お話
ミーナ視点のお話です。
「ミーナ、いるー?」
この声は……ラミア様?なんでこんな時間に私の家に来たんだ?
それよりも……服が。とりあえず脱ぎ途中だったシャツのボタンを再度留め直しブランケットを羽織る。これでとりあえずは大丈夫のはずだ。
部屋は……それほど汚くはないな。
「はーい」
扉を開けるとそこにはラミア様がクッキーの箱を持って立っていた。
「ごめんね。こんな時間に。訓練場にクッキーを忘れていたからさ、届けてあげようって思って」
「す、すいません……」
「だいじょぶだいじょぶ。それよりも中、入っていい?」
家の中を指差し訪ねてくる。
「もちろんいいですけど……」
「よし。じゃあお邪魔しまーす」
何か変なものは置いていないだろうか。隊長であり、自分の上官でもある人の前で恥ずかしい思いをするわけにはいかない。
「何気にさ、部下の家に入るって初めてなんだよね」
「そうなんですか……」
「そうそう、意外でしょ?魔王様の自室なら何回も行ったことはあるんだけどねぇ」
「魔王様の自室、ですか?」
「うん。こう見えても魔王様とは仲良いからね。昨日も遊びに行ったばっかりだよ」
魔王様。人生で一度は直に会ってみたい方だ。しかし会うには幹部になるとか王城で働くとか、条件が厳しすぎるのがネックだ。
「その……魔王様は……どんな方なのでしょうか?」
「うーんそうだなぁ。一言で言うなら、苦労人かな」
「苦労人なのですか?」
「そりゃそうだよ。魔王様もボクと同じ18歳。その歳で族長を務めるにはすごい精神力が必要だよ。魔王としての威厳っていうのもあるからね。基本、ボクら幹部の前とか国民の前ではしっかりと振る舞ってるけど……それ以外の時、完全に魔王としてのスイッチが入っていない時は一人称も変わるし」
「そうなんですか……」
やはり国の王としては苦労というのは絶えないものなのだろうか。一度は部下に丸投げしてもいいと思うのだけれど。
「やっぱすごいよねー。ボクにはできないよ。まあ、それを言うならミーナにもだけどね。心に傷を負った者が、こうして立ち直れているんだから」
「……知っていたんですか」
「もちろん。これでも魔王軍幹部だからね。部下の過去とかを知る権利とかはある
。……そんな不安そうな顔をしないで。みんなに言いふらしたりしないからさ」
今……不安そうな顔をしたのだろうか。私は……完全に過去と決別したつもりだった。しかし不安に思うということは…過去にまだ未練があるということだ。
「まあ、過去のことはとやかく言うつもりはないよ。ボクも似たような境遇だからね。1人でじっくり考えることをおすすめするよ」
1人で……考える……。
「じゃあボクはこのぐらいで帰ろうかな。ティアに怒られちゃうし。クッキー、ちゃんと食べてね。じゃあ」
そう言って、ラミア様は帰っていってしまった。
「本当に自由な方だな……」
机に置いてあるクッキーの箱を撫でる。
「1人で考える、か」
思い出したくもない過去のこと。それと今、向き合うべきなのかもしれない。
次回から2、3話はミーナ視点かもしれません。