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裏切り

 とある田舎町でボクは産まれた。名前なんてまるで覚えておらず、景色さえもぼんやりと霞がかっている。


 この世界に生まれ落ちた瞬間から、ボクは不運だった。


 両親は冷たく接してきたし、町のみんなもボクにはどこか排他的だった。理由は詳しく知らないけれど。


 ご飯は満足に与えられず、寝る場所も地面に藁を敷いただけ。


 もちろんお風呂なんかも入れない。そんなこともあってかさらに町では避けられた。汚くて、臭くて。不気味だと罵られた。



 ボクが暴力を受ける日々の隣で妹ができた。この世界では長女は不幸の元、疫病神と扱われ、その反対に次女は幸運の元と扱われる。


 そのせいか、妹ができた時からますます扱いがひどくなった気がする。


 ご飯は自分で狩りをして調達しろと言うし、寝る場所も地面に直接寝る形になった。


 まだ5才になる前だったボクは歩くので精一杯の歳だ。もちろん何にも狩ることなんてできない。


 そのため一週間ぐらい何も食べられない時期があるのは当たり前。もっと言うなら食べれたとしても木の実だけ。空腹に苛まれ、歩けなくなった日も。大雨で外にいられない日も。決して家の中には入れられなかった。


 なのに妹は多くの食べ物をもらっていたしベッドもあった。キラキラとした笑顔が特徴で、町でも人気者だった。充実した人生を送っている妹を見て、自分は情けなくなった。自分の方が年上なのに、同じ家族なのに、と。


 自分との格差に嫉妬して、ボクはそんな妹を恨むようになった。



 そんなある日、頭の中でベルのような音が鳴った。


 訳がわからず混乱し、親に話そうとも思ったが「話しかけるな」と言われていたためそれはやめた。そして特に何か起こることもなかったのでこの件は放置しておいた。


 その後も狩りをして寝て、という日々が続いた。


 気づけば8才。もう女の子だ。


 この3年間何もしていなかったわけではなく、ある程度暮らし方を知った。


 まずは狩り。狩りとは言っても実際は槍を当てるだけだ。動いている動物を見つけたらそこに槍を投擲する。最初は重かったし投げれなかったけど、3年もやればできるようになる。


 そして川へ。直接川魚を掴んで首当たりに尖った石をたてれば仕留めることができる。ついでに水浴び。泥に染まった自分を洗い流していく。


 取った魚や動物は火を起こして焼いて食べる。火を通さずに食べるとお腹が痛くなったからだ。


 そして毎日同じ道を辿っているためか道ができる。森には自分しか通らない、自分専用の道。日常となっている、ごく当たり前のこと。それでもこの道を踏みしめるたびに充実感はあったし満足していた。


 それこそ家族と関わるよりは。



 満足感のある日々を送っていたが、そこに非日常が現れる。


「おねーちゃん。体の使い方、教えて?」


 そう、妹だ。ボクは妹が嫌いだったし、相手にしたくなかった。


「何?どしたの?」


「なんかね、頭の中で音が鳴ってそれをお父さんに言ったらお姉ちゃんの所に行って、体の使い方を教えてもらえって」


「うーんそうだなー。まずはこうこうこうして……………」


 最初はとりあえず適当に教えて煙を巻こうと思っていた。


 けど教えていくうちに楽しくなっていったし、妹も打ち解けたのか笑顔になっていった。


 一緒にイノシシを狩ったり魚を焼いて食べたり。


 そして自分だけのものだったいつもの道もいつのまにか2人のものとなっていた。


 教えられたのは本当に体の使い方やサバイバルのしかただけだったが仲は深まっていった。


 いつのまにか妹への恨みも完全に消えていた。



 妹と楽しい日々を送る中、妹に家のリビングに入るようにと言われた。


 ボクが5才の頃から入っていない場所。今までは家の玄関までなら入って良いと言われていたため実に4年ぶりに入ることになる。


 そこには笑顔の両親がいて、椅子に腰かけていた。


 そして机を挟んだ席には鎧を纏い、兜は外している騎士のような人が1人座っている。


 みんなして笑顔で、何か仮面をかぶっているようだった。


 絶対に有り得ない事態に悪寒がしながらも机に向かう。


 ボクが机に近づくと騎士の人が話を始めた。



「あなたの娘さんには特別な才能があります。」


 優しい笑みで。優しく声をかけてきて。


「娘さんを英雄にして見せましょう。」


 きっぱりとした声で。自信に満ちた顔で。



 いきなり何を言っているのかわからなかったが嫌な予感がした。騎士の人は優しい声で、笑顔だがその奥には闇があることは透けていた。


 その後は大人同士で話しているのを何を思うもなく聞いていた。


 しかし時々聞こえて来る『特別な才能』『勇者』と言う単語には引っ掛かった。



『勇者』。子供の頃に読み聞かせられた、すごい人たちの総称。


細かくは知らないけど500年に一度しか生まれず、皆英雄となっている。(この話は妹からの受け売りだ)


それが、なんだって言うんだ?


頭の中がモヤモヤしていると話が終わっていた。


そして騎士の人がボクの腕を引っ張っていく。


え?


「●●●。頑張っておいでねー。」


は?


「●●●。頑張って英雄になるんだぞー。」


 目が応援してない。いきなりどうなっているんだ?騎士の人に連れていかれるがまま馬車に乗り込まされる。


 親はこれでお荷物が消える、みたいな顔して見送っている。


 待って…待って…まだ行きたくない!


 連れていかれるがままに行ったら後悔することになると本能が言っていた。


 妹が。そう、妹はどんな顔を…


「おねーちゃん、いってらっしゃい。」


 ッッッ。嘘、でしょ。


 妹に、裏切られた?


 あんな清々しい顔してボクを見送って。あまりに、あまりに唐突じゃないか。



 そのまま馬車の扉が閉まり下を向いた。


 後ろを見る気にはならなかった。


 今ボクのなかには妹に見捨てられたと言う絶望と家族なんかは信頼ならなかったという怒りに巻かれていた。


 でも怒りに身を任せることはせずに、何かがごっそり抜け落ちたかのような気持ちに浸っていた。


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