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過去2

 気づくと、涙が溢れていた。月夜はいつもと変わらず、自分を祝福しているような気がしていた。しかし今はそれが皮肉に感じられるとともに、目的地へ行ければ父も合流してくれるんだという希望の象徴でもあった。


「ここら辺のはず……」


 来たのは数年前、初めて父と狩りをした場所。


「君が……ミーナ君か?」


「あなたが……父の言っていた信頼できる人、ですか?」


 木の影から出てきたのは父と似ている、1人の男だった。


「私はグラザーム。始まりの吸血鬼、始祖と言えばわかるか?」



「あなたが……始祖?」


「ああ、君達の祖先となるな」


 私は……複雑な気持ちだった。私は吸血鬼の第六感からくる静粛が嫌いだった。お陰で街は静かで、一年中活気の無いようで。しかし今、その憎らしいシステムを作った男が目の前にいて、私に手を差し伸べようとしている。


「僕は……あなたを信頼して良いのですか?」


「君の好きなようにしろ。たしかに、私は君から見て部外者だ。しかし君の父から直接頼まれてここにいる。君を守ってほしいとな」


「………」


「長い旅になる。個人の意見としてはずっと疑いの心を持ちながら過ごすのは辛いと思うぞ」


 その言葉はまるで……父のようだった。温かく声をかけてくれる存在。


「あなたは……父とどういうご関係で?」


「あいつとは……そうだな。一般的には家族という枠組みで間違いないだろう」


「なぜ少し、あやふやな言い方を?」


「いかんせん、私は長く生きているからな。家族という関係が曖昧なのだ。なおさら、あの者とは5代は離れているであろうからな」


 吸血鬼は普通、200年から300年の時を生きる。それなのに5代以上離れているということは……吸血鬼の起源はすごい昔なのだろう。けど……待てよ?


「あなたは……父のおじいちゃんなのですか?」


「ああ。間違いない。しかも直系の、だ」


「………つまりあなたは…僕の家族」


「そうだな。だから礼儀は必要最低限でいい。呼び方もグラザーム、またはグラザームさんでいい」


「わかりました」


「わかったならいい子だ。ミーナ君は今何歳なんだ?」


「14です」


「そうか。14の割には精神がずいぶん大人びているようだな。きっといい教育を受けていたのだろう」


 空を見上げると、もう日が東の方向から出てこようとしていた。夜明けだ。


「僕たちは…どこへ向かっているのですか?」


「とりあえずは私の家へ。ここから北へ少し行ったところにある」


 そう言って私たちは移動を始め、グラザームさんの家へ行くことになった。私はそれ以来、吸血鬼の街に戻ったことはない。今はどのようになっているのかも、家族に関しても何も知らないままだ。


 

 グラザームさんの家は、吸血鬼の街から2週間ほど歩いた場所にあった。森を抜けて山を登る。人生で初めての大移動だった。そこは吸血鬼の街よりも数倍は大きいような場所で、グラザームさんが言うには多数の種族が一緒に住んでいるらしい。


 そしてその街は魔都というらしく、土地を納めている者を魔王というらしい。


 グラザームさんはその魔王に忠誠を誓う幹部の内の1人であり、200年前からその座についていると。


 魔都での生活は、平和そのものだった。何かに攻められることもなく、ただただ過ぎていく日々。そんな生活に私は嫌気が差していた。なぜならこうしている間にも人間は成長しているのだから。



 真実を聞かされた時、狂いそうになった。父の遺言にあった、人間という単語。その全てを理解した時。その時から、私の中には大きな黒い穴が生まれた。吸血鬼は人間という種族に滅ぼされ、奴らは日々周りの環境を破壊していっていると。恨みなんて安いもんじゃない。全てを滅ぼしたいと思った。しかし私には、力が足りなかった。



 数年後、幸いにも魔王軍に入らせてもらえることになった。グラザームさんが融通を利かせてくれたのだ。しかし、条件があった。それは男であるということを隠すこと。その理由を尋ねた。すると、

「吸血鬼族の長である君が魔王軍の新兵として入るのは……なぁ?」

と言われた。


 吸血鬼族の慣わしとして、族長は種族で最も強いものがなるというのがある。今までの族長は、全て私の祖先だった。しかしそれも当然。始祖の血を直接的に引くものは他の吸血鬼とは格が違った。そのため、私の家系が世襲する様に族長となっていった。


 私も、例外ではない。街で最も強い吸血鬼となる……予定だった。今はもう、比べる相手なんていないけど……。だから、族長になるのは気が引けた。街で一番強いという保証はなかったのだから。しかしグラザームさんにはいずれ確定した未来だ、と言われ渋々族長となった。


 魔王軍に入った後は、何戦もの経験を積み名を馳せていった。その過程で、私は一向に会話をしなかったことから避けられていたが、信頼はされていた。そして、その外部との隔たりを破ったのがラミア様だった。今まで何回もさまざまな部署を転々としていたが、私に声をかけてくれた者は初めてだった。


 彼女は……信頼に足る方だった。私を魔王城の一室に呼び出し、隊を作りたいと相談してきた。最初はどうでもよかった。基本受けた依頼やお願いは全て引き受けるようにしていた。もちろん転属も。だからいつもと同じように、その願いは聞き入れた。しばらくして、隊のメンバーの初顔合わせがあった。その時に撮った写真は今でも大事に飾ってある。そして初めての隊としての戦い。その時はラミア様の側でずっと戦っていた。


 そして垣間見えた、彼女の闇。人間を殺す時、昔から目を背けるようにもがいていた。それはまるで…私みたいだった。私の……初戦みたいに。


 自分と似た境遇のものは、自然と心が通じ合う。第六感関係なしに。だからこそ私はラミア様と話すことができる。


 結局のところ、私がまともに話せるのは自分と似たような人物だけなのだ。彼女にも、悲惨な過去があることは知っている。しかしそれは一方的なものだ。彼女は、私のことをよく知らない。私が200年以上生きていることも、実は男であることも、軍では手を抜いていることも。全て誤魔化せてしまっているのだ。


 しかしそれはやめた方がいい。これからお互いに命を預けあう関係だ。全てを曝け出さなければ、信頼なんてできない。だから……モンスーン、あの都市を攻略したら、ラミア様と話をしよう。過去の話を。




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