表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/114

ニーヒルVSカルタ

 次は準々決勝第3試合、ニーヒルさんvsカルタさんの一戦だ。精霊族の女王で、あらゆる事象を精霊の名の下に引き起こすことができるまさに災害。前回見たように、ヴェラさんなどの近接戦闘が得意なものと相性が良く、よほどのことがない限り勝つことができるという恐ろしい方だ。なんなら広範囲に事象を引き起こせることから集団戦でこそ真価を発揮するのだがそれはまた別のお話。


 対してカルタさんはザ・獣人。力こそ全てという獣人族のトップにいるということは、全ての獣人族を倒し最も強いということが認められた獣人族最強の戦士だ。戦闘スタイルも遠距離攻撃は邪道という獣人族の考えからか近接に特化している。しかし、近接タイプとはいっても少し長めの短剣と肉弾を得意とする近接のオールラウンダーだ。


この2人の勝負は最も幹部同士の戦いで序列が離れていることから結果はなんだかんだニーヒルさんが勝つと思っている。しかしカルタさんに何か策があれば別の話となるが、まあ狼の獣人である彼がそんな策を用意しているとは考えにくいのだが。



 相変わらず小さくて見にくいニーヒルさんと、体長が2メートル近くあるカルタさんの対照性が少し面白い。


 2人が位置に着いたところで試合が始まる。 


「試合開始ッ!」


 試合が始まるとワンテンポ遅らせた後にカルタさんが歩き出す。ゆっくりと近づいていき、攻撃に注意しているように周りをキョロキョロと見回していた。ヴェラさんとの戦いで地面を変形させているニーヒルさんだ、何がどう動くかは見当もつかない。もしかしたら歩いている地面が変形するかも知れないし、上から何か落ちてくるかも知れない。細心の注意を払いつつじわじわと距離を詰めていく。


 両者の距離が残り10メートルを切ったところで地面が光り出す。光ったのはカルタさんの周り3メートルほどで、地面が爆発した。その爆発は連鎖し、地面を大いに抉ってクレーターのようになっていた。爆発は煙を伴っていてカルタさんの状況がよくわからなかったが、体毛が少し焦げているぐらいなのであまり損害はないと思う。おそらくあの爆発はあらかじめ設置されていた罠で、誰かが近づきトラップを踏むと爆発するのだろう。そこまで大きな爆発ではなかったため『殺す』のではなく『ダメージを与える』という面で仕掛けられたものだ。実際、グラウンドの土は固く爆発により飛び散ったり、飛び散った土がものすごい速度で当たったりすればさらなるダメージを期待できる。


 たいした怪我がなかったカルタさんは自分の傷を確認したのちラッシュをかけるためニーヒルさんへ向かっていく。幸い、両者の距離は10メートルほど。全力で走れば1秒もかからない。そしてカルタさんが殴ろうと拳を振るった瞬間鈍い音が聞こえる。よく見てみると、カルタさんはニーヒルさんではなく銀色に光る謎の壁を殴っていた。壁の材質は普段からよく見るものに似ており、『剣』は壁のような光沢感と硬さを持っている。そして叩くとベルのようにカーンとなる。


 …つまり壁の正体は鉄なのだ。鉄が50センチほどの厚さを持てば普通の攻撃ではびくともせず傷一つつかない。なんなら、一般兵が渾身の一撃を放っても壁は10センチも変形しないだろう。それほどの強度がある。しかしカルタさんの通常のパンチは鉄に深く食い込みあと少しで貫通するというところだった。……それほどのパンチだったということだ。その威力を察してか瞬時に鉄という材質を選び厚さを揃えたニーヒルさんのナイス判断となる。


 ニーヒルさんは目の前の壁が貫通しかけていることに気づき急いで距離を置く。あれほどのパンチを何回も耐えられるほど余裕があるわけではないのだ。一旦体勢を立て直す。しかしカルタさんが逃すはずもなし。すぐさま追いかけニーヒルさんの芯を捉えたパンチが入る。あの小さな身ではパンチ1発で致命傷だ。言ってみればあと1発でもくらえば負けが確定してしまう。


 そんな事態は避けたいニーヒルさんは、少しムキになったように攻撃を連発する。地形を変えてカルタさんの動ける場所を制限。動きが制限されたところに上から頭の大きさぐらいの岩や、大木をへし折るほどの雷が大量に降ってくる。さらには横方向からドラゴンが放ったような炎がカルタさんを焼き尽くそうとし、取り巻いていく。


 サルベージュさんの物量作戦と似ているが質が違う。違ったもの、今回は岩であれば固形物、雷であれば電気系統、炎であればエネルギー系など属する系統が違うと対策の仕方もそれぞれに合ったものをしなければならない。それらの攻撃を適切な防ぎ方で全て流すのは困難を極める。サルベージュさんの物量は言ってしまえばアンデッド一種で対処がしやすかった。求められる器用さが段違いなのだ。


 最初は落石に注意していたカルタさんだったが次第に雷が加わり、炎が加わり苦しくなっていった。避けようと必死になり、もがけばもがくほど地面の泥に足を取られてさらに被弾する。 


 ヴェラさんの時もあったが初見でこの攻撃を全て捌くのは不可能に近い。そのため被害を抑えることに専念した方が効果的だ。それに気づいたのかカルタさんも状況を打破しようと方向を変えた。


 まず、囲まれていた地面に剣を突き刺し横にスパッと一刀する。上から降ってくる岩は、体の筋肉に力を入れることで当たった瞬間に砕くという常人離れした技でしのぐ。そして雷と炎は耐性があるのか基本受け入れている。


 物量を凌ぎ、嵐が過ぎ去った後に訪れるのは快晴、すなわち好機。ここで決める、と思い多くのエネルギーを使って疲弊しているニーヒルさんに掴みかかる。


 ヘトヘトな状態なニーヒルさんだが、絶体絶命の状況、追い込まれた際の馬鹿力で地面を隆起させて5メートルほどの高い高い金属の壁を作る。


 最初の鉄の壁よりも強度、厚さ共に上で破壊するのは困難。足止めされたように見えたカルタさんだったが持っていた剣を壁に突き刺す。そして突き刺さったことを確認するとカルタさんがニヤッと笑みをこぼす。


「起動」


 そう言った瞬間に壁の金属は剣が刺さっていた場所から崩れ始め、浸食するようにポロポロと壁全体が崩れていく。


 


 ……ボクは、カルタさんが使っている剣の名前を知っている気がする。フロレントと同じ、神が使っていたとされる伝説の武器。『崩墜コラプス』。


 昔、この世界に生き物が生まれる前に神々が地上に降り立ち争っていたという。その時に神々が使用していた武器たちのことを『神武』と呼ぶ。『神武』は今の時代にも残っており、現存しているのは30に満たないという。『神武』は強大な力を宿していて、神ではないものが再現するのは不可能な能力を多く持っている。そのうちの1つがカルタさんが持っている『崩墜コラプス』だ。その特徴は触れたものを全て溶かし、崩壊させるというデタラメなもの。おそらくはこの特性を活かしてニーヒルさんの壁を溶かしたのだろう。最初に使わなかったのはおそらくこの状況のため。最初から武器の特性を見せてしまうとそれを警戒して壁を再度張ってくれない。それを防ぐために1回目はあえて使わずに切り札として取っておいたのだ。



 完全に意表をつかれたニーヒルさんは向かってくるカルタさんに対応できずそのままカルタさんに鷲掴みにされる。動きを封印され、成す術がなくなったニーヒルさんは負けを認めカルタさんの勝利となった。

 

  対近接において一番相性がいいと思われていたニーヒルさんは、近接戦闘タイプのカルタさんに負けてしまった。カルタさんが勝てた要因の一つに『神武』があるのは間違いない。ニーヒルさんの行う物理系の事象変化は全て『崩墜コラプス』に負けて無効化されてしまう。しかし、それを抜きにしてもカルタさんは互角以上の戦いをできたと思う。ニーヒルさんの放った落雷や落石攻撃はカルタさんにとってはかすり傷だったみたいだ。あの強靭な体には少しインパクトが足りなかったのだろう。


 いやー、それにしてもボク以外にも『神武』を持っている人がいたとは。『崩墜コラプス』。『神武』の中では真ん中ぐらいの評価だ。『神武』の上位武器はこれ以上にデタラメな能力を有している。それこそ『神断フロレント』みたいな、ね?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ