最終日
2話連続投稿
「あー、眠いー……」
「はあ、これじゃ昨日と逆じゃない。ほら、もう今日に帰るんだから早く起きて行きたい場所行こう?」
「それもそうだね……。今日は魔都にいるみんなにお土産を買って帰る感じ?」
「そう。でもお土産を買う前か後にどっか最後に行きたい場所に行こう」
「了解。ティアは行きたい場所ある?ボクは行きたい場所があるんだけど」
「いいよ、ミアが行きたい場所に一緒に行くよ。昨日奢ってもらったし。で、その目的地は?」
「海」
「え、海?初日に行ったじゃん」
「それもそうだけど……どっちかというともっと沖の方に出てみたいかな。初日は浜辺で遊ぶだけだったし」
「確かにね。ウーロンの海は透き通ってるということでも有名だし」
「じゃあ決まり。んーと、お土産買う前に行こうか。なんか船でもレンタルして」
「オッケー」
※※※
朝食を済ませて海の方へ出る。調べたところ、このホテルグラウンドがボートをいくつか保有しているみたいだからそれを借りることにした。
「すいませーん、ボートを1隻、お借りしたいんですけど……」
「ボートですね。でしたらエントランスを出て左手に向かうと船の貸し出し所がありますのでそこにいるスタッフに声をおかけください」
「わかりました、ありがとうございます」
「いえいえ、お気になさらずに楽しんできてください。幸い今日は天気がよろしいので」
フロントにいた受付の人と別れて外に出る。
「えっと、出て左だっけ?」
「そう。あ、あれじゃない?あの奥に見えるやつ」
ティアが指差すのは海に出ているちょっとした桟橋。そこには8隻ほどのボートが泊まっていた。
「船をお借りしたいんですけど……」
とりあえず船着場にいた方に声をかける。珍しく悪魔族の方。しかし、悪魔族とは言っても身長が2メートルにもなるような見た目がゴツい感じの方ではない。どういうことかというと前にも言ったように悪魔は核となるものがあり、それ以外は割と流動的な見た目だ。そのため今はエルフ、ひいては人間に近い見た目をとっている。あくまで形を真似ているだけであるため、悪魔族の特徴である頭から生えている角はこの姿でも残っている。
「はい!何隻お借りしますか?」
「とりあえず1隻で……」
「わかりました!ボートを漕ぐためのオールを使った経験はございますか?」
「いや、ないですね……」
「でしたらボートの中にあるマニュアルを読んでください!それとも私がこの場で教えましょうか?」
なんかこの人と関わるとめんどくさそうな予感が……。すごいはつらつだけどさ、熱気がこっちにも伝わってきて温度差のギャップがすごいっていうかなんていうか……。
「いや、大丈夫です」
「そうですか!ではこちらの白色のボートにご搭乗ください!」
ボートは水に浮いているだけだからか足を乗っけるとギコギコいいながら結構揺れた。その揺れはボクとティア、2人が乗ると収まった。バランスがいいのか悪いのかがわからない……。まあ貸し出されているものだから不良品ってことはないと思うけどね。
「それではオールを握ってもらって」
言われるがままに足元にあった2つのオールを手に持つ。えっと、ここにはめるのかな。ボートの両側に付いている逆アーチ状の部分にオールを乗っける。
「そうです!それでは、いってらっしゃいー!」
「「い、行ってきまーす……」」
ミシミシと音を立てながらもボクはオールを使い沖の方へ漕いでいく。
「これ、意外と疲れるかも」
「そのオール使うの?」
「うん。1回1回持ち上げないといけないし、水の抵抗とかもあって腕が疲れる」
「じゃあさ、身体強化使っちゃったら?」
「いいね。でも普通はゆっくり漕いで海上の雰囲気を楽しむんじゃないの?」
「普通はね。私たちは私たちのやり方で楽しむのも悪くないんじゃない?」
「だね、<身体強化>」
「何倍ぐらいの出力?」
「とりあえず10倍」
ボクが身体強化魔法を使うとボートもすごい速さで進み始めた。
「このスピードのままいくと結構早く沖に出られるんじゃない?」
「かもね。早くもさっきの船着場がちっちゃくなってきたし」
後ろを振り返ると、先ほどの船着場が既に目視が難しくなっている距離まで漕いでいた。
「それよりも周りを見渡してみてよ。めっちゃくちゃ綺麗じゃない?」
見渡す限りの海、そのエメラルドグリーンに太陽が白く反射している。そして海は透き通っていて、水中にはサンゴ礁があるのも見受けられた。
……この景色を見ているとまるでこの世界にはボクしかいないのではないかという気分になる。つい一昨日にも感じた気持ちだ。そしてそんな世界に入ってくることができるのは目の前にいるティアしかいないだろう。
……ところでティアはボクのことをどう思っているのだろうか。ボクとしては彼女は良き親友であり、仲間だ。しかし最近、具体的にはグラザームさんに言われた時に気がついた。ボクの中にはティアに対して友達という感情以外も持っているんだと。それがどんな気持ちかはわからないが、グラザームさんは『恋』だという。
その気持ちを確かめるためにもティアに思い切って聞いてみることにした。
「ティアはさ、ボクのことどう思ってるの?」
「え?」
「ボクはさ、ティアのこと好きだなーって思ってるんだけどティアはボクのことどう思ってるの?」
「えっと、それは…どういう意味で……」
「いや、どういう意味もなにもボクのことをどう思ってるのって?」
「私は……」
「私は……」
……やばい。どうしよう。
今、私は親友のミアから究極の質問をされていた。
(ボクのことをどう思ってるの?)
シンプルな質問。しかし意図が全く読み取れない。これは、この質問は親友として聞いているのか、それとも別の意味なのか。私には計りかねていた。そのため聞き返してもおうむ返しをされるだけ。……とりあえず、話を逸らそう。
「……ねえ見てミア!あそこに白い鳥が2羽いるよ!」
「話を逸らさないで」
断固とした、確固たる意志が見える発言。
くっそぉ。逃げ場がない。話を逸らすのはだめ。そして物理的に逃げようにもここは海のど真ん中。さらにはボートの上に2人きり。だめだ。
よし。まずはいつも通り話そう。
「私もミアのことが好きだよ。もちろん、親友としてね」
………あれ、反応がない。数十秒経っても一向に言葉が帰ってこない。……もしかして、別の答えを期待されていた⁈いや、もし仮に私の予想が当たっているならそれは親友という枠組みを超えている。
‥‥待てよ。ミアは私に『親友として好きだ』と言っていたか?記憶を掘り返してみる。
(ボクはさ、ティアのこと好きだなーって思ってるんだけど…)
……言ってないな。私の記憶が正しければ言っていない。
というかよく考えたら私はさっきなぜ「私もミアのことが好きだよ」の後に、
「もちろん、親友としてね」と言っているんだ?
私はただ……勘違いされないように言っただけだけど……。いや、これは本当に本心なのか?もしかしなくとも私は本心を隠すためにいったのではないか?なら私は……ミアのことが性的に好きってこと⁈
嘘だ…そんなのありえない。そもそも、私とミアは同性で、ただの親友だから。どんどんパニックになっていく。
ふと、ここでミアの顔がフラッシュバックした。初めて出会った日のことや、初陣の後のやり切った顔、ペンタグラムでの医務室でミアが私を覗き込んでいる顔、この旅行中での顔。全部が華々しく飾られているように思った。すごい透明な、はっきりとした、けれども飾られている。そんな記憶。
考えれば考えるほどに顔が自分で赤くなっていくのがわかる。
「ッーーー!」
「どうしたの?顔が赤いけど」
下を向いている私の目を覗き込むように顔を近づけてくる。だめだ。これは完全にハマっちゃてる。
今ここで気づいた。私はミアに対して特別な感情を持っている。それは主に……恋愛感情という。しかし私の思いがわかっても相手の心情はわからない。とりわけ、ミアはなにを抱えているかよくわからないのだ。今はよく喋る子だけど昔は全く喋らず、一時期は心が壊れていたとサタンさんに聞いたことがある。そんな彼女は、時々、黒い深淵のような穴を私に見せることがある。その穴の中に私たちの思い出が入っていくのだが、その穴が埋まる気配は一向にない。
それほどに、ミアは不思議な子なのだ。
「……ねえミア。ミアは私のこと、好き?」
「好きだよ?さっき言ったじゃん」
「その気持ちに何か特別なものは混じってる?他の魔王軍のみんなとかももちろん好きだと思うんだけど、私にだけ持つ、特別なもの」
「そう、それがわからないんだよねー。だからこんな質問をしたわけだけど」
「そっか。じゃあ私はここで宣言しとくね。私はミアのことが好き。それは性的な意味で。ミアに抱きしめてもらいたいって思ってるよ」
※※※
軽い気持ちで聞いた質問がまさかこんな形になって帰ってくるとは思いもしなかった。
「え、ティアがボクのことを好き?そんな冗談は……」
「いや、本気。さっきは逃げようとしたけど今度ははっきりと言わせてもらう」
「そ、それは……」
すごい反応に困る。ボクはまだ好きかどうかはわからない。あくまでグラザームさんに言われてそんなことがあるかもなー、的なノリで言った言葉だ。それがティアの本心を聞くことになるとは。
「と、とりあえず、ボクはティアのことが好き。これは確定してる。ただ、それが恋愛感情としての好きなのかはまだ確信を持ててないんだよね。だからさ、答えというか、自分の気持ちに整理がつくまで返答は保留にしてていい?」
「いいけど……なるべく早くね。私も勇気を出して言ったんだから」
「分かった。けどまずは、目の前のことを楽しもう……って言っても無理か。ちょっと特別な感情がが入っちゃうよね」
「だね。私もまだ心と体ともに暑いからなー。落ち着きたい」
そう言って周りを見渡す。さっきまでいなかった鳥がそこら辺を優雅に飛んでいる。やっぱり、こういう景色は心に響く。
そうして、10分ほど静かに海を眺めていた。周りは静かで、考えるには適した環境だった。
「……そろそろ戻ろっか」
ボクはオールを再度展開させボートを漕いでいく。
船着場についてボートを返したその10分後。
ボクらは全く言葉を交わしていなかった。そりゃああんだけ気まずいことになればねえ……。
「えっと、これからお土産買いに行くんだっけ?」
勇気を出して口を開いた。
「そう。どうする?また中央商店街に行く?」
「いいんじゃない?そこにあったお菓子とか買ってけばみんなも喜ぶだろうし」
「よし。じゃあそうしよう」
※※※
「うーんと、これとかどう?このクッキーってお菓子?美味しそうだし、大容量で配るにはいいと思うんだよね」
「配る人数は幹部の皆さんと魔王様で9箱。私の魔法隊が20人だから……29箱?」
「いや、ボクの魔剣隊も15人いるし、ボクらにも買わないの?」
「じゃあ50箱買っていくか。キリいいし」
「すいませーん。このお菓子、50箱ください!」
「5、50箱ですか⁈」
「はい!」
「お、お間違えがないようでしたらお会計の方に……」
「間違えはないです!」
「では、合計で金貨2枚と銀貨3枚になります」
お財布から金貨と銀貨を取り出してトレーに置く。
「はい。ちょうどですね。お買い上げありがとうございました」
「よし、これでお土産購入は完了だね」
「うん。じゃあ後はホテルに帰っちゃおう」
※※※
「いやー、このホテルもあと30分でお別れかー」
「だね。この眺めとか、ベッドとかも寂しくなるなー」
「でも極論また来ればいいからね」
「お休みがとれたらの話だけど」
主に旅行の思い出を話しながらバッグに荷物を詰めていく。
「よし。ボクはこんなもんかな」
「本当に?忘れ物はないね?」
「ないよ。何回も確認したもん」
「じゃあ大丈夫かな。この鍵、フロントに戻してチェックアウトしちゃおう」
「本当に、寂しくなるね……」
まあまた来れるか。