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決勝戦1


 今大会最後の試合、決勝戦が始まって数分。観客は皆、こう思っていた。

自分達は何を見せられているのだろうか、と。

 

 目の前で繰り広げられているのは魔王軍最高峰の、世界最高峰の試合だ。だからこそわからなかった。なぜならば、速すぎるからだ。


 戦っている幹部第7席ラミアと、第8席ミーティアはお互いに全力で戦っていた。ミーティアは魔法を放ち続け、ラミアはそれを避けながら反撃の機会を狙う。たったこれだけのこと。しかし観客は速すぎて目で追えていなかったのだ。

 

 かろうじて見えるのは雷や雨雲などの具現化した魔法のみ。そのほかはただ残像が残るだけで何も見えていなかった。


 それはその他の幹部全員も思っていたことだった。


「ねえ、ティアってこんなに魔法の早撃ちをできていたの?」


「魔法の師匠である私もあの速度で連発できることは知らなかったわ」



「ヒリア殿。ラミアはあの魔法を見切ったうえで反撃しているのか?」


「みたいだな。ぶっちゃけ、俺でもあんなのは見えませんよ」


 幹部でさえもこの反応。

 

 そして当の本人達は


「そう、これだよティア!この感覚、たまんないね!」


「そうね!いつもより楽しく感じるよ!」


 

 楽しんでいた。


※※※

 

 普段は闘技場を破壊しないように抑えているけど今回はそんなことしなくていい。周りは魔王様とサタンさんが作った結界に囲まれているし、何よりこれは大会なのだ。本気でやらないでどうするんだ。


「ねえ、まさかこの程度の乱打でボクに傷を負わせられると思ってないよね?」


「まさかね。私はあなたの実力を1番理解しているもの」

 

 ティアの放つ魔法はどんどんと威力を増し、そして早く撃ってくる。


「おいおい、このままだといくらラミアでもどうにもならないんじゃねえか?」


「ッ!これは流石にやばいね」

 

 右に躱しても左に躱してもその先には新しく魔法が置いてあったりするし地形もめちゃくちゃ。走れる場所なんて限られている。


「設置魔法<火球>(バーニング)」


 そして厄介なのはこの設置魔法。その名の通り任意の場所に魔法を設置し、何者かが踏んだり一定条件を満たすと中に仕組まれていた魔法が発動するというもの。位置さえ覚えていれば気をつけるだけだからそこまで脅威ではないんだけど至る所に設置されていて覚えきれない。仮に覚えていたとしてもそこに上手く誘導させられて踏ませられる。


 今までこういうやり方をとっている人は何人も居たし見てきた。例えばニーヒルさんとかサラさんとか。でもその2人とは違う次元の攻めだ。完全に洗練されてい

る。


「あとミア。君には少しだけど癖があるよね?」


「なんのこと?」


「ミアは左に避けた後、必ず後ろにジャンプして距離を取る」


「しまっ……」

 

 丁度左に移動し後方に移動した瞬間に地面が光だす。設置魔法がある証拠だ。


バンッッッ!


「痛っっ」

 

 これを読んでいたように律儀にも設置魔法には今までの魔法よりも威力が高いものを仕掛けてあった。それを見事に踏んでしまったボクは怪我をした右手を抑えながら立ち上がる。


「ごめんね、ミア?今までのミアとの戦いで見つけた癖を利用しちゃった。使えるものは全て使いたいんだよ」


「その意見には同感かな。本当は使いたくなかったんだけどね、フロレントを使うか」

 

 腰に据えてあるフロレントを抜き一気に振るう。


 すると、周りにあったさまざまな魔法や設置魔法、地形までもを粉砕し元の闘技場に姿を戻した。


「え!なんで?今完全に追い詰められてたじゃん…。なんで元通りに……」


「初めて言うけど実はこの剣ね、神武なんだよ」


「え、フロレントって神武なの?」


「そう。真名を『神断フロレント』。神武の剣の中でも最高峰に強い武器だ。まあ特性は自力で当ててよね」


 ティアに向き直り剣を構える。


「それじゃ、行くよ!」

  

 第2ラウンドの始まりだ。


 地形がリセットされたこの闘技場は実に走りやすい。おかげでティアのところまで一直線で向かえる。


「ちょっと速すぎて…。<火球>(バーニング)」


「甘いね」

 

 この程度の魔法、誰でも斬れる。


「取った!」


 気づけば距離は数メートル。これなら……。

「<炎囲>」


 やばッ。ティアから溢れてきたのは温度1000度にも達する高熱。それを空中で体をよじりながら避ける。

 

 そして躱した瞬間に剣を上から下にティアの頭をかち割り、ティアからダウンを奪った。


 

「おわっちゃった訳だけど。ティアはなんで堕天使化しなかったんだろう」


 もう終わったことを確信して背を向けて帰ろうとする。が、いきなり後ろから、ティアの方から黒い魔力が溢れ出てくる。


「まだやるつもりなのね。……いいよ、受けてあげる」


「はあ、はあ。おかげさまで死にかけたよ。ギリギリ堕天使化が間に合ったけど」


 復活したティアをまじまじと見る。


「すごいね、その姿になると今まで受けていた傷を全部癒せるんだ」


 声では冷静を装っていたが確実に焦っていた。


 まずい。完全に回復されるのは予想外だ。仮に体だけでなくステータス、魔力も戻っているとしたらどうなるんだ?……仮にそれが本当なら、ボクが勝てる可能性は低くなる。なぜならボクは既に体力を消費してしまっているから。さっきと同じパフォーマンスをするのが精一杯。それ以上は限界に近い。


 でも諦める理由にはならない。頬に冷たい汗が流れる。自分自身が怖いと思っているときはいつも冷や汗が出る。が、今はその汗を手で拭った。そして覚悟を決める。


 ボクも、覚醒する。



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