ペンタグラムの間で
4回戦に駒を進めているのは総勢16名。そのうち8名は幹部だ。現在4つに分かれているそれぞれの山のメンバーを軽く紹介していく。
Aグループ ボク、サルベージ
Bグループ ヒリア、グラザーム
Cグループ ニーヒル、カルタ、(ヴェラ)
Dグループ サラ、ミーティア
こう見るといい感じに幹部がバラけているのがよくわかる。山はくじ引きで決めたんだけど運が良かったね。3人も幹部がいるCグループになっていたら勝ち上がるのが困難だった。実際、幹部上位であるヴェラさんですら敗退してしまっているグループだ。ボクだったらどうなっていたことやら……。
ボクはサルベージュさんとの戦いが5回戦。そして5回戦は多分明日から。なので今日の4回戦は気をつけていきたいところだ。そうすれば少しは落ち着くことができる。実はサルベージュさんとボクは相性が良かったり……。まあ油断はしないけどね。
※※※
4回戦、ここはぶっちゃけ幹部以外の人が負ける感じになると思う。そして予想通り幹部の皆さん全員が勝利し明日、5回戦に駒を進めることになった。しかし、一つ気掛かりなことがある。…それはルーイ君の存在だ。彼は既にグラザームさんに負けているが、敗者復活枠で勝ち上がってくる可能性がある。確か敗者復活枠は4枠ありその4人がそれぞれのグループに再度振り分けられるはずだ。しかしそれは元いたグループとは別のグループになる。ルーイ君はBグループだったからそのほかのAかCかDグループに入る。ボクの入っているAグループに来ないことを望むがこればっかりは運なので仕方がない。ただ明日に向かって祈るのみだ。
時刻は午後5時を回り、日も傾いてきた頃。大会2日目は終了し各々帰宅となった。ボクはティアと一緒に家まで帰り、雑談をしていた。
「明日の初戦、サラさんとでしょ?」
「そうね。初っ端からキツすぎるよ…。明日は魔王様とサタンさんが闘技場の結界を張るのを肩代わりしてくれるから魔力は温存できるけど、魔力を使わなすぎるのも良くないし」
魔力って言うのはある程度肩慣らし的な感じで事前に使っておいた方が後々エンジンがかかりやすいんだよね。
「でも観客のみんなはサラさんとティアの試合を楽しみにしてると思うよ。だって魔王軍1の魔法使いが決まる試合なんだから」
「私は厳密には魔法使いじゃないんだけどね……。まあ魔法職ではあるか。でもそれを言うならミアも期待されてるんじゃない?」
「え、なんで?」
「だって明日1番最初の試合だよ?熾烈な戦いとなる準々決勝の第1試合。そりゃあ期待しちゃうよ」
「期待されるのは嫌だな……。目立ちたいかと言われるとそこまでだし…」
「まあなるようになるよ。でも追い討ちをかけるようなことを言うならミアとサルベージュさん。現幹部の大老と現幹部の新参者の試合。世代交代とも考えられる試合だよ。大御所が新人に1発くらわすのか、それとも新人が大御所を打ち負かすのか。いやー、面白い試合になるね?」
ニヤリと笑い煽ってくる。うるさいなー。これでもティアよりも強いからその気になればいくらでも……。
「そんなに殺気出さないで落ち着いてよ。ね?別にからかってるつもりはないから。明日は早く起きて体温めるでしょ?だからもう寝ようよ」
「それもそっか。明日なるようになる。なんとかなれー、だ」
「うん。明日は明日。今日は今日だ。先にあがって寝るよ」
「おやすみー」
ティアは寝ると言って自室へと入って寝てしまい1人になる。ボクも何かすることがあるかと言うとそう言うわけではないので寝ようとする……が、上手く寝付けなかったので明日のことを考える。せっかくなら夜風にあたりながら考えるか。
近くにあったコートとフロレントを持って外のベンチに腰掛ける。季節は春の終わり。空気はまだ澄んでいる。冷たい方が空気は綺麗になると聞いたことがあるけど実際その通りかもしれない。ここはこの世界の北部に位置する場所。春の終わりと言っても最高気温は15℃にはいかない、そんな土地だ。
真夜中ということもあって息はまだ白い。こんな夜を幾度となく経験させられたボクら…いや、魔族の先祖に申し訳ないことをしたとおもう。なるべく思い出さないようにしているがボクは人間だ。魔族のみんなとは違い80年ほどしか生きれない弱い種族。しかし数は多いため数を基盤に発展してきた種族だ。そしてやることは横暴で、土地を得ようと思い他種族を故郷から追い出した。それらの種族はどんなことを人間に思ったのだろう。おそらくは人間を妬ましく思い、恨んだ。その思いが今の魔王軍に繋がっている。そうやって迫害し、数は正義と言わんばかりに横暴を深めていった。そしてその横暴に巻き込まれた人が多くいるのはボクの責任でもある。かつて勇者であったボクは人間をまとめる、人間を代表する者だった。しかし実際は勇者とは名ばかりでいいように扱われる駒、人間は間違った方向に進んでいると気づいておきながら何もしなかったボクが悪い。そんな軟弱な自分が嫌だった。だから今は明るく振る舞い、接しているが、どこかにまだあの頃の自分がいると思うと吐き気がする。だからボクは昔とは反対の、魔王軍という立場で人間を間違った方向から助けようとしている。正確にはその流れを断ち切るには、人間を殺すのが手っ取り早いと思う。ぶっちゃけ流れを変えたところで、また流れは元に戻る可能性が高い。なら皆殺しにして流れを止めるのが一番だよね?という理論だ。ボクもこの理論が正しいとは思わない。反論されれば崩れる、まさに砂上の楼閣。しかしそうでもしないとボクは気が済まないのだ。今まで受けてきた仕打ちを返すには。
少し、重いことを考えてしまったが結局何がしたいかというとより多くの人間を殺したい。これに落ち着く。そのためにはペンタグラムの第一席となって戦場に多く出なければならない。これが今の目標だ。そのためにも明日サルベージュさんを倒して次に進もう。
寝巻きにコート一枚という格好は寒くて凍えそうだったから考えをやめ家に帰る。ティアを起こさないように2階へ上がり、ベッドに潜り込む。目を瞑るとさっきまで見ていた夜空が映りそのまま寝てしまった。