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魔王様の部屋

「久しぶりの家だー!」


「帰ってきたって感じがするね」


「ちょっと寝ていい?荷物の整理とかは夜にやるからさ」


「だーめ。今やっちゃいなさい」


「はーい……」


 ティアに諭されたので荷物が入っているバッグから旅行に持って行っていた道具を取り出す。


 それにしても、このバッグめっちゃ便利なんだよね。拡張魔法がかけられているから見た目の数倍は入る。だからポシェットみたいに小さい大きさでも容量は半端ない。


 ちなみにこれ、ティアとか幹部の皆さんに誕生日プレゼントとしてもらったもの。正確にはボクは誕生日を覚えていないから魔王軍加入の日が誕生日になっている。その時に幹部の皆さんの手作りらしい(発注)バッグ(ティアとサラさんが拡張魔法で拡張済みのやつ)をくれた。以降、ボクは外出したりする時は常に持ち歩いている。


 バッグの紹介は終わり。とりあえず衣服とか買ったものとかを手当たり次第出していく。


 全部出し終わって空になったら次に出した服を全部<洗浄>(クリーニング)していく。この魔法は衣服とか、食器とかいろんなものについた汚れを落としてくれる超優秀な魔法。特に長丁場の戦場では重宝するらしい。ボクは短期決戦で終わらせるからよくわからないけど。まあこの魔法で大体の汚れが落とせるのは間違いない。


 そしたら後は畳んで棚に入れて終わり。小道具はまあ定位置に戻すだけかな。


「あ、そういえばお土産いつ渡す?」


「隊のみんなには明日でいいんじゃない?明日集合掛けてるでしょ?」


「うん。明日朝から訓練だーって呼びかけてるけど」


「じゃあその時に渡そう。問題は幹部の方か……」


「ぶっちゃけ、全員が顔を合わせることなんてないんだしあった人にそれぞれ渡していけばいいんじゃない?」


「それもそっか。幸い、賞味期限はまあまあ長いし。なんなら<保存>(プリザーブ)をかければもっと持つし」


「オッケー。じゃあそういうことで。ボクはバッグの中身とか整理したしちょっと出かけてくる。魔王様のところ行くんだけどティアも一緒に行く?」


「お土産渡すなら私も。久しぶりに3人で話したいし」


「じゃあ行こっか」



※※※



トントントントン


「魔王様ー、いますかー?」


「はーいって、ん?なんだミアとティアじゃないか。休暇の最中じゃなかったの

か?」


「そうだけど……魔王城に来ちゃいけないってことはないでしょ」


「だな。で、何のようだ?」


「旅行に行ってきたんだ。ウーロンにね」


「おお!ウーロンに行ってきたのか!」


「で、そこでお土産を買ってきたからお話しながら一緒にどう?って誘いにきたの」


「もちろんだ。今ちょうど仕事もひと段落したし中に入れ」


「失礼しまーす」

「失礼します」


 魔王様の部屋。魔王軍の中でも無闇に入れるのはごく僅かしかいない場所。ここは魔王様の寝室、いわば家だ。しかし、正確にいえば魔王様の家は魔王城全てとなっている。


 魔王城は規定上家として見られていて、魔王が代替わりする時は家の所有者が変わるというイメージだ。でも、家とはいえあくまで魔王軍の本拠地がある共有スペース。真の意味での魔王様の家ではない。


 しかし、この部屋は正真正銘魔王様の自室。歴代の魔王が自室として代々使ってきており、セキュリティも頑丈だ。なんてったってこの部屋は魔王城の最奥、魔王の間のさらに奥に設置されている。さらにはトラップや魔力探知機も搭載されていて登録されていない魔力を持つ者が近づくと警報が鳴るようになっている。あー、こわいこわい。


 ちなみに魔力登録されているのは4人。魔王様、サタンさん、ボク、ティア。全員性別的には女性だからもしかしたらここは男性禁制かもしれない。


 で、ボクら3人は時々こうしてお茶会を開いている。何か食べ物とかを持ち込んで、この部屋で雑談しながら時を過ごす。地味に同年代の3人だし、こうやって完全にオフで話せるというのはいい時間だ。


「いつも通りそこら辺に掛けてくれ」

 

 言われた通り椅子に座ってお土産のクッキーを机の上に置く。


「これがお土産か……。これは……クッキーか?」


「そう、よく分かったね」


「流石にな。かなり希少なお菓子だと聞いたが何箱買ったんだ?」


「何箱だっけ?」


「なんで数時間前のことを忘れてるの……。50箱でしょ」


「50箱も買ったのか⁈クッキーはウーロンでしか作れない貴重なお菓子なんだぞ?そのー…我が言うのもなんだが、高くはなかったのか?」


「高かったよ。お土産にしては、だけどね。幸いボクとティアはペンタグラムに入っていて幹部でもあるからお給料は多いし」


「だな。そんなお2人がこうやってクッキーを口に頬張りながら話していることについては触れたほうがいいか?」


 ボクはティアの方を、ティアはボクの方を見る。

 

 本当に一つ一つの動作が一致しすぎている……。見合わせるタイミングもお茶を飲むタイミングさえも。


「触れない方向で」


「右に同じく」


「分かった。話を戻すと、なんでウーロンに行こうと思ったんだ?」


「なんとなく、かな。この旅行はボクが提案したんだけど気分的に体験したことないような場所に行って見たいなって」


「ウーロンの場合、海、か?」


「そうなるね」


「海かー。我も行って見たいんだよな」

 

 手に持っていたグラスを机に置き、天を仰いだ。


「行ったことないの?」


「ああ。生憎、我は魔都から出たことがないんだ。流石に魔王という立場のものが魔族の中で最も重要な場所を放棄してまで旅行に行く気にはなれないんだ」


「そっか……。この3人で唯一魔都生まれなのにね」


「まあな。でもこれも魔王という職業の運命だ。卑下する必要はない。ところで、我は魔都、ミアはメシア王国が故郷だろう?それではティアはどこで生まれたんだ?」


「たしかに。ボクもティアの生まれ故郷の話は聞いたことがないね」


「私は天界よ」


「あ、時々忘れるけどティアは堕天使族だもんね。でも実際天界って言われてもイ

メージがつかないよ。どんな場所なの?」


「んーと。場所は雲の上のさらに上って言えばいいかな。いい場所だよ、雲海に宮殿があるから私から見ても神秘的だと思うし」


「いつか天界に行ってみたいなぁ。ティアの故郷でしょ?やっぱり、幼馴染の故郷は訪ねておいた方がいい」


「そんなことを言うなら私もそうよ。メシア王国、行ってみたくない?」



「お前ら……我が居るということを忘れていないか?」


「だいじょぶ、忘れたことは数えるほどしかないから」


「忘れるな!これでも我は魔族を統べるもの。お前たちの上司なんだからな!」


「はいはい。で、なんだっけ?メシアに行きたいんだっけ?」


「そう。敵ではあるけど、国としてはあっちの方が栄えているしちょっと興味ある」


「多分そう遠くない未来で行けると思うけどね……」


「ん?どう言う意味だ?」


「ああ、まだ試作段階というか作戦を練っているところなんだけどメシア王国に潜入しようかなって」


「ちょ、ミア。あれ本気だったの?」


「別に悪くない作戦だし、リターンもある。ただ問題は……」


「練度だな。そんな作戦を実行しようとするなら作戦に関わるメンバーはお前たちペンタグラムお抱えの隊だろう?しかしその作戦は、今のままだと厳しいと思うぞ」


「まだ概要も聞いてないのに?」


「ああ。しかしなんとなくわかる。潜入するという発想は悪くはないが……まあ決めつけるにはまだ早いか。とりあえず概要を聞かせてくれ」


「ボクの考えでは、ボクとティア、後もう1人か2人ぐらいが街に潜入する。そして残りの者たちは街の外で待機。中に入った人…今回は潜入班と言おうかな。潜入班は街の中を散策して、どこから攻撃すれば街を崩しやすいかを調べる。そして余裕があれば街の中にいる戦力を把握する」


「それは本来、あらかじめ把握しておくべきじゃないか?」


「それもそう。けど残念ながらボクらが掴む情報に確度はない。なら街の衛兵とかを操って情報を聞き出した方が確度は高いよね」


「……ティアの精神魔法がそこで活かされるのか」


「そういうこと。だからティアは潜入班でなくてはならない。ボクは中から主に破壊する役。ティアだけでもいいんだけど、仮に十二騎士が複数中にいた場合ティア単独では突破が難しい。だからボクはその補強で」


「本音は?」


「ティアと離れたくない。あと1人で行かせると不安になる」


「全く。お前はティアに対してはとことん甘くなるな……」


「いいじゃん。ね、ティア?」


「だからって抱きつくのはおかしいと思うんだけどね…」


「おかしくない。あと同性だから問題ないのです」


「なぜに敬語……。まあいい、私も作戦について1つ言いたいことがあるんだけどいい?」


「もちろん」


「簡潔にまとめると、私たちは中から街を破壊する役。残りの隊士たちは外から攻める役。これで街を落とすのね?」


「うん」


「これができると思われる街は?条件として上がるのは私が潜入できるほどの街、滅ぼすに値する街。この2点ね」


「モンスーンはどう?ここならどっちも当てはまると思うけど。というか一つ目の条件は大体の街が当てはまると思うよ。だってティアの変装技術にかかれば誰も見抜けないもん」


「それは同感だな。うちのサタンさえもお前の変装技術は認めているんだ。一般の街の関所では見破られないだろう」


「やっぱ魔王様もそう思う?」


「ああ、そのぐらい我はお前たちを信頼しているぞ」


「光栄だね」


「ただ、モンスーンはちょっと……」


「なぜ?と聞いても?」


「あそこは強固すぎやしないか?だってメシア王国の首都に次いで2番目に栄えている大都市だぞ?軽く見積もってもウーロンの倍近くはいるだろう」


「じゃあリターンはあるってことだよね。モンスーンを滅ぼしたら、人間たちにも大きなインパクトがあるはず。もっと言うなら守りが強固なのもいい点」


「どういうこと?」


「モンスーンは通称『鉄の街』。街全体が鉄の壁によって覆われていて、焼き払うにも厳しい。だけどそれを利用するんだ」


「……そういうことか」


「分かったの?」


「恐らく、だがな。鉄の壁は火を通しにくい。それは裏を返せば火が周りに逃げられないんだ。つまり街の中に1回でも大きな炎を生み出せれば、火はすぐに周り焼き払うことができる」


「その通り!さらには家の材質も火に対してあまり耐性を持たないからかえって他の都市よりも滅ぼしやすいということ」


「……それならいいだろう。この作戦、今度の幹部会議で話し合うか?」


「いや、それはやめときたい」


「なぜだ?これほどの作戦、共有しといた方がいいだろう?」


「でもこの作戦の肝は奇襲という点にある。だからもし情報が外に漏れ出たなんてことがあれば……」


「お前たちはモンスーンの中で刈り取られることになるな」


「幹部の方々を信頼してないわけでは無いんだけどさ。まあそんなことにはならないけどね。だってボクら、強いもん」


「なんだよ。じゃあ共有してもいいじゃないか」


「でも余計なリスクは犯したくない。これがボクの意見」


「……サタンには言ってもいいか?あいつならもっと良くプランニングしてくれると思うぞ」


「だね。ボクらだけだと不安定な作戦になりかねないし」


「じゃあそういうことで。あ、もうこんな時間なのか」

 

 気付くと話は盛り上がっていて、すでに2時間ほど話をしていた。


「流石にこれ以上話をしていると仕事に影響が出てしまうからここらへんでお開きにさせてもらおう」


「えー、まだウーロンのこと話してないのに……」


「また今度聞かせてくれ。あ、このクッキー、貰っていいか?」


「もちろん。じゃあまた今度ね」


「ああ、じゃあな」




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