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雑談


「いやー、強かったよ、グラザームさんは」


「具体的にどのぐらいの実力だと思う?」


 グラザームさんとの戦いが終わって、今は観客席でティアと話している。


「うーん、ティアが堕天使化して五分かな。そのぐらい厄介だよ」


「やっぱり、魔王軍の上位層は実力が桁違いだね」


「だねー。まして最古参の幹部ともなるとね」


「今来たのは失敗だったかな、ラミア君」


 そう、声をかけてくるのはグラザームさん。


「もう治ったんですか?」


「まあな。少し痺れがしているがまあそのぐらいは誤差だ」


「なんかお邪魔な気がするので私はもう行きますね」


「ティア……邪魔じゃないよ?」


「でも、試合もあるし」


「…そっか。じゃあまた後でね」


「うん、じゃあね」


 そう言ってティアは去ってしまい、この場にはボクとグラザームさんだけになる。


「……彼女を引き止めなくてよかったのか?」


「なんでですか?」


「だって、君は彼女が好きそうだから」

「え?いや、そんなことはないですよ」


「思いっきり目が泳いでいるが?」


「………」


「それにずっと彼女が去った方向を見ている。これを恋愛感情と言わずして何とい

う」


「………」


「まさか自分で気付いていなかったのか?彼女が好きだということを」


「ティアは……友達、ですし」


「それ以上の感情は湧かないのか?ずっと一緒に、側にいたいと思う気持ちが」


「……わからないです。ボクはティアを友達だと思っています。でもそこに恋愛感情があるのかは……」


「まあ今は分からなくていい。じっくり、時間をかけて確かめていけばよいのだ。もし1人で悩むことに疲れ、誰かを頼りたくなったら私を頼れ」


「……わかりました。考えてみます」


「そうだ、いい子じゃないか」


 わしゃわしゃと頭を撫でてくる。


「さっき戦った人とは思えない変わりようだな。しかしこの話はさておき、先ほど

の試合について話そうじゃないか」


「本題に入る前に気持ちが複雑になる話をされたのですが?」


「それは…すまないな」


「この話は2人だけの秘密で」


 指を手に当ててしーっというジェスチャーをする。


「分かった。この名に懸けて誓おう」


「ありがとうございます。では、ボクも試合の話を。まずは序盤から」


「ああそうだな」


「最初はお互い剣で戦っていましたよね。ボクは剣技をメインにして戦闘を行うため、ボクに剣を仕掛けるのは悪手だと思ったのですが………ボクが想像していたよりもグラザームさんは数倍強かったです。ヒリアさんよりも上というのは昨日判明しましたけどまさかここまでとは」


「私もだ。まさか君のような幼子に負けるとは思っていなかった。これでも、昔は剣豪として名を馳せていたのだがな」


「十分な実力だったと思いますよ。特に自らの剣が再生できることを利用してあえて破壊させるんですから。ボクはまんまと罠にはまり剣を破壊、その隙に一発叩き込まれましたね」


「あの技はそう難しくはないが初見殺しとしては十分なもの。今度やってみたらどうだ?」


「うーん、何かボクでも出来そうなものがありますかね?」


「それを考えるんだ。幸い、君にはいいパートナーがいるじゃないか」


「ちょっと、いじらないでくださいよ」


 もしかして意外とからかうような人柄なのかな。思っていたよりもおしゃべりだし、明るい方だ。


「それにしても、君のようないい新人が入ってきてくれて私は嬉しいよ」


「今更、ですか?」


「今更か?君が魔王軍に入って3年、私の感覚ではつい最近のような感じなのだが……。さらにいえば君と関わるのは今回が初めてだ。今まで君を見切れなかったのは致し方あるまい」


「後の方は正しいですね。たしかに今回初めて戦ったし面と面を合わせて会話している気がします。しかし前者は違くないですか?」


「なにがだ?」


「お忘れかもしれませんがボクは人間です。あなたと違い100年も生きられないんですからね?」


「そうだったな。それにしても、君のような者が100年も生きられないのは悲しいことだ。魔王軍としても、私のよき話し相手としても」


「………」


「まあ今は気にせずともよい。寿命など、いつ切れるか分からないのだから」


「そうですね。今は今。未来のことは後回しです」


「試合の話、続きをするか?」


「うーん、もう肩の力が抜けて戦闘に関することはなにもいえないのですが……1つお聴きしたいことがあります」


「なんだ?」


「グラザームさんは、もっと多くの手札がありますよね?」


「ほう、具体的には?」


「吸血鬼族は皆、共通して姿を変えられると聞いたことがあります。今のように人間の姿ではなくコウモリの姿やまた別の異形にも成れると」


「よく知っているじゃないか。コウモリは、このような姿だな」


 グラザームさんの姿が一瞬にして人からコウモリに変わる。


「へー、これってどういう原理で変身できるんですか?」


「どうやってと言われてもな……。強いて言えば全身の力を入れるぐらいなんだが……参考にはならないな」


「やっぱり、他種族のことはわからないままにしておく方がいいかもしれません。実は前にもヒリアさんに聞いたことがあるんです。どうやって鱗を変形させることができるんですかって」


「そうしたら?」


「同じですよ。鱗に力を入れたらこう、バッーと変形できるらしいです」


「ふははは、そうか。やはり他人の教えるには難しいことなのだな」


「あきらめないでくださいよ。で、話を戻すとそうやって体を変えることもできるし勝ち筋はまだあったんじゃないかって」


「確かに、私にはまだ取れる選択肢があった。しかしな、その戦術を試そうと思っても全て君に斬られる未来が見えたんだ」


「未来が見えた?」


「ああ、こうしたらこうやって対処されるなという謎の確信があった。だからやめたんだ。どうやら君は、私との戦いに慣れてきているようだったしな」


「……そうですか」


「そして、私は打てる選択肢がなくなったために使えるものを全て使って攻撃を仕掛けたんだ。剣、糸、盾、全てあっけなく躱されたがな。さらには雷魔法を使われ無事敗北。いやー、振り返ると完敗だったな」


「そんなことは……」


「そんなことある。いいか、君は私に勝った。それは揺るぎない事実なんだ。それは君を助けることになるはずだ。きっと」


「本当ですか?」


「もちろんだ。それとも、大先輩の言葉が信じられないかな?」


「そんなことはないです」


「それでいい。最後に1つ、重要なことを教えてあげよう」


「なんですか?」


「君が持つ雷元素。それは私が見てきたどの魔法使いのものよりもいい色をしていた。これからは表に出していくことを推奨する」


「言われなくても、これからはそうしていきますよ」


「そうか、それならいい。話は以上だ。何か言いたいことはあるか?」


「特には」


「ならば君の親友の試合を見にいくといい」


「……そのー、ありがとうございました。話し相手になってくれて」


「私の方こそだ。ありがとう」


 会話は終わり、ボクはティアの試合を見に行こうとグラウンドの方へ走っていった。



「ラミア、いい子だぞ、あの子は」


「やっとあなたもわかりましたか。ずっと疑ってましたからね。あいつはメシアからのスパイだーって」


「そんな馬鹿げた妄言は控えるよ。なあサタン?」


「そうしてくれると助かりますよ。あと、ラミアとの試合。少し手加減していましたね?」


「いやー?そんなことはないぞ?」


「勝とうと思えば勝てたはずです」


「さっきの会話を聞いていたならわかるはずだ。本当に打つ手がなくなって負けを認めた」


「……まあ、あなたが言うならそう言うことにしておきます。人間との戦いでは手を抜かないでくださいね?」


「もちろんだ。じゃあな、私も試合を観戦したいからそろそろ行かせてもらうぞ」


「逃げやがったな。……まあ彼らしいと言えば彼らしい会話の終わらせ方か」



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