないかい?」
言われてみれば風貌は似ている。髪の色も、目の色も。けど身長は違う。そこにある身体は全くの別物だった。
「風貌だけは……似ているかもしれないです」
「それにしても、自分のことを第三者視点から見られるなんて面白いこともあるもんだね。全く同じのドッペルゲンガーだ」
「全く同じ?私たちは身長が違いますが……」
「そんなことはないよ。だってボクたちの視線は同じ位置にあるじゃないか」
「?私から見たらあなたは私より身長が高いですが」
私からすれば10センチは高い身長だろう。見上げている感じだ。
「あれー?ちょっと見えてる世界が違うのかな。でもボクの声は聞こえてるんでしょ?目の前にいるという感覚も」
「それは……そうですね」
「実体があるならいいや。というか昔のボクは一人称が私だったっけ?まあ、ボクは君で、君はボクということはわかった?」
「分かったとしても……受け入れたくはありません」
「ちょっとその敬語むずむずするな。その敬語やめてくれない?」
「敬語…?」
「敬語がわからないのかこの頃のボクは…。えっと、じゃあ君の妹と話す時と同じ感じで喋ってよ」
「こういうこと?」
「そうそう。それがいわゆる友達言葉だ。やわらかい感じがしない?」
「確かに……」
「その感覚がわかったならいいよ。で、ボクと君は同じ人物なんだ。けど身体はボクのだけど中身は君。少しおかしいと思わないかい?」
「矛盾しているね」
「でしょ?だから一旦この体をボクにくれないかな?というか、元々ボクの体だし」
「仮に渡したら……私はどうなっちゃうの?」
「多分ボクに吸収される。ボクの過去としてね。ボクは君の未来の姿なんだ。未来は過去を吸収する。そんなもんでしょ?」
「そんなもん、なのかな」
「そうだよ、そんなもんだよ。君の中にも過去が詰まってる。自分の中に問いかけてみなよ」
言われた通りに自分の中に目を向けてみる。思い出されるのはフィルムのような記憶。昔の記憶だ。
川で遊んだり…山で生き物を狩ったり…妹と遊んだり。
「今きっと君は過去を見ているはずだ。未来のことは見える?」
「見えない…」
「だろう?だから君を構成しているのは過去なんだ。それはボクも同じ。けどボクの過去は今目の前にいる君だ。つまり抜けちゃってる。これはまずい状況なんだ」
「まずい…ね。自分を保てなくなる」
「そ。だから君はボクに吸収されて欲しいんだ。でも、今はそれができない」
「なんで?」
「実はね、ボクと君以外にも存在するんだ。ボクの過去が。時系列的には君が最初でボクが最後かな。真ん中が抜けちゃってる」
「私の……近い未来」
「そうなるね。だから君にはボクの記憶の欠片をとってきて欲しい。そうすれば、ボクはひとりの人間として生きることができる」
「……協力する。けどどうやって記憶の欠片を探すの?」
「うーん、多分探すこと自体は難しくないよ。ただ単に街に出ればいいんだ」
「街?」
「うん。今は詳細を言えないけどボクらがいる部屋はその街の一部だ。だからこの部屋を出て外に行く。そうすると何か思い出すかもしれない」
「つまり記憶を取り戻すことができる」
「そう」
「…………最後に、1つだけ聞いてもいい?」
「なに?」
「私は……君を信頼していいの?」
「もちろん。と、言いたいけどそれは君次第かな。ボクは君と同じ人物だから自分の性格は理解している。疑い深いのもね。だからなんとも言えない。けど、今までの会話で何か疑うような材料はあった?」
「…不思議ではあっても、疑いはなかった、かも」
「でしょ。なんなら自分じゃないとわからないことも知っていたはず。なら一旦はボクは君だということを前提として動くべきなんじゃないかな」
「分かった。街に出ればいいんだよね?」
「そう。できたら街に出るまで誰にも見つからない方がいいかも。かくれんぼは得意でしょ?」
「まあ、ぼちぼち」
「じゃあ出来るね。街に出て思い出したら路地裏とかに入って。人目のつかないところに」
「分かった」
「じゃあそろそろ時間だね。また記憶を取り戻したら会えると思うから、それまではバイバイ、かな」
「さような…………」
※※※
「……あれ?ここは?」
周りを見るとさっきの光景はなかった。
「はあ、別れの挨拶を出来なかった…」
小さくため息をつく。
「本当に信じていいのかな…」
実際、彼女が言うように疑う理由はなかった。けれど信じる理由も薄い。
「だけど助言はあれだけだし、信じることにしよう」
これが仮に騙された結果だったとしても、私は後悔しないはずだ。
「とりあえずはこの部屋から出て……って、なんで私は拘束されてるの…?」
そう思いつつも無理やり拘束を外す。別に痛みも感じなかったし、多分大丈夫のはず。
ベッドから出て、この部屋の扉を開ける。靴を履き慣れていないためどこか足に違和感があるが、別に外すほどでもないかな。
扉をくぐり、部屋から出て最初に思ったことは1つだった。
「広すぎない……?」
長すぎる廊下。端っこまでギリギリ見渡せるが、この長さだと中々に出るのに時間がかかりそうだ。
「でも走ればいっか」
そう言って足に力を込めた。
「あれ?いつもより体が軽い気がする」
明らかに普段の自分よりも足が速い。普段ならば風を切る音など聞こえないが、今なら耳に心地よく入ってくる。これなら熊も簡単に仕留められそうだ。
「ここが出口か」
ついたのは廊下の先にあった大広間のような場所。かなり豪華な作りの大広間だが、私の目にはそこまで留まらない。それよりも気になるのは目の前に門があることで、そこには何人かの人がいた。
「かくれんぼは得意、のはず」
忍足でそろそろと門をくぐる。幸い、人には見つからなかったようだ。
「よかった…。えっと…とりあえず真っ直ぐ行ってみるか」
門を抜けた先にあったのは大きな橋。今まで見たことがない規模の橋でちょっと戸惑う。
「この橋を人に見つからずに渡るの…?でも全速で走ればなんとかなるのかも…」
まあノリというやつだ。その場の自分の気持ちに従って足に力を込める。
「やっぱり、私足速いのかな?」
まあまあな数の人が話したり、剣を持ったりしていたにも関わらず全く認知されなかった。
「とりあえず、関門はクリア。このまま真っ直ぐ進んでいけばいいはずだけど……。ウッ!」
急な激痛が頭に広がる。
どこかで見た景色。この家々、この区画。明らかに私が住んでいるような家ではない。建築様式も違う。けど、どこかで見たことがあるのだ。
記憶の中を探ろうと思っても何かバリアのようなもので遮られる。そしてそのバリアを越そうとするたびに激痛が走る。
「この家……。ここは幹部たちが住む住宅街。って、この知識は何…?」
幹部?なんの話だ?全く検討もつかない。
「だけど、この知識があるってことは未来の私に何か関係しているのかもしれない」
この場に留まってもよかったが長い時間いると頭に再度激痛が走ったので急いで街の方に向かう。
「私の体はどうなっているの…?」
街に行きたい、と思っただけなのにその方向に体が動く。
「えっと、今日買うべきものは……って、あれ?」
「私は今何を考えた?」
街に来た、それだけのことなのに何か変なことを考えている。買うべきものなんて、ないはずなのに。
「よくわからないよ……」
街の真ん中で立ち尽くしていると、いきなり声をかけられた。
「あら、ラミア様じゃないの。今日は何をしに街へ来たの?」
「あなたは……」
思わず、声が聞こえた方向に体を向けてしまった。どこか懐かしい、温かい声。
しかし視界から入る情報は完全にそれを遮断していた。
まず身長は同じぐらい。年をとっているのもわかり、顔には皺が入っている。
けれど問題は耳だ。私が見たことない耳の形。やけに細長く明らかに自分のものより大きい。
「なに…これ…」
「どうしたのですか?」
周りを見ると、そこにはさまざまな人がいた。人型の生き物はいる。目の前のおばあさんもそうだ。しかし、頭部に角を持っている人もいる。
そして時々、明らかに異形の見た目をした何かがそこら辺をうろつき回っている。背は高く横幅も大きい。肌の色もさまざまで茶色っぽい色から白、青と黒を混ぜたような色。何もかもが気持ち悪かった。
「これは…………私が知らない街…」
極め付けは実体があるかどうかも怪しい細身の者。顔は骸骨のような見た目をしているような人間の顔をしているような感じで、その周りには邪悪なオーラが流れ出ていた。
「悪、魔……?」
ここでまた、頭に激痛が走った。さっきとは比べ物にならない、人生で味わったことがない痛み。
「嗚呼!痛い、痛いよ!」
思わず地面に手をつく。
「ラミア様⁈落ち着いてください」
鎮まるんだ。まずは助言通り、路地裏に逃げ込む……!
今日3回目となる全力疾走で路地裏の中でも奥の方に逃げ込んだ。
「はぁ、はぁ」
痛みはまだ収まらない。まるでトンカチで頭を殴られたような痛み。
「でも何かを、思い出せる気がする……!」
私は今、先程拒まれた記憶のバリアと戦っている。この痛みを越えれば、一緒にバリアも無くなるはず……!




