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作戦会議

「はぁぁ!」


「お、いいねいいね。今回は楽しかったよ!」


 一歩、間合いを詰める。しかしその一歩で間合いが潰れ、陣形も崩れていく。


「はい、陣形が乱れたから終わり」


「それは、油断じゃないですか?」


「あれ。ミーナを斬ったはずなのにそこにいない」


「………ッ」


「後ろだね」


 さっきのミーナは……幻覚だったのか。


「ぐはぁ……」


「今度こそ終わり?魔力探知しても元気な人は居ないように見えるけど」


「はい……降参です」


 手についた砂を払い、剣を鞘に収める。


「今回の作戦は幻覚で合ってる?」


「合ってます。ミーナの幻覚を生み出し、混乱させる作戦でした。団長が間合いを詰めた際にすぐ陣形を崩したのは油断を誘い、隙を生じさせるためだったのですが……」


 チームのしっかり者、ジュリアが説明してくれる。

 

「そこまではよかったよ。けど、ミーナが分かりやすかったかなー。前にいなかったら後ろ。そういうふうに思考がいくのは当然だ」


「……精進します」


「でもまあ、そろそろいい頃合いかな。モンスーンを攻めるのに」


「チームの雰囲気も、この3週間で随分と変わった。積極的に新しい作戦を提示してくれるし、1人1人の練度も飛躍した。これならモンスーンに十二騎士がいたとしても1人ぐらいなら問題ないはずだ」


「だ、団長が認めた?」


「これは夢か?」


「ちょっと俺を引っ叩いてくれないか?」


「なんで君たちは夢と現実の区別がつかないのかな……。現実だよ、まごうことなきね」


「じゃあ……本当に、あの作戦を実行するんですか?」


「もちろん。言ってなかったけど、ティアの方の魔法隊は既に昨日、準備を終えていたそうだ。つまりボクたちの方が後ってこと」


「ま、マジか……」


「でも今更そんなことを言っても意味ないね。善は急げ、だ。早めに2隊が連携して作戦を立てる必要がある。そのため今日の午後、魔王城の応接間に来てくれ」


「「「わかりました」」」


「お察しの通り、そこで2隊全員が顔を合わせるからね。気を引き締めるように。じゃあ一旦解散!また後で会おうね」


 隊のみんなに手を振り、訓練場を後にする。


「「「お疲れ様でした」」」


※※※


「いい感じに仕上がったよ。ボクの方は」


「私もよ。みんなよく厳しい訓練をやってくれたと思う。これなら十二騎士相手にも…?」


「慢心はダメだけどね。まあ少なくとも十二騎士が想定外の強さをしていなければ

2隊合わせれば無傷で突破できる。その認識でいい?」


「うん。それに加えて私たち潜入班もいる。ペンタグラムの第一席様がいれば問題ないね」


「それを言うなら第二席様もいるじゃないか。がんばろうね」


 ボクらが談笑しているのは約束の場所である魔王城の応接間。この部屋は御来賓用の部屋なんだけど、来賓なんて滅多に来ない魔王軍にはただの作戦会議場と化している。


ーーーーーーー


「ミアはもう………人を殺すことには慣れた?」


「ん、なんだよ急に」


「いや、人を殺すことに……慣れちゃったのかなって」


「うーん。感情を制御するって言う意味では慣れてきたといえるけど……何か複雑な気持ちが生まれないのかと聞かれればノーと答えるね」


「どういうこと?」


「なんていうんだろう、ボクらってやってることは人殺しじゃん」


「否定はできないね」


「もちろん、その行為は一般的に見たらいけないことだし、普通なら罪悪感が芽生える。けど、そんな地獄でも生きられるような人って何かしらの信念があると思うんだ」


「信念って…例えば?」


「えっと、ボクの場合は復讐、かな。裏切られたっていう真実から、心の中に燃料が湧いた。その燃料はまだ、消えることはないんだよ。けどね、ボクはその燃料に全ての舵を任せることはしない。もしそのリミッターが外れたら、ボクはきっと善悪の区別もつかずに殺しつづける。だから殺すことに対して複雑な気持ちが生まれるのは、ボクがまだ正常であるっていう証拠なんだ」


「……なるほどね。言いたいことは理解できたよ」


「そう?じゃあ良かった」


「いい感じに話がまとまったところで、ご来客が来たようだよ」


 扉の向こうには約35名の魔力反応。つまりこの部屋に入る前に2隊が合流したということだ。


「いいよ、入ってきて」「入室していいわ」


「「「失礼しまーす」」」


「よくきたね。ここが今回の作戦会議場、応接間だ……って、なんでみんな部屋中を動き回ってんの?」


「いや、だって魔王城の最高級部屋っすよ?観察しないわけにはいかないじゃないですか⁈」


「それを堂々とするかね……。ってか、そんなにすごいの?この部屋」


「まあまあね。ここは来賓室って扱いだからある程度のおもてなしの品はあるのよ」


 たしかに……言われてみれば結構豪華なような気がする。あまり高級品には詳しくないのだがこのシルク?っていう素材が高いのは知ってる。他にも一流の装飾人が作ったであろうアーチとか柱の入れ込みとか。こだわってるのはわかる。けど………なんでこの部屋が豪華で魔王様の自室はあんなに飾り気がないんだ?もっと飾り付けされててもいいはずなのに。


「詮索もいいけどさ……一旦席に着いてくれない?」


ざわざわ………。


「ちょ、聞いてる?」


ざわざわ………。


「す・こ・し・い・い・か・な?」


ざわざわ………。


「よし、殺してくか」


 おもむろに腰からフロレントを抜く。


「ちょ、ミア?」


「いいじゃん別に。だって話が通じないなら黙らせれば話を聞いてくれるでしょ?」


「いや本人が死んだら意味ないから」


「たしかに……。でもじゃあどうすれば?」


「もうこれ以上はしなくていいの。周りを見渡してみてよ。みんな席に座ってるでしょ?」


 ティアの言う通り、さっきまで部屋のあちこちにいたみんなは一つの円状のテーブルと椅子に丸く収まっていた。


「あれ、なんでみんな切り替えてるの?」


「ラミア様が怖すぎるからでしょ⁉︎」


「そうなのかな……。まあ結果オーライ、最終的にはみんなが静かになってくれたし、作戦会議を始めようと思いまーす!」


「「「おーー!」」」


「じゃあまずは作戦の概要から。ティア、よろしく」


「ラジャー。今回私たちが襲撃するのは王国第二の都市、モンスーン。物流や工業に富んだ大きい都市ね。そして今回採用した作戦は奇襲をベースとしているわ」


 そう言ってティアが懐からモンスーンの地図を取り出し、机に広げた。そしてみんなその机を取り囲むようにして円を作る。


「時間に沿って説明していくわね。まず最初は魔都からモンスーンの近くの森へテレポートし、そこで潜入班と主戦力班に分かれる。潜入班は関所を通って中へ入り、主戦力班は森の中で合図を待つ。そして真夜中。潜入班がベストだと判断した位置で襲撃を開始。始めに上空に向かって炎を出すからそれが合図となる。その合図に合わせて主戦力班はモンスーンを外部から強行突破。順調にいけば街の中で合流でき、夜明け頃には襲撃を終えることができる」


「主な作戦はそんな感じ。聞いての通り、作戦は1日ぐらいで終わる予定。もし達成されなくても我々は魔都に帰還し、魔王軍本軍が後詰めとしてモンスーンに再度向かってくれるそうだ。だから最悪、未遂だったとしても多少問題はない。けどやり遂げるのはマストで。達成されなかった時は達成されなかった時に処罰を考えるけど」


「…………」


「そんなに張り詰めなくてもいいわ。あくまで最悪のケースの話をしているの」


「そ、最悪の場合ってだけ。大丈夫だから気楽に行こう」


「でも、気楽な気分にさせないような危険な人物がいる。みんなご存じ王国十二騎士だ」


 王国十二騎士、メシア王国の切り札である特別な強さを持った十二人の選ばれしものたち。その強さは計り知れない………あくまで上位の場合はだけど。実際は六位と七位には大きな差があると言われている。その証拠に、上位六人はここ数十年間顔ぶれが変わっていないが、下位六人はころころ面子がかわる。ところで今、上位の顔ぶれが数十年も変わってないのって思った?人間の全盛期にしては長すぎるよね。

 その考えは正解!ただ、奴らは特殊なんだ。十二騎士を束ねているメシア王国国王には謎の力が宿っているとされている。その力は特定の人物の寿命やステータスを引き上げるものだと言われているが真偽は不明。しかしその力を使って十二騎士が強化されているには事実だ。下位六人にはステータスの上昇の恩恵を与え、上位六人にはステータスの超上昇と寿命の拡張もされている。厄介なもんだよ。だから上位六人の力は下位とは比べ物にならない。国王によるバフを除いても元々の才能が高いしね。


「現在モンスーンにいるとされる十二騎士は2人。第十二席フェイクと第八席ハルカ。フェイクという男の情報は出回っていないんだけど、ハルカの方の情報はまあまあ収集されている」


「なんでフェイクに関する情報がないんですか?」


 魔法部隊の子が手を挙げて質問した。


「それがね…どうやら最近王国十二騎士になったばかりらしいんだ。だから強さとか風貌とかもわからない。けど…十二席にいるあたりそんなに脅威ではないのかな?」


「そうなんですか………」


「それよりも今共有すべきは第八席のハルカについて。サタンさんが調べた限りだと結構ズル賢いっぽいんだよね。主に脳に対して訴えかける魔法を得意とし、その影響は多岐にわたる。洗脳をされたりそのまま脳を潰されたり。そして魔法をかける手札も多く、初見で見破るのは難しいらしい」


「付け加えるなら、ボクの記憶によるとそいつは女で言葉が巧みだったはず」


「「「…………」」」


「何黙っちゃってんの」


「そうよ、前にも説明したじゃない。王国十二騎士は魔王軍で言う幹部みたいなものだって。それぐらいの脅威はある」


「はあ、もしかしてこの3週間で逆に浮かれたの?前まではあんなに威勢が良かったのに」


「その……私たちはそのハルカとかいう女と戦わないといけないんですか?」


「というかラミア様の情報、要りますか?」


「いるよ!性別は大事な点だし、言葉が巧みってことは言葉に魔力を乗っけているかもしれない。つまりその言葉に乗っている魔力を防げないとゲームオーバー。君もハルカの奴隷行きだ」


「……………」


「だからこんぐらいで黙らないで!」


「ミア、落ち着いて。この子たちにとってはじめての十二騎士と交戦する機会かもしれないんだから」


「……わかったよ」


 小さく頷く。


「で、先ほどの質問に答えるとハルカは私たち潜入班でなんとかする。だから主戦力班はフェイクとその他の兵士たちに街の混乱を収めさせないように足止めしてね。それでいい?」


「異論なし!」


「じゃあ決まりね。あ、1つ重要なことを忘れてた。決行日の話。決行は明日の予定だけどみんな覚悟はできてる?」


「「「もちろん!」」」


「いい意気込みだね。けどボクからも1つ言わせてほしい。みんなは王国十二騎士をどう思っている?」


「強敵……とか?」


「王国の中心……」


「殺すと収入がいっぱい入る!」


「ちょ、それはないだろ」


 段々と騒ぎ始めてうるさくなる。けど、ボクがほしい答えは出てこなかった。


「みんなが思っていることは全部事実。だけど核心には関係ない、うわべだけの真実。実際の王国十二騎士とは、魔族を滅ぼそうと強く思っている者たちだ。つまりボクたちに全力で立ち向かってくる。もう1つ聞きたい。君たちが言うように、十二騎士は魔王軍で言う幹部だ。じゃあさ、君たちは魔王軍幹部と戦って勝てる自信がある?」


「「「……………」」」


「その反応を見るにないよね?じゃあさ、もっと気を引き締めないといけないんじゃないの?今から日付をずらすことは出来ないから、ボクたちがあと変えられる部分は自分達のメンタル部分だけなんだよ。もっと明るく、自分達に自信を持っていこう。それが仮初でも、元気を出さないと。ネガティブだとできることもできなくなっちゃうから」


「わ、分かりました」


「分かったならよし!ここからは明るくいこう!」


「はい!!!」


「じゃあハルカは潜入班が、フェイクは主戦力班が担当するということで」


「私たちから言うことはもうないけど……何か聞きたいことがある人はいる?」


 部屋を見回すが何か質問があるという感じではなかった。


「なら、今日は終わり。ここから自由行動とする。家に帰ってもいいし、ここに残って雑談してもいいし、訓練してもいい。好きにしてよし」


「ただ気を緩めないでね。じゃあミア、帰ろっか」


「分かったー。ねえねえ、家に帰ったらなにする?ボクはなにをしてもいいけど……」


「変な妄想をするのは止めなさい」


「はーい」





「いつみてもあの2人って仲いいよな」


「わかる、俺も久しぶりに2人が揃っているところをみたけど仲がさらに深まってる気がする」


「やっぱりウーロンへの旅行でなにかあったんじゃない?」


「やっぱそうなのか…?」


「まあ部下が詮索するようなもんでもねえだろ」


「間違いないね」




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