ステータス
「ここですね」
ヴェラさんに連れてこられたのは魔王城の最奥。魔王城の廊下から黒を基調としていてあまり明るい雰囲気はなかったのだが、この最深部に来てからはより一層暗くなり、禍々しいと言う言葉が脳裏をよぎるほどだった。
トントントン
「魔王様、勇者を連れて参りました」
ヴェラさんが扉を叩き、かしこまった声で挨拶する。
するとそれに答えるかのように内側から衛兵が出てきて扉を開放する。
扉が開いたのを確認するとヴェラさんが前を歩き、ボクもそれについていく。
なんだろう、この寒気っていうのかな。何かに見られてるっていう感覚。その感覚は何にも形容し難く、前へ歩けば歩くほど強まっていった。
「君が勇者君だね?」
不思議な感覚に浸っていたボクに声をかけた人物。
「はい……」
「そうか、君が……」
そう言われてじろじろと観察される。
…………魔王様いや、幼女に。
……え、もしかして魔王様ってこの子?ボクとあまり歳変わらないよ?なんなら声が高くてボクよりも幼く見えるほどだよ?本当にこの子が魔王様なの?
「なるほどね。勇者の力見せてもらった」
「?あのー、ボクは何をされたんですか?」
「なんだ?気づいていなかったの?あんなに露骨にステータスを覗いたのに」
「ステータス?」
「そうステータス。……ステータスってわかるよな?」
「………知らないです」
「嘘でしょ?!ねえサタン、勇者ってそういうことも知らないの?」
先ほどまで玉座に座っていた魔王様だったが、驚きのあまりか思いっきり立ち上がりサタンさんに問う。
「さあ?この様子だと本当に知らないんでしょうね。そういえば、確かに勇者のステータス関係って聞いたことなかったな」
「そうなのか。人間はそんなことも教えなかったのか。はぁー。なんか驚かされちゃった」
冷静さを取り戻した魔王様はポフッと可愛い音をたてながら椅子に座り直す。
「まあ後でステータスの話はするとして、君はどうしたいの?」
魔王様がボクに問う。先ほどとは違うシリアスな声で。
「どうしたい、ですか。それはまた漠然としていますね」
「そうだな。聞き方を変えよう。君が思い描く未来は、どんなものだ?」
「ボクが、ボク自身の手で、ボクを裏切った人間に復讐をしたい。生まれてきてから今日までボクに関わった人間を全員殺す。それが思い描く未来です」
「そうか。ならば我々魔王軍は君を、勇者君を歓迎しよう。共に人類に復讐を誓う同志として」
魔王様が小さくも、はっきりした声で宣言した。
「……ところでステータス知らないってマジ?」
「マジですね。なんですか?その『ステータス』っていうのは?」
「ステータスっていうのはね、簡単に言うとこの世界における『強さ』を数値化したものだよ。君は8歳から10歳ぐらいの時に頭の中で何か音が鳴らなかった?」
「……鳴った気がします」
「その音の正体がステータスが授けられましたよっていう合図だ。ステータスは主に4つに分かれていて、<攻撃力><速力><魔力><防御力>だ。あとは職業だったり、スキルだったり、特性があったりと人によって違うね。どう?わかった?」
「なんとなく…。というかいきなり話し方変わりませんでしたか?」
「気のせいだ。…まあ今はなんとなくでいい。存在自体を知っていればどうとでもなる。これはさっきも言ったようにこの世界での強さ。つまりこれが高い相手は必然的に強者となる。君が想う未来にも強く関わってくる戦闘する上では欠かせない判断材料の一種だ。この世界では1万に乗ったら強者、魔王軍だと幹部ぐらいの実力になる。だからまずはそこを目指してみよう。『復讐』という大舞台に乗るにはある程度の準備が必要だろう。それはともかく、「ステータス」と唱えると目の前に自分のステータスが出てくるはずだ」
ボクは言われた通りに「ステータス」と唱える。すると目の前に実体があるようでない不思議な透明の板が現れた。
ボクが自分のステータスを開示すると、隣から魔王様やサタンさん、ヴェラさんも一緒に見てくる。
名前 ●●●
職業 喪失中
レベル 12
<物理攻撃力> 6000
<魔法攻撃力>4000
<速力> 6000
<魔力> 3000
<防御力> 5000
スキル 剣術レベル8
特性 なし
どうなんだろう。一見すると割と強いように見えるけどな。どうにも判断基準にかけるからいまいちわからない……
ステータスを一読すると、隣には何も喋らない壊れた人形のような3人がいた。
「どうしたんですか?これってどうなんだろう強いのか弱いのか教えてもらえると助かるんですが………」
「「「…………」」」
「なんで何も喋らな……」
「嘘でしょ?」
「え?」
「嘘でしょ⁈何このステータス?<攻撃力><速力><魔力><防御力>が全て4桁?この年で?このレベルで?マジで意味がわからない」
「共感です。私がこのレベルのときは4桁に乗ってるか乗ってないかぐらいで、それでも強かったから街で自慢しまくっていたのに……」
「<物理攻撃力>と<速力>が6000?これは異常よ、異常!これだと魔王様よりも強いんじゃないですか?」
魔王様、サタンさん、ヴェラさんの順に各々反応していってくれる。なんか1人、昔自慢していた人もいたけど…。
それにしてもみんなの反応を見るにボクのステータスはそこそこ高いらしい。
「ボクの歳ぐらいのステータスってみんなどのぐらいなんでしょうか?」
「そうだなー。この歳までにどのぐらい鍛錬を積んできたかにもよるが大体100前後じゃないか?」
「そうですね。レベルが10前後の時はそのぐらいかと」
「つまりお前は異常だ」
「そうなんだ…。……ところでこの職業ってなんですか?」
ボクはそう言ってステータス欄の職業の欄を指差す。
「ああ、職業は簡単に言うとバフのようなものだ。その職業のなると一定の効果が得ることができる。職業はさまざまなものが存在していて、それぞれの職業には特殊効果がある。例えばそこのヴェラの職業は『格闘王』と言ってその能力は『肉弾攻撃の威力増加』と言うものだ。簡単に言うと体を使った攻撃の威力が上がる強力な効果だな」
なんか腑に落ちた。さっきのサタンさんへのパンチってこれのせいで威力が上がってたんじゃない?それは痛そうだ。
「だから職業を設定することのメリットは非常に大きい。だから君も何か選ぶべきなんだけど……何かお望みの戦い方とかってある?」
「んー、ボクはやっぱり剣で戦いたいかもです。一番しっくりくる戦い方ですね」
「じゃあ『魔剣士』なんてどうだ?『魔剣士』は『武器攻撃強化と魔法威力強化』と言う能力を持つ、トップクラスの職業だ。ただ剣と魔法というものに適性が必要だから選べる人は限られるんだがな。しかし君の場合魔力もあるし魔法適性があるかもしれないぞ」
「確かにボクに向いているかもしれません。でも剣は振るえると思うけど魔法の方はちょっと、わからないですね……」
「それは安心しろ。うちには魔法のエキスパートがいるからな。そいつに魔法適性があるか見て貰えば1発でわかるぞ」
「そんな方がいるんですか?」
「もちろんだ。ここは魔王軍。数百年に渡り人間共と戦ってきた実績はあるからな。大体の職業の上位職者はいるな。でもちょっと待ってろ。今あいつは出かけてる。あいつが帰ってきたら、数時間後にまた連絡をかけるから。それまではお前の家でのんびりしてろ」
「家なんてもらえるんですか⁉︎」
「ん?なんだそんなに珍しいか?」
「魔王様、人間は1人1つ家があることはなかなかないんですよ。あいつらは土地が全然足りてませんからね。人口が多すぎなんですよ」
サタンさんが補足してくれる。
なんかサタンさんは魔王様の補助役って感じだ。幹部筆頭の名は伊達じゃないね。その割には1人のダークエルフに黙らせられてたけど。
「ああそっか。魔族は土地はあるのに人口は少ないからな。みんな家ぐらい持てるぞ。せっかくだ。ヴェラ、案内してやれ。ではまた数時間後に」
「かしこまりました。勇者さん、こちらへ」
ヴェラさんが魔王様に軽くお辞儀をして部屋から出て行き、ボクもそれについて行く。
毎回サタンって書く度にサンタって書きそうでびびってます。間違いがあったら是非ご指摘下さい。