賭け
「ほらっ出ろ」
クルガに促されて部屋から出る。なんだろうこの虚脱感。なにも感じないや。
ここは--?外?
温かい光がボクの肌に突き刺さり、脳が働くのを促す。
何年もろうそくの光以外を見ていないため何か別世界に来たみたいだった。
そしてここは……どこだ?周りには庭や噴水が見えるが細かな場所までは把握できない。
少し歩くと真っ暗とまでは行かずともかなり暗い部屋に到着する。
「お待ちしておりました、クルガ様。そちらが…」
初老に差し掛かるといった魔法使いの男がボクたちに目を向ける。
「ああ、勇者だな。しっかしなあ、最近は全然反応しねえんだ。ずっとどこかを見ている。まあ、そんなことはいいんだ。この転移石、どこに行くんだ?」
青色に光る転移石をすりすりとなでる。
「はい、今回は近くの戦場である草原に転移させようと思います。あの場所は比較的戦場の空気が薄いですからね。初陣にはもってこいです」
「ああ。…あそこならパーティーはこいつとシオンでもつけとけばいいだろ」
「あの十二騎士のシオン様がつくなら安心ですかね」
「そうだな。じゃあそういうことで。決行はそうだな……お昼過ぎでいいか。またここでこいつとシオンを行かせるからそん時はよろしくな」
「わかりました。お昼に、お待ちしております」
じゃあな、と言ってクルガは踵を返す。ボクもそれについて行く。
「情報ゲットだな」
何か後ろから聞こえた気がする…。が、後ろを振りかえってもさっきのおじいさんがニコニコしているだけ、だ。
「カーンコーン」
12時を知らせる王宮のチャイムがなる。鳴ってしまった。
数時間前と同じように部屋から連れ出され、シオンという十二騎士と先ほどの部屋に行く。
メシア王国十二騎士第十一席<青蓮>のシオン。
十二騎士でもきっての魔法剣士で、その名の通り氷魔法と剣を扱い戦う。
戦闘服はそのイメージ通り白が基調とされているものの、ところどころに水色の模様がほどこされている。
戦闘モードに入ったところは見たことないが訓練の感じ魔法をメインで使い、動いたところを剣で攻撃するといった戦い方をするはず。
転移魔法陣が展開されるとボクとシオン、先ほどのおじいさんが魔法陣に入る。
「あなたも行くの?」
シオンが魔法使いに尋ねる。
「はい。帰りにも私が魔法を展開しますので」
しわがれた声で返事をされる。しわがれてはいたが、少しワクワクしているような声だ。
戦場が好きなのかな?とんだ物好きじいさんだな。
「あっそ。さっさと転移してちょうだい」
そう合図すると、転移石と魔法陣が光出す。
そして、覚悟を決める。
ここからはもう地獄が待っているだけだ。
今までクルガにいじめられていたがそれ以上に酷いところに行く。
命のやりとりをする場所…戦場だ。
敵は………わからない。
曰く人間じゃないものを殺せばいいとのこと。
そんな絵に描いたようなあやふやな場所にいきなり行かされる。
もちろん不安だ。
でも生き残らなければならないんだ。
なんのためにかはわからないけれど。
魔法陣から青い光が螺旋状に広がりボクたちを包み込む。すると一瞬で見ていた景色が変わった。
転移したのはとある森の最奥のような場所。木で覆われており、正午を回ったばかりにも関わらず光があまり届いてない。
しかしここはどこなんだろう。自陣に転移されるのが普通のはずだ。初っ端から戦闘している場所に転移するはずもないし。
「ちょっと!何でこんな変な場所に転移してんのよ?こんな気味悪い場所……」
シオンも気づいたのか声を荒げて転移させ魔法使いに問いかける。
「クククッ。あははははは!」
そう問われた魔法使いは何か不気味だった。
「ひっかかったな王国十二騎士!」
そう言うとそこには先程までいた魔法使いの姿はなく別の『何か』がいた。
黒い羽を生やしており、同じく黒く長い尻尾。赤く光る目、鋭い爪。
そして放たれている闇のオーラ。
それは伝承になっている『悪魔』の姿だった。そしてその瞬間に察する。
人類はこいつらと戦ってきたんだ、と
「なッ!強い魔力とオーラ。悪魔の中でもかなりの上位種だな。しかしなぜ貴様のような魔族がここに…いや王宮の魔法使いに化けていた!」
「簡単な話。変身能力を持つ私が潜入することで『魔王軍』に情報を流していただけだ。いやー、手に入れた情報はかなり便利だったよ。だって勇者がどんな目にあわされていたか、初陣はいつかとか全て筒抜けだったんだし」
「…………………。」
シオンが押し黙りそれを悪魔が見据える。
そして睨みをシオンの方へ効かせつつボクの方に視線を移す。
「ねえ勇者君?君は王宮の地下でこの人たちに随分と痛い目に合わされてきたんじゃない?」
「…………」
「そしてその過程で恨みが募ってないか?」
「……コクッ」
「じゃあさ、その恨み、これから晴らしていこうよ」
「どう……やって……?」
「私たち魔王軍と協力するんだ。君は王国の人間、人類を殺したい。魔王軍も人類を根絶したい。協力するにはいい話だと思うんだ」
全て、図星だ。こいつらには恨みがある。それは殺したいというほどに。でも今の自分ではそれは叶わない。力が足りなさすぎる。
ならば
ならば協力者が必要だ。
悪魔が手を差し伸べる。
「一緒に行こうじゃないか。」
それはまさしく『悪魔』の勧誘だった。
その手を取ればボクは人間に仇成す何かだ。
しかしボクはその手を取ろうとする。
今までの人生、全てがフラッシュバックしていく。
そしてその全てが寝返るには十分すぎるものだった。
生まれたときの親の顔も。家族に裏切られた時も。地下牢で虐待された日々の記憶も、全てを覚えていた。
そして手を伸ばす…
「やめろ!お前は勇者だろ!悪を滅ぼすのがお前の役目だ!」
黙っていたシオンが引き止めるように必死に叫ぶ。でもボクはそんな言葉を気にも留めず手を取った。
「シオンさん。ボクにとっての悪は、あなたたちですよ。」
そう言ってボクは腰にあった剣を抜き、その剣でシオンを突き刺す。
反射的に剣を抜こうとしたシオンだったが間に合うはずもなくそのまま胴体を切断した。
「行きましょう。お名前、聞いてもいいですか?」
「もちろん。魔王軍幹部筆頭サタンだ。魔王軍加入おめでとう、と言っておこうかな」
「はい、これからよろしくお願いします」
ここでプロローグは終わりになります。次回からは明るいお話の予定です。