開催
魔王軍が大規模な武道大会、『ペンタグラム』を開く事を決定し、そのことは瞬く間に街中に広がった。
かく言うボクらもその大会に出ることは既に決定している。なので出る以上負けるつもりはないのだが、魔王軍の精鋭が集う大会になる。ならば幹部であるボクでも負ける可能性が大いにあるのだ。
特に注目したいのは准幹部のルーイ君だ。ルーイ君は獣人と竜人のハーフで、ヒリアさんとカルタさんの甥にあたる。ヒリアさんの妹がカルタさんの弟と結婚し、そこの間の子供がルーイ君。だから実はヒリアさんとカルタさんは種族は違うけど親戚なんだよね。
ルーイ君が現在幹部に最も近いと言われていて、強さだけで言ったら幹部中位には入り込める。さすが、ヒリアさんとカルタさんの甥っ子だ。
ボクは彼の姿や戦闘スタイルをよく知らないけど短剣を使うアサシンタイプと聞いたことはある。こういう知らない人の戦いを見られるのも今大会の楽しみの点の1つだ。
開催が決定してからの1週間、ボクは特訓に励んでいた。幹部の方々と手合わせをしたかったけど、お互い手の内はみせたくないようだったので遠慮しておいた。しかしティアは別。一緒に3年間も同じ家に住み、毎日特訓してきた。そんな相手に手の内も何もない。と、言いたいが実は一つ秘策を隠してある。ただ誰にも試してないから通じるかは五分五分だ。秘策はもちろん、ピンチになったら出すからね。それまでボクの体が持ってればいいけど。
※※※
『ペンタグラム』開催当日。城下町は湧きに湧いていた。街は活気があって、住民は皆楽しみにしているようだった。
そして、その中には少し変わったことで喜んでいる人たちがいる。この『ペンタグラム』は魔王軍の精鋭が集い、戦う祭典だ。なので今まで戦場で前線を任せれていた人たちも今は城下町にいる。つまり帰郷なのだ。彼らは久しぶりの家族や友人との再会で喜んでいた。
他にも、『ペンタグラム』にあわせて屋台が開かれている。魔王城から訓練場までの大通りは屋台で埋め尽くされていて、そこの屋台には[ペンタグラム限定の〇〇]というような謳い文句で客を集めている店は数えきれないほどあった。例えば[ペンタグラム限定のお守り]とか、[ペンタグラム限定の飴]とか。なんなら一部の商品はもはやペンタグラム関係なくね?というものもあったりした。
この屋台群を通って訓練場までティアと一緒に歩いていると、なぜかほっこりする気持ちになる。多分、ボクたちがなんのために戦っているのかを認識させてくれるからだと思う。ボクら魔王軍は魔族の平和を望んで人間と戦っている。ボクらが守るべきはこのような何気ない日常だと、思わせられる。
訓練場もとい闘技場に着くと、既に多くの人が観客として入っていた。このスタジアムの客席は1万を超えているが、それでもぎりぎり足りるか足りないかという微妙なところだ。
ボクとティアは幹部なので顔パスでスイスイと観客席を上り特等席へと向かった。この特等席は闘技場の最も眺めがいいところにあり、魔王様用の椅子が中央に、幹部は魔王様の左右に椅子がある感じだ。左に5人、右に5人の左右対称にね。
座る前にボクはすでに来ていた魔王様に挨拶する。
「おはようございまーす。いよいよ今日ですね!ペンタグラム!」
「朝から元気だな。大体お前ぐらいだぞ、そんなに楽しそうなのは」
「そんな呆れた目で見ないでくださいよ。だって楽しみじゃないですか。普段は本気で戦えない幹部の皆さんと本気で、戦えるんですよ?ワクワクしないわけがないじゃないですか」
「それもそうだな。その点に関しては皆も楽しみにしている。けれど新幹部の席がかかっているんだ。それをお互いに譲らないと意気込んでいるものが多い。その点はどう思っているんだ?」
「それもありますけどそれは二の次って感じですかね。ボクはただ戦いたいだけなので」
「はあ、お前の出番はまだまだ後。一回戦はシードだから二回戦からの出場だ。今日はニ回戦まで行ったら終わらせるから出番は一回だけだ」
「まあ出番までは大人しく待ってますよ。流石にそこまでやんちゃじゃないので。というか、そろそろ開会じゃないんですか?」
「お、もうそんな時間か。ラミアもミーティアも席に座っていろ」
言われた通りに席に着き、ついでに眺めを堪能する。特等席だからといって特別な何かが用意されているわけではないが、強いて言えば眺めという最高のプレゼントが用意されている。闘技場全体を見渡せて、そこまでグラウンドと距離が離れているわけでもない。絶好の場所だ。
景色を見ていると、拡声魔法が発動されたのに気がつく。発動者はもちろん魔王様だ。開会の宣言をするのにそれ以上の適任がいるわけがない。
「んんっ!同志諸君!今ここにいる魔王軍の精鋭たち!この大会は其方らの力量を競う。そして勝者には、新たな幹部として取り立てる事を誓う。勝負は一本、言い訳はなしだ。それではここに、魔王軍公式大会『ペンタグラム』の開催を宣言する!」
こうして、ペンタグラムは開催が宣言されたのであった。