初陣で背負うもの
任務が終わってひと段落ついたボクは、心を落ち着かせるように周りを見渡し、改めて自分の行ったことを目に焼き付ける。人を切ったこと、それはボクにとっては長い長い人生のなかでのほんの1要素に過ぎない。けれどもこの感覚と一生を共にすると思うと、なにか込み上げるものがあった。
感傷に浸っていると、ボクの方に走って来る人の影が見えた。そしてボクはその姿に見覚えがある。
「ティアー!」
「ミア!大丈夫だった?怪我はない?」
走って来たティアの息は切れていたが、そんなことは構わないと言うようにしきりにボクの体を確認して来た。
「大丈夫だよ、大丈夫だから落ち着いて、ね?」
「ここに着いた時に死体が数え切れないぐらいあって驚いたよ。あれは全部ミアが?」
「うん。まあね。少し、やりすぎたかも」
「だねー、これは片付けるのが面倒だって言いたいけど、ここには私がいるから。ちょっと待ってね」
死体は腐って土地が死なないようにある程度処理する必要があるのだ。この大陸で人間が死ぬのはいいけど、それがこの大地にダメージを残してはならない。なので通常は何日かかけてこの死体達が腐らないよう燃やしたり別の場所に運んで廃棄するのだが、ここには専門家のティアがいる。なんてったって彼女は死霊術師なのだ。
ティアは魔法を唱え、大きな水色の球を自身の指先に灯す。そして一瞬で球が弾け飛び、辺りの死体から魂を回収していく。
死霊術師は生き物の魂を糧にして魔法を発動する。だからこうやって定期的に死体から魂を回収するのがマストなのだ。これのおかげで辺りは一気に浄化されていく。腐って土地に染み付いてしまうのはこの魂が原因なので、これらを取り除ければわざわざ燃やさなくてもいいのだ。
やがて全ての魂を回収し終わったのかその水色の球を消した。
「よし、これで終わり。清掃はいらないね」
「だね。これらを片付けると思うと面倒だったよ」
「ところでティアは何をしてたの?」
「何って?」
「いや、ティアが来るのがやけに遅かったからさ。何かあったのかなって」
「まあそうだね。最初はミアを追いかけていたんだけど、本陣に帰還する隊がいてさ。その人たちに別の戦場に向かいましょうって言われて。あの隊。ミアが退却命令出したでしょ?」
「正解。よくわかったね」
「そのせいで別の戦場に出向いてエネルギーを使っちゃってさ。全力で走れなかったんだよ」
「そうか。ごめんごめん」
「今日の初陣でミアと連携して戦うの楽しみにしてたのに」
「まあまた次回があるよ。これからはどんどん前線に立てるはずだし」
「そうね。次回にお預けってことで」
その後、ムーン砦は残っていた兵を総動員して潰した結果、1日かかることはなかった。
今まで苦戦していたのはあの十二騎士率いる隊だったらしく、ボクが潰した後はすんなりと進んだ。
こうしてボクらの初陣、ムーン砦の戦いは終結したのだった。
これにて序章は終わりとなります。次回からは第2章に入りますのでご期待ください!




