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日々

「●●●様、王宮に着きましたぞ。」


 王宮?王宮はここ、メシア王国の王都にある王族の住む場所のはずだ。


 なのになぜ、ボクが連れてこられたのかは検討もつかなかった。


 騎士の人に先導されるが角を曲がり部屋に入る。


「陛下。新たな勇者を連れて参りました。」


 先導が片膝をついてかしこまり、それにつられてボクも片膝をつく。


「おー、よくぞまいられた。我がメシア7世である。顔を上げて見せよ。」


 顔を上げてもいいのかと戸惑いながらゆっくりと顔を上げる。そこにいるのは30才にもいかないように見える男の人だった。


 まず最初に思ったのはこの人から発せられている威圧感。見つめられるだけでかしこまってしまうそんな雰囲気___。

 しかし威圧感からは想像できない優しさ。先ほどの騎士のように仮の優しさではない心からの慈しみ。


 相反するような気持ちが生まれうまく混ざり合わずに溶けていく。


「良い目をしている。次代の勇者よ。長旅で疲れたであろう。部屋は用意されておるから今日はそこでじっくり休むと良い。」



「あ、ありがとうございます。」


 そのまま部屋を退出し先導に従った。



※※※



「勇者が部屋を出ました。手筈の通りに?」


「ああ。これも神の思し召しだ。予定通り」


「勇者を鍛える、ですね。どれくらいかかるでしょうか」


「分からん。まあ気長にやれ。心と体、どちらも鍛えるのだ。あの方に認められるほどにな」


「かしこまりました。ではそのように」



 再度騎士の人の後ろを歩いて行くと地下に続いている階段が現れた。陽の光は途絶え、照らすものはろうそくだけになっていく。



 どのくらいだろうか。王宮内にしては長すぎるほど歩いた。軽く見積もって100メートル。感覚的には200メートルほど。いかんせん、ろうそくだけの単調な道では距離感覚が壊れてしまう。不安になり後ろにいた騎士の人に聞こうとするも、その人の纏う空気が変わった。



 この雰囲気は、この空気は…お父さんのような……


「ようやくここまで連れてこれたよ。なあ勇者さんよ、ここを見て何か気づくことはないか?」



 そう言われて周りを見渡す。


 特に変な景色には見えないが少し汚いかも?いつもボクが過ごしている座敷とあまり変わらないような…


「ンッ⁈」


 口を布で塞がれ、地面に叩きつけられる。頭から石畳に衝突し、痛みが襲ってくる。


「気づいたようだな。ここは王宮の地下牢だ。上へ上がるには鍵が必要な厳重な場所。ここならいくらお前を痛めつけても声すら届かねえ」


 男がそう言い終わるとタイミングを見計らったかのように周りのろうそくが一斉につき部屋全体を照らしていく。


「さあ、改めて名乗ろう。俺はメシア王国十ニ騎士、第九席クルガだ。これからはお前の特訓を任された、お前の育て親のような立場だ。」


 特訓?十二騎士?


 そう一言言い切ると、クルガと名乗る男は何か思案顔になってぱっと思いついたような顔をする。


「まず最初に剣でも握ってもらおうかな。勇者というのは剣が得意なやつが多いがそうじゃ無い奴も多い。仮に剣が使えてもスタートラインも違うわけだしな。」


 そう言われて目の前に剣が投げ出される。ボロボロな錆びているような剣だ。しかし握らないわけにもいかないので言われたままに握る。持ち手は錆びていて錆びのザラザラとした感触に襲われる。


「さあ振るってみろ。俺を目がけてな。」


 そう言われると、クルガと名乗った男目がけて軽く振るう。


「おい、もっと強くだ。殺意を込めてな。こうやって!!」


 ウッ。


 気づけばボクの背中から赤いものが流れていた。


 斬られたのか……


 人生ではじめての切り傷でヒリヒリと痛むがそれを堪えて剣を持ち直す。



 そして今度はさっきのよりも強く振るう。



 その剣は風を起こすほどの速さと威力だったがクルガの脇腹スレスレを通り空を斬るに落ち着く。


「なんだ。やればできるじゃないか!」


「これならいい感じのサンドバック程度にはなるかもな!」


「ヘブッ」


 剣を空振り重心が崩れていたボクをクルガが獲物を見つけたような目で見てくる。

 腹の辺りを膝で蹴られ痛みに襲われる。みぞおちに入ったかもしれない。


 そのまま狼狽えていると今度は拳で殴られる。そして1発、また1発と殴られた。


 その後も剣で斬られたりみぞおちを殴られたりと好き放題にされた。



※※※



そしてその特訓…一方的な暴力が終わった時にはボクは血まみれの骨折だらけになっていた。


「とりあえず今日はこんなものでいいだろう。おい立て。この地下室は自由に使っていいが俺の言うことは聞いてもらうからな。」


 立て、と言われても……。足も斬られまともに立てやしない。


「ほら今日の分のご飯だ。勇者は世界を救うものだからな。しっかり食わなきゃその土台にも立てねえ。」


 目の前に投げ出されたご飯は少しの焼肉と野菜だけだった。しっかりというにはあまりにも少ない食事。


 これだけでは妹と過ごしていた時の方が多く食べていた。


 おかしい。絶対におかしい。



 英雄になりたいなんて気持ちはないけれど未来の勇者であるボクがこの扱いなのはおかしい気がする。


 これでは、これでは…


「おいなにぼーっとしているんだ。それじゃ俺はこれでこの部屋を出るから後は寝るなりして適当に過ごしとけ。じゃあな。」


 そう言って階段を登っていき扉を開けて出て行く。


 そして残ったのはボクと少しの灯りだけだった。



※※※



 次の朝。この日から本格的な地獄が始まった。


 まずは朝。少量のご飯と剣を与えられ食後すぐにクルガと一騎打ちの特訓に入る。

 特訓というのは名ばかりで実際はサンドバッグにされて骨折したり、顔が腫れたりと散々なことになる。


 そしてお昼。この頃には午前中に食べたご飯は全て吐いてしまい胃袋には何も入っていない。が、ご飯なんてものはなく『治癒』(ヒール)で傷を癒やされ即午後の特訓に入る。


 午後はクルガとは別のやつが来て指導してきた。


 一部の人はクルガと同じようにボクをボコボコにしてストレス発散の相手みたいに扱うけど、また別の人はしっかり指導してくれる。剣の持ち方、体の使い方、心持ちなど。



 そして全員が揃って言っていた王国十二騎士という単語。


これは未だよくわかっていないけど偉い人なのだろうと思っている。



そして夜。傷は治されずにご飯が与えられそのまま就寝に着く。


 こんな日が3年も続いた。




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