サラVSミーティア
そんなこんなで準々決勝も最後、第4試合へ移ることとなる。
第4試合はサラさんvsミーティアだ。今回のペンタグラムの目玉試合の1つといえるだろう。魔王軍最強の魔法職者は誰なのか。この問いの答えとして真っ先に思い付かれる2人。今まで何回も議論されてきたがそれも全て答えとはなり得ない。しかし今回、答えが導き出されることとなる。
魔王軍の中枢を支えてきたエルフのサラさんか、堕天使のポテンシャルを持つミーティアか。最高峰の魔法合戦が繰り広げられること間違いない。
ボクから見てもどちらが勝つかなんて明確には言えず、先が見えない戦いだ。個人の感情を入れていいのならば親友であるティアに勝ってほしい気もするが。
「ティア、その…がんばってね」
「うん。ここでサラさんを負かして魔法職最強は私だってことを見せつける」
「その意気だよ、自信を持ってね?」
「分かった。じゃあこれで」
「……」
そういうと、ティアは去ってしまった。……いつも以上に気合が入ってるな。いつもは話しかけると必ずと言っていいほど笑ってくれるのだが、今日は真剣な顔のまま去ってしまった。……なんかちょっと怖い。でもそれがいいかも。なんか冷たい目で見られるのも悪くないような気もする。っといけない。もう試合が始まるんだった。
サラさんは手に杖を持ち、ティアは魔導書を持って位置に着く。
「試合開始!」
「ティア。ここで決着をつけましょう、どちらが魔法使いとして上か」
「いいですよ、その勝負乗りました。いくら師匠といえども負ける気はありませんので」
「私も弟子に負けるほど腕が落ちているとは思いませんので」
「「<火球>(バーニング)」」
火元素初級魔法、<火球>。火元素に適性があるなら誰でも使えるような魔法。しかしあの2人が放ったものとなれば話が違う。一般魔法使いが放つ上級魔法並みの威力がある。両者から同じ魔法が放たれ2人のちょうど中間地点で相殺し、魔力が雲散して消えていく。威力は五分。速度も大して変わらない。………つまり2人の実力に大差はないということだ。
先に仕掛けたのはサラさんの方。
「<落雷>(ライトニング)」
「<障壁>(シールド)」
障壁。いわゆる防御魔法の1つで自身の周りに小規模の結界を張ることができる魔法。広範囲に張ることも可能だがその分1枚1枚が薄くなり防御が弱くなる。
サラさんが放った落雷は1本だったためシールドとは相性がいい。
「<氷槍>(アイスエイジ)」
「<火球>(バーニング)」
「<砂嵐>(サンドサイクロン)」
「<風嵐>(ウィンドサイクロン)」
サラさんの攻撃をティアは反対の属性を持つ魔法で防いでいるのか?<氷槍>には<火球>で相殺。<砂嵐>は<風嵐>で相殺した。瞬時に放たれた魔法を解析し、最適解を行う……。並の技量ではできない。そもそも自分が知らない魔法だってあるはず……ないのかな?それは2人にしかわからないけどお互いに初見殺しぐらいは持ってそうだ。
「それでは、」
「ウォーミングアップはこのぐらいにしますかね」
お互いに向き直り、続々と魔法が放たれていく。よく見えないが防御と攻撃を両立しているのはわかる。<障壁>を張りながら別の魔法を打つのは正気じゃないことだ。
それは<障壁>に隠された秘密にある。<障壁>がなぜこんなにも汎用性が高く便利な魔法なのか。それはシールドを張っている間は別の魔法の威力が落ちるが、その代償にシールドが分厚くなるという『チェイン』の元に成り立っているから。『チェイン』はいわゆる<縛り>で何かを犠牲にする代わりに別のものが強くなる。
<障壁>がその最たる例だ。
何が言いたいのかと言うと、縛られた状態の中でお互いにやり合うのは決着がつかないと言うこと。……まさか、ティアはこれを狙って?
「地形操作<ロックフォールド>」
ここにきて地形操作か!サラさんは自身の周りにあった地面を足場のように使い空に飛び上がる。上を取る、取られると言うことはそこまで軽いものではない。下になってしまうと上を攻撃する手段が著しく少なくなる。しかし、上を取ることができれば下を攻撃することは容易。これでサラさんが一歩リードした。
「<洪水>」
サラさんが放った水の塊。それは濁流となってティアを飲み込もうとする。
ここで初めてティアに焦りが浮かんだ。顔をしかめながらもシールドを全身を囲むように展開し、身を守る。
「<爆発>(エクスプロージョン)」
「あっっつ。なんで<障壁>貫通してんの?」
何が起こったんだ?たしかにティアは<障壁>を張って身を守っていたはず。それなのに<爆発>に被弾した。シールドが甘かったのか?いや、ティアのことだ。そこまで杜撰ではないと思う。
「サラさん!何をしたんですか⁉︎」
「ふふ、それがわからないうちは私には勝てませんよ。自分で解明してみてください。<爆発>」
「またっ⁉︎」
またも被弾しティアの<障壁>が壊れた。投げ出されたティアは地面に横たわるように転がっていた。
「おやおや、この程度で壊れてしまう<障壁>とは。まあ、かえってよかったかもしれませんがね」
地形操作を解き、優雅に地上に降り立つ。
「痛ててて」
「よく私の<爆発>を2回くらって立ち上がれましたね。意外とタフなら先に言ってくれればよかったのに。<風……」
「…サラさん。さっきのトリック、答え合わせしてもいいですか?」
「……いいですよ」
「……1回目に被弾した時に違和感を感じました。私自身が<爆発>を食らっているのにシールド自体はそこまでダメージを受けていなかった。つまり私だけが<爆発>の影響を受けたんです。……サラさん、あなた私に教えていない<障壁>の秘密がありますね?」
「いやー、なんのことやら」
「白々しいんですよ。……<障壁>を全身に展開させても足元、地面まで覆うことはできない。これが<障壁>の特性、私が攻撃を受けた理由です。あなたは私の足元に、<障壁>が張られていないところに<爆発>の魔法を発生させた」
「正解、ですけどそれ以上のことは分かりますか?私がどうやって<爆発>をあなたの足元に『送った』か?」
「………まさか⁈」
「地面の中で魔法を動かしたんですね」
「直前に地形操作をしたのはそのため⁈」
「そう、事前に地形操作をしておくことで地面の中に魔法を送り込みやすくし、上手に移動させられる。いわば『準備体操』ですね」
「地面の脈動を使って<爆発>を私の足元に移動させた……。内側から爆発したならシールドがかえって爆風を内側にとどめてしまったってところですかね」
「そう。また1つ賢くなりましたね」
「……そうですね。ここからは少し、本気を出します」




