ラミアVSサルベージュ
大会3日目。今日から準々決勝となり、大会も大詰め。予定では明日で終わるが実際はどうなることやら。
そんなことはさておき、この準々決勝は少し別の試合とは変則的だ。なぜなら現在残っている人たちに加えて敗者復活枠で勝ち上がった4名が加わるから。流れとしてはまず勝者側、今も勝ち残っている人で戦い、その敗者が敗者復活枠の人と戦う。その試合の勝者が大会に残れると言った感じ。分かるかな?
勝者側で勝った人は確定でペンタグラムの座につける。だって準決勝に進めるなら残りは4人しかいないから。あと1人は負けた人と敗者復活枠の人で争う感じだ。まあつまり勝てばいいだけの話。それ以外は何もいらない。
今日、3日目の1番最初の試合はボクとサルベージュさんの1戦が予定されている。ちなみに観客は五分五分の戦いと見ているらしい(賭けの倍率によると)。ボクもサルベージュさんとは五分五分だとは思っているが、ぶっちゃけどのぐらいボクの剣技通じるかは未知数だ。サルベージュさんは基本忙しい方で会う機会がない。では戦場に行っているのかと言われればそうではなく町にいることが多い。がしかしそれは町の安全維持を一任されているからであって別に暇というわけではないし、弱いわけでもない。
サルベージュさんはアンデッドの最頂点に位置する方。彼はアンデッドに対する絶対命令権を持ち、思うように操作できる。そのため、アンデッドを町の中に治安維持隊として徘徊させて町の安全を図っている。本人曰く、アンデッドの大量使役は精神的にも技術的にも難しいことらしい。そんな状態の人を戦場に駆り出すような人は魔王軍にはいないから助かっていると仰ってた。
そんなサルベージュさんとの1戦。闘技場のグラウンドには既に両者スタンバイしており、ボクとサルベージュさん両者の準備が終わっている状態だ。ちなみに今日のサルベージュさんは紫色のマントを羽織って手には宝石のついた杖を持っている。
「古参の幹部には申し訳ないですがこの試合、勝たせてもらいます」
「言うではないか新参者め。受け止めてやろう」
『試合開始ッ!』
お互いに言葉での殴り合いをしたところで試合開始の合図がする。
先に仕掛けるか迷ったが一旦様子を見ることを選択した。安易に近づいて何かトラップでも仕掛けてあったら序盤から流れを取られかねないからね。
試合が始まって数十秒、攻めようか迷っていたがとりあえず魔法で威嚇をしようと思った。ある程度距離があるし、そこまで隙を晒すことにはならないと判断したからだ。
「水槍」
放たれた水の槍は2メートルに及ぶ大きめの槍で、サルベージュさんの方向へむかっていく。普通の人間ならば貫かれて終了するほどの威力と速さがある。が。サルベージさんは何もなかったかもように槍を片手で受け止める。
(やっぱりアンデッドに魔法は効かないよね……)
予想通り魔法は効かないようだった。アンデッドは魔力でできているため魔法という魔力の塊は簡単に吸収、打ち消せてしまうのだ。
(となると近接戦に持ち込むしかないか)
覚悟を決めて飛び込むことにし、フロレントでサルベージュさんがいた場所を斬った。しかしそこで早くも違和感を感じる。
理由は簡単、ボクの剣は空を斬らなかった。すなわち何かを斬ったのだ。しかしサルベージさんは既に元いた場所から移動しており躱していることが目から情報として入ってくる。では何を斬ったんだ?
剣の先を見るとサルベージュさんではない別のアンデッドが刺さっていた。
(一体どこから⁈)
元々存在していないアンデッドだったはずだ。少なくとも距離を詰めた時点ではいなかった。……これは何か隠されているな。ちょっとしたトリックに惑わされている。
ボクと再度距離をとったサルベージュさんを見ると、手から何か瘴気のようなものを出していた。その瘴気はまとまっていき、やがて人型のアンデッドが生まれていた。しかも何体も。この人型アンデッドは先程ボクが斬ったものと同じ……。つまりサルベージュさんはアンデッドに命令し、従わせることができるだけでなく新たなアンデッドを作ることも可能と言うことか。……なるほどね。面白い。ならばここからは物量で攻めてくるタイプに変わるだろう。
物量に対抗する手段は主に2つ。
1つはこちらも多くの手数を用意する。ボクの場合は剣と魔法の両方を使うみたいな。しかしそれはできない。なぜならアンデッドには魔法が効かないから。
そのため二つ目の『何かに特化する』と言う策をとらなければならない。各々が得意なものに特化する。例えばボクは剣に集中し、多くの敵をねじ伏せなければならない。しかしこの方法は体力消費量が半端じゃない。そのため短期決戦に持ち込むのがベスト。
どちらにせよ厳しい状況に置かれているのは確かだ。
「そのアンデッド、作れるんですね」
「これもアンデッドの特性よ。己の魔力を犠牲にさえすればアンデッドをいくらでも作れる。こんなふうにな」
再度瘴気が手の方へ集まりさっきよりも素早く、高度に練られたアンデッドが何体も召喚された。剣と盾を持つ騎士タイプのアンデッドだ。
しかし、高密度に練られているとはいえ所詮は意識のない生き物。動きは単調でさっきよりも少し硬い壁なだけだ。そして、ここはあえて近づかない選択をする。なぜなら出来るだけサルベージュさん本体の魔力を減らしておきたいから。昔から使われてきた『消耗戦』と言う戦略。これは人員的な意味でも使えるが、個人の魔力に関しても同じことが言える。今ここで魔力を減らさせておくことで後々魔法戦に移行するのを防ぐことができる。魔法が効かない相手に魔法戦をやっても勝てないことが目に見えてるからね。
魔力を減らさせるにはアンデッドを生み出させればいい。適度に近づいて圧をかけ、アンデッドを作らざるを得ない状況に追い込んでいく。
ボクがアンデッド相手に耐久しているとサルベージュさんの顔が明らかにキツくなっていってるのが伺える。おそらくは限界が近いのだろう。
けれどここでサルベージュさんには切り返しがあった。
いきなり目の前が大量の瘴気で包まれていき、瘴気がまとまり視界が良くなると、そこには1体の大きなアンデッドが現れる。
「これはゴーレムですかね?」
「そのようなものだ。正確にはジャイアントアンデッドと言う類のものだな。我は使うのが嫌いなんじゃがな。この際はしょうがない。使うことにした」
1体ではあるが7メートルほどあるその巨体には、剣がかすった程度では傷さえつかずすぐに修復してしまう。
(これは厄介だな)
しかしこいつを倒せば残るは魔力が底をついているサルベージュさんのみ。実質1対1だ。
どうやって攻略しようかと考えているとパンチが飛んでくる。攻略の糸口を見つけるためにも剣を横に持ち拳を受け止める。案の定そのパンチは威力が重く剣で受け止めたにも関わらず吹っ飛ばされる。そして空中に浮かび無防備になったボクを追いかけるようにジャンプし、またもパンチをくらう。
(こいつ、以外にも機敏だ)
しかしまだゴーレムは空中にいるため一旦体勢を立て直そうとする。しかし油断していたところにサルベージュさんが襲いかかってくる。
「不死鳥」
鳩のようなアンデッドの鳥が召喚されボクの目を潰しにかかる。
(まだ魔力に余裕があったのか)
これでは埒があかない。なのでまずはゴーレムに専念することにした。
体が大きいことによるメリットはいくつかあり、その1つがパワーが上がることだ。先ほどのように完全に受け止めた攻撃も反動で空中に飛ばされる。
しかしデメリットもある。それは視点が高く、低いところがよく見えないこと。つまりはゴーレムの股下に入れば攻撃ができる。
神速ともいえる速さでアンデッドの足、アキレス腱あたりを斬り裂きバランスを崩させる。バランスを崩したゴーレムは無残にも弱点である首を晒し、そこを斬り裂かれて消滅する。
(これであとはサルベージュさん本人だけ!)
ゴーレムを倒した反動でかえって速く動けるようになり、サルベージュさんの目の前まで距離を詰めることに成功する。
「この勝負、もらいました!」
そう言ってボクはサルベージュさんの首に剣を当てて降参するように促す。
「わしの負けじゃ」
ため息をつきながらも負けを認めてくれた。
決着がついた途端会場は湧き上がり皆これが幹部同士の試合かと湧きあがったのであった。




