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報告と居場所

「眠いよー……」


「もういいでしょ。なんだかんだ9時間ぐらい寝たんだし。そろそろ魔王様のとこに行くよ」


「分かったよ…」


 ついさっきまでの荒々しい赤色の世界とは異なり、今は落ち着いた家の中にいる。


「やっぱり、魔都は落ち着くな」


 モンスーン、先程焼き払ってきた街の名前だ。ボクは今まで人を5万人ほど殺してきた。しかし、モンスーン襲撃作戦によってその数は15万程に変わった。そこで聞いた悲鳴の数。無理やり耳を押さえ音が入らないようにした時間もあった。


 耳を塞がなければ聞こえて来る、助けを求め泣き叫ぶ声が。目の前で死んでいないことが追い討ちとなり、変に想像してしまった。普段なら目の前で死ぬ人間の兵士は、自分に向かって恨みを持って向かってくる。殺してもあまり抵抗はない。だって殺ろうとしてくる奴らは殺される覚悟もあるってことだ。そんな奴に慈悲はない。


 けれど、今回は違った。ただ単に、助けを求める声。それが自分に向けられているかすらわからなかった。


 死んでいった彼らには、家族がいたのだろう。だから生きようとした。しかし、そんな彼らの平和をボクは破壊してしまった気がしてしょうがなかった。


 けどボクは繰り返す。


「やらなきゃやられるだけだ」


 この言葉を持っていないとボクはただの殺戮人形へ変貌する。その時は誤って大切なみんなを殺してしまうかもしれない。この言葉だけは、失ってはならないのだ。




「魔王様ー?居るー?」


 ボクらが訪ねたのはいつもの魔王様の自室。およそ3週間ぶりだ。


「お、帰ってきたか。この調子だとモンスーンは滅ぼせた感じか?」


「うん。モンスーンは壊滅させたよ」


 魔王様はティアに視線を送る。


「ミアの言う通り、モンスーンは荒地へと変わったわ。もはやあれは街として機能しないでしょうね」


「そうか、それは良かった。モンスーンをやったということは………この戦争も段々と局面が変わってきているということだ」


「ん?どういうこと?」


「今までの戦争の形では人間が街に籠っていることが多く、その街を滅ぼす方式だった。だが、今回モンスーンが滅んだことによりモンスーンより規模の小さい街は全て壊滅させられる可能性が付き纏うことになる。そしてこれが意味することは1つ。お互いの主力が実際に戦場でしのぎを削る直接戦争への形態の変化だ」


「じゃあ今まで以上に戦場と言われるものは激しくなっていくってこと?」


「そうだ。ここからは犠牲が非常に多くなるかもしれない」


「…………」


「魔王様、じゃあ私たちはこれ以上に前線に送られるということ?」


「……そうなるな。流石に、十二騎士相手に勝つことができるのは最低でも准幹部のヒューイほどの実力が必要だ。必然的にペンタグラムや幹部の面々は行ってもらうことになるかもしれない」


「……まあいいんじゃない?別に負けるつもりはないし」


「そうね。私たちなら十二騎士相手にも勝てるからね」


「……ふふ。頼もしいな、こんな部下が持てて」


「それは光栄だね」


 そうなのか………。これからは十二騎士とのぶつかり合い。そうなるとかなりの確率であいつも出てくる。


「クルガ……」


 あいつだけはボクが直接殺す。ボク以外の存在の介在は許さない。


「ひとまず、今はモンスーン襲撃作戦が成功したことを喜ぼう。あ、聞きそびれていたがハルカとフェイクはどうなった?」


「どちらも殺したよ。けど……‥少し問題があってね」


「どうした?」


「その……フェイクという人物は本当は存在しなかったんだ」


「……どういうことだ?」


「ミア?」


「ミーティアも知らないのか」


「ごめんね。言う機会がなくて」


「それよりもフェイクの正体っていうのはなんだ?」


 少し黙ってしまう。フェイク……ザルバトスのことを言うと妹のことが出てきてしまう。それは避けたい。


「それが……フェイクは元第五席ザルバトスだったんだ」


「何?」


「ボクが魔力探知で主戦力班を探していた時にたまたまフェイクの魔力波長も読み取ったんだ。そしてその魔力が非常にザルバトスと近かった」


「で、そこから分かったと」


「ザルバトスとは少し縁があったからね。少し話していたんだけど、そこで1つ、扱うべき重要な情報を手に入れた。……それは、新たな勇者の誕生だ」


「新たな……勇者」


 勇者は魔族に対して有利に立ち回ることができる唯一の職業。その職業柄一世代に1人しかその力を手にすることはできない。


「ミアの後継者がもう決まったってことね。その勇者について情報は手に入れた?」


「いや、既に能力に目覚めているってこと以外はわからない」


「それは、また大きな事案だな……」


 はぁーと大きなため息をつく。


「でもこれは後に行われる幹部会議で話し合おう。今この3人で話し合っても何かいい案が思いつくとは思わない」


「それもそうだな。とりあえず、我からはよく生きて戻ってきた。このことを伝えたかった」


「優しくされた………」


「なんだ?優しくされるのは慣れていないのか?」


「ちょっとね」


「いいんだ。これから慣れていけば。もうここは、お前の居場所なんだからな」


 その言葉で、ようやくボクは救われた気がした。はじめてできた、自分の居場所。しかし今まではまだ種族に対してのコンプレックスがあった。自分の居場所はどこにもないんだって。


 けれど、ボクには魔王軍がある。守るべき仲間が。ここは正真正銘、ボクの居場所だ。





この話を持って第2章は終了となります。ここまで読んでくださっている方々、本当に頭が上がりません。

第3章もこの調子で走っていきますので、お付き合いよろしくお願いします!

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