空虚
……辛い。今すぐにでも逃げ出したい。
ここにきて3年が経った。体は育ち、剣もある程度身についてきたがボクの扱いは変わらずサンドバックになる日々。
ここに来てから、自分の心が荒んでいくのがはっきりとわかった。朝起きたときに最初に目に入るのは汚い地面。周りを見渡しても灯りはろうそくのみで空気が悪い。それに3年間、ボクは陽の光にあたれていない。
会話も話すというより一方的に何か言われているだけ。
なんかバカみたいだ。
生きることを放棄したいけどそういうわけにもいかない。だって今死んだら何も残らないじゃないか。この世界に想いすら残せずに死ぬのなんて嫌だ。誰かに、1人でもいいからボクの想いが伝わってほしい。ボクは誰かに大切にして欲しかったんだ。ただそれだけなのに。
今日はずっと剣で斬られて出血しても、なにも思わず少しヒリヒリするなと感じるぐらいまで麻痺してしまっている。
もう…どうしようかな。
ボクはこいつらが憎い。殺したくなるほどに。満ち足りていた日々を奪った張本人だ。
でも力では勝てないし逆らえない。受け身になることしか無い。
痛いことは嫌だしもうなにも感じたく無い。
そもそもボクはなにをすればいいんだ?勇者は今までの歴史でなにをしてきた?
戦う?誰と?敵は?
—------------------敵は、人間?
ボクは勇者だ。ずっとそう言われてきた。
勇者は世界を救うもの。
最初に言われた言葉だ。
この世界を捻じ曲げているものを滅ぼすのがボクの使命。
この世界を好き勝手しているもの。
それは…………人間だ。
私利私欲で同じ種族のものを使い、卑下するような目で見る。
まるで同じものと見ていないように。
こんなのはゴミだ。
死んだ方がいい。滅ぼすべき、ボクの敵だ。
※※※
「朝だぜ勇者。今日のご飯…どしたお前?顔色悪いぞ?」
「…………」
「返事ぐらいしろよ」
「…………」
「反応しねえのか。まあいい。おとなしいに越したことはないからな」
投げるように食べ物を置く。
「ところで、お前の初陣の日が決まった。ということで今日から今まで以上にばしばし鍛えて行くからな」
ドタッ
「チッ反応しろよ。気持ち悪いな」