サラVSミーティア2
「……そうですね。ここからは少し、本気を出します」
なんだ?ティアから何か溢れ出てくる。…これは、魔力の奔流?ティアから魔力が溢れ出てきているのか?
「私の種族は『堕天使』。その力を、忘れていませんよね?」
次の瞬間、ティアの姿が変わっていく。青い目は赤色へと変わり、背中には黒い羽のようなものがついていた。しかし変わったのは雰囲気だけではない。ティアから感じる闘気のようなものもまた、変化していく。
「これが噂の堕天使族の本当の姿ですか。堕ちても神々の側に住んでいた頃の力は衰えていないようですね。今までとは比べ物になりません。どうして本気を出していなかったのですか?」
「……答えられるものと答えられないものがあります」
「…そうですか。無理にとは言わないのでこれ以上は聞きませんよ。無粋な質問をしましたね。…それでは第2ラウンド開始です」
「<光線>(サン・レイ)」
ティアさんから放たれた細い光線は密度が高く、万物を貫通すると言われるほど強力で有名な魔法だ。ティアさんと言ったらこの魔法、すなわちティアさんの代名詞だ。
「付加呪文<シールド>」
しかし、そんな光線はかえってサラさんの顔を掠めて後ろの障壁にあたり散っていく。
「付加呪文…<反射>と言ったところですか。あと一歩反応が遅れていたら避けれませんでしたよ」
口ではそんなことを言っているが顔には焦りがはっきりと浮かんでいた。まさか自分のお気に入りの魔法を返されると思っていなかったのだろう。付加呪文<反射>はかなりの高等呪文。感知した魔法をそっくりそのまま返すという一流魔法使いの中でも使えるものは少ないだろう。
「<闇槍>(ダークランス)」
「闇属性魔法か…」
サラさんは<闇槍>をシールドで受けず避ける選択をした。
「槍よ、追え」
槍は方向を転換し避けたサラさんの方へ向かって飛んでいく。
「っく。私は聖職者ではないから聖属性の魔法を使えないのよねー。…さて、どうしたものか」
そんなことを言っている間にも槍は迫り、サラさんの体力を削っていく。
「ぐはっ」
ついに体力の限界がきたのか、はたまた別の理由があるのか。
「………やっぱりね。その槍は私に一度でも被弾をすると自動的に消滅する。その予想は外れていなかった」
「さて、これはどうしますか?」
「何が、起こって?」
いきなり地面に倒れ、四つん這いになる。これでは無防備すぎる。なぜサラさんは立ち上がらない、いや立ち上がれないんだ?
「この闇属性の魔法は相手のステータスの一部を低下させ、その分を上乗せすることができます。今回奪わせてもらったのは<筋力>のステータス。筋力、すなわち足の筋肉です。足に力が入らないなら効いたと言うことですね」
「なるほどね…種族の差をこんなにも感じるとは」
「これは種族の差ではありませんよ。職業と、私とサラさんの実力の差です」
「ふっ、言うわね。しかし足が使えずとも移動手段はあります。地形操作…」
「それを私が許すとお思いで?」
サラさんの方に集まっていた地面はティアによって破壊された。実質移動が封印された。これは…ティアが勝つ。
「これで終わりにしましょう。私もこの姿が辛いのでね」
ティアの手に集まるのはさっきも見た闇属性の魔力の渦。
「<破壊>(デストロイ)」
万物を破壊してしまうようなその渦はゆっくりとサラさんへ向かっていく。
「<障壁>」
サラさんが展開した全力の<障壁>でさえもかき消して、目標…サラさんを取り込んだ。
やがて、渦は消えて残ったのはボロボロになったサラさんと勝ったティアだけだった。
プシューと音と湯気を立てながらいつものティアの姿へと戻っていく。目の色は青に戻り羽も消え、内側から溢れ出てくるような魔力も収まった。
「サラさん。私の勝ちですね」
「ええそうね、完敗だったわ」
にっこりと笑い、ほのぼのとした空気が流れる。
「いつのまにか、あなたに抜かされてしまいましたね。もう師匠とか名乗れません」
「いいえ、サラさんはいつまで経っても私の師匠ですよ。それともなんですか?負けたら師匠じゃなくなるんですか?そんなこと、ありませんよ」




