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ウーロン1日目

「ここがウーロンかー!」


 持っていた大きめのバックをそこら辺に投げ出し砂浜に向かって走り出す。


「あ、ちょっと待ってよ!」


 ティアは荷物を持って、塔から出てきたところだった。

 

 魔族領ウーロン。魔都から南東方向に馬車を使って3日ほどの場所にある。でも今回は馬車を使って移動する時間はないのでティアの転移魔法で移動。いやー、こういう時に転移魔法って役に立つよね。


 ちなみに転移魔法は街中で使うのは色々と制限がある。1つは必ず都市の中にある塔の内部にテレポートしないといけないこと。この決まりは安全対策として作られている。そこでテレポートした人、テレポーターの身分など安全確認を行い、街に入ることができる。仮にどこでもテレポートしていいよー、ってなったら身元確認が不十分で盗賊とかも入り放題、街がすぐダメになっちゃうからね。

 

 そしてこの決まりを破ろうとすると自動的に近くの塔に送られることになる。あ、この塔は牢屋がある塔ね。つまり投獄ってこと。どうやって街中の塔にテレポートする人としない人を判別しているかは不明なんだけど、どうやらこれは魔王様の力の一端みたい。魔王とは魔族領を統べるもの。魔族領の情勢や人の動きは把握しているとは本人談。いやー、すごいね。魔王って職業は。

 

 で、ボクとティアが転移したのはウーロンの塔。この塔はその都市の色、特色が出ることが多いんだけどウーロンの場合は鮮やかなブルーと緑色のコントラストが特徴の作りになっている。なんかいつでも夏、って感じがしていい。ちょうど今の季節も初夏になったぐらいだから観光時期的にはベストだったかもしれない。


 そしてその塔で安全確認のチェックを済ませたんだけどやっぱり、驚かれた。


「ラミア様とミーティア様……ええっーー!なぜおふたりが……」

って感じで。あの時は口に手をあてて黙っててもらった。やっぱりお忍びの方が良かったのかな……。いや、でもせっかく観光に来たんだしわざわざ素を隠さなくてもいいかな。


「やっぱ海は最高だよ!」


「この風が吹いている感じもいいね。天気も快晴だし。でもそれは一旦後にして、まずはホテルのチェックインを済ませちゃおう」


「えー、もう行っちゃうのー?」


「まあまあ。また後で来ればいいじゃん。3日間もあれば来る機会はいくらでもあるんだから、ね?」


「分かったよー…」

 

 ティアになだめられて宿泊するホテルに向かう。

 

「今回泊まるのはここ、ホテルグラウンド!魔族領で最も有名と言っても過言ではないでしょ」


「ここがあのホテルなんだー。何回か雑誌で見たことあるかも」


「だよね。世間知らずなミアでも知っていると思う」

 

 ホテルグラウンド。ティアが言っていたように最も有名なホテルの一つ。特徴はなんといっても料理で、さまざまな高級海鮮物がフルコースで食べられる。確か一泊料理付きで金貨10枚ぐらいした記憶があるんだけど……。まあそこは気にしないでおこう。それに、お金だけは無駄にあるからね。単純な幹部給料に加えてペンタグラム特別報酬、戦いでの功績でさらにプラスされて、もう自分でもいくらもらったかなんて覚えていない。まあそのぐらい貯金はあるんだし問題ないよね。


「予約をしていたミーティアなんですけど……」


「2名様2泊でのご予約ですね。確認のため、それぞれお名前を頂戴してもよろしいでしょうか?」


「ミーティアです」

「ラミアです」


「かしこまりました。ミーティア様にラミア様。今回はホテルグラウンドにお越しいただきありがとうございます。こちらがお部屋の鍵、1015号室の鍵になります。何か不明な点がありましたらこちらのフロントまで声をおかけください。では、ごゆっくりお過ごし下さいませ」


 さすが一流ホテルのフロント係。対応に無駄がないのに加えてわかりやすい。いいね。


「今回は1015室だから……10階まで登るのか」


「だね。まあそこに転移石があるからそれで移動できるね」


 エントランスの奥にある10個の転移石。これは……特定の場所に転移するタイプか。

 

 転移石には主に2つ、タイプがあって、1つが今回みたいに特定の場所にのみ転移することができるもの。これはあらかじめ転移する場所を設定することができて、使用した場所と目的地を一方的に繋ぐことができる。イメージでいうと、片道切符って感じ。例えば今は1階、エントランスにいるけど、10階に移動したい時は10階へ昇る専用の転移石を使うことになる。そして10階には1階に移動できる転移石が別にある。

 不便な点は1個の転移石につき一つの場所しか指定できなく、さらにそれは片道切符だということ。

 しかし利点もある。それは軽量で、どこでも使えるということ。だから戦場で使われる転移石はこのタイプ。戦場で窮地に陥った場合、転移石には魔都をテレポート場所に設定しておくと一瞬で移動できる。しかも持ち運びもしやすいから便利。

 

 そして転移石のもう1つのタイプ。それはまあ……おいおい説明するということで。


「10階に移動するにはこの転移石を使えばいいのかな。この端っこの」


「多分ね。それでいいはず。じゃあ早いとこ移動しちゃおう、荷物が重い」


 手を重ねて転移石に触れる。すると転移魔法特有の青い光がボクらを包み込み10階に転移させてくれる。


 転移したのは綺麗な廊下。床は黒のカーペットとその模様で敷き詰められていて、壁はクリーム色。廊下幅も広くて人が通る分には問題ない広さだ。でも、泊まるのは人型の者だけじゃないからこの幅でちょうどいいのかもしれないな。


「1015だから……ここかな。この角の部屋」


 ガチャ。鍵を使って中に入る。


「「うわーー!」」


 部屋の中に入るとまず目に入るのは大きなベッド。分かれてはいないが、キングサイズのベッドだから2人で寝るには十分すぎるサイズだ。そして景色。角部屋、しかも最上階ということもあり海が一望できる。


 思いきってベランダに出てみると海風と太陽の光が当たって、さらに開放感がます。 

 見渡す限りの海。人生で一度は見てみたかった光景だ。……3年前の自分が見たら驚くだろうな。あんな地下牢に一人で閉じ込められて、陽の光にも当たらず拷問に等しい訓練を受ける日々。

 

 でもそんな日々も色褪せて忘れてしまうほどに今が楽しい。海を眺めて、隣には親友がいて。あーあ、こんな日々がつづけばいいのに。こんな平和な日々を紡いでいって、人生を全うする。そのためにもまずは敵を、人類を根絶やしにしないとね。


「ティア、荷物置いたら海に行こう!水遊びしようよ!」


「いいけど、負けても知らないよ?水が当たって泣かないようにね」


「それはティアの方こそ」


※※※


「これが砂浜、これがビーチかー!」


 観光客は多いけど、ボクらが居るのはちょっと人から離れた別のビーチ。いわゆるプライベートビーチってやつ。ここは魔王軍の私有地、しかし軍人であれば誰もが入れる、という場所ではない。ここに来るには主に退役軍人。魔王軍で任を果たした人に贈られる特権のうちの1つ。じゃあなんでボクらが入れてるのかって?それはまあ……幹部の特権ってやつ?でも恐らく、犯罪以外のことなら幹部特権でなんとかできる気がする。何か融通してー!とか、何か頂戴ー!とか魔王様にいえば……。いや、権力を振りかざすのは常識の範囲内で。これは鉄則だ。


「それにしてもこの砂……やけに細かいな……」


 手で砂を掬いパラパラ〜っとやってみる。


「砂浜ってそういうものよ。私たち魔法使いはこの砂を頑張って再現しようとしているんだけれどね……なかなかうまくいかないのよ」


「なんで再現しようとしてるの?」


「だってこの砂、細かいから竜巻とか起こす時にいいじゃん。目に入ったら目眩しにもなるし。色々と有用性はあるのよ」


「ふーん」


 ティアがまじめに何か考えている横でしゃがんだところにある海水を手で掬いティアにぶっかける。


「キャッ!ちょっと、不意打ちはずるい!」


「ごめんごめん。つい、悪戯心が湧いちゃってね」


「こうなったら……」


 ティアも負けじと水を手で掬ってボクの方に飛ばしてくる。


「へへ、そんなスピードじゃ当たらないよ。……て、待って。それは水遊びの域を超えてない⁈」

 

 ティアは魔法で海水を持ち上げ、バレーボールほどの水の球に変える。


「大丈夫、大丈夫。海水だからミアがやったのとなんら変わらない。ということでお返しだ!」


「いや、ボクが困るんだけど……キャッ!」

 

 その後も、魔法で水球を作ってお互いに投げ合っていた。途中から白熱しすぎて海水を加工するんじゃなくて、魔力で作った自分の球を投げ合っていたけどね。……あれ、砂浜ですることじゃなくない?


 ちなみに遊んでいる途中、時折こっちを見てきてガヤガヤ喋っていた人がいたけどあれはなんの話だったんだろうか。


「あー、疲れた。ペンタグラムのと同じぐらい疲れた。服もびちゃびちゃだし、変えないよ〜」


「流石に本気になりすぎ。少しは加減ってものを覚えてほしいね」


「いや、だってー」


「いやじゃない。すんなり受け入れるの」


「はーい……」


「もう時間もいい感じだし、ホテルに戻ろっか」


 ボクらが砂浜を後にしようとホテルの方向に歩き出すと、ホテルが夕日に染まっていることに気づいた。


「きれい、だね」


「だね」


 たった数秒のやり取り。けれどこの間は言葉では言い表せないほど長く感じた。人は皆、情報が一気に押し寄せたり、心がいっぱいになって溢れそうになった時に時間を長く感じることがある。それが今だ。ボクは夕日と横にいるティアのおかげで心が満たされ、とても幸せに感じている。人はこれを現実逃避、なんていうけれど本当にそうだろうか。


「…………さ。戻ろう。夜ご飯が待ってるよ」


「夜ご飯!食材たちがボクを待っている!」


「食い意地は譲らないのね……」



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