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3年後

この話から一気に時間軸が飛びます

「そこは、詰めが甘いんじゃないですか⁈」


「やられたぜ」


 ボクはヒリアさんに手を貸して起き上がる手伝いをする。


「いやーまさか5連敗とはな。もう実力差がはっきりしてきた時期か」


「まあ、そうですかね」


「へ、言いやがる。そろそろ本物の戦場に出る時期だろ?」


「そうですね。そろそろ初陣です」


「それまでは俺とこうやって稽古、と言ってももうどっちが上なんだか」


「「あはははは」」


 今こうして話すのは剣の師匠であるヒリアさんだ。この3年間、ずっと剣を教えてもらっていた。昔、訓練を始めた頃は無駄な動きが多いとよく言われたが、今はなるべく最小限の動きにとどめている。自分で言うのもなんだが剣士の理想、とまで思うほどの剣捌き、足捌きだ。


 そしてヒリアさんとも仲良くなってこうして笑い合っている。相性は抜群だった。



※※※



「そうそう、いいかんじです。この3年間で魔法の扱いも随分慣れて実践に組み込めるぐらいにまでなりましたね」


「魔法一本でも戦えると思いますか?」


「十分な実力はあると思いますよ。少なくとも魔王軍の中で5本の指には入っていますね」


「まだまだサラさんには及びませんね」


 ボクはまだサラさんに魔法では及ばないが、剣術も交えてならば互角以上の戦いができるようになった。サラさんには3年間みっちりと魔法を教え込まれ、剣術にも合うようボクをチューニングしてくれた恩師だ。


「魔法しかできない私からすればラミアさんは多芸多才ですよ。羨ましいです」


「そう、ですかね」


 顔が赤くなっていくのがわかる。まだ褒められ慣れていないんだよ。


「ヒリアさんとも話したのですがそろそろ初陣が近いんですよね」


「そうです。そこまで訓練を怠らないように、ですね。ここから先はもっともっと厳しくなりますから」



※※※



「ミアー、久しぶりに戦わない?」


「いいね。負けても泣かないでよ?ティア」


「泣かないよ。というか泣いたことあった?」


「前回」


「ぁ。そのー、記憶から消しといて」


「えー?どうしようかなー?」


「もう。早くいくよ」


「はいはい」


 ティアとも仲良くなった。これまで何回も戦ってきて勝っては負けてを繰り返している。実力は拮抗している。


 実際、ティアは魔法という面で見ればサラさんをも凌ぐと言われている。しかしそれはあくまで一般論。本人(ティア)はサラさんの方が強いと言っている。


 どっちが強いのか、それはまたいつかのお楽しみだ。


 今のティアは魔法だけでなく格闘面も結構できる。少なくともボクの剣を1分は捌けるほどだ。


 まあ近接はボクの方に分があっても、魔法戦、遠距離はティアに軍配が上がる。


 サラさんに魔法でもある程度はできると言われているボクでも、魔王軍トップには敵わない。


ちなみに魔法の強さランキングは


1位ティア


2位サラさん


3位サタンさん


4位魔王様


5位ボク


と言ったところかな。あくまで、あくまでボクの意見だからね。決して慢心しているわけではない。



数分後



「はぁはぁ」


「もう息があがっちゃったの?」


「いや、はぁ、そんなことはない、はぁ」


「見るからに疲れてるけどね。そろそろ終わりだ!」


「ウッ」


 そう言ってボクに吹き飛ばされるティア。いやー、まだまだだね。


「ああー、負けちゃった。いつもこうじゃない?」


「ティアはもっと近接戦を避けた方がいいよ。ボクと戦う時はね?」


「そうね。ミア以外なら近接でもそこそこいけるんだけどな」


「まあ、ボクだから」


「ミアらしい返答ね。久しぶりにできて楽しかったよ」


「ボクもね。家帰ろうー」


「もう、戦いが終わるとすぐ人が変わるんだから」


「いいじゃん、別に他に人がいるわけじゃないんだから」


「それもそうね。じゃ、私も」


 ポフッと音を立ててボクに頭を寄せてくる。


「もう、家までだからね」


「ありがとうねー、ミア」


 家に着くまでのしばらくの間、ティアの頭を支えながら風にあたっていた。


 もう冷たい空気と暖かい空気が混ざる時期、春も中盤に差し掛かっている。


 ここに来てから3年。ボクは18歳。ティアも19歳だ。


 この3年間は、ここにくるまでの15年弱の期間よりも多くの思い出がある。


 そう思うと魔王軍にきてよかったと思う。これは今までも何回も、何回も思ってきたことだ。サタンさんに伸ばされた手をとって本当によかったと。そうしていなければ今頃ボクはメシア王国で奴隷として扱われ、戦場で魔族と戦い、果てには死んでいたはずだ。



 風にあたるたびにその『もしもの世界』を思い、自分を奮い立たせている。人間に復讐するんだと。



 訓練場から歩いて15分。ボクが向かったのは住宅街……ではなく、幹部の家々があるエリアだ。


 そう、この数年でボク達は幹部へと昇進した。だから家も昔とは別の場所にある。だけど今もティアとボクは同居している。理由はお互いが希望したから。そしてそれが認められた、というか魔王様はボク達が同居していたのを知っていたらしい。だから都合がいいだろうと一緒にしてくれた。


ありがとう、魔王様。



「ほら、家着いたよ」


「ありがと」


 家に着いたけどふらふらしている。あれは眠気がピークの時のティアだ。


「お風呂沸かすから入るよ」


「ん、ありがと」


 水魔法で水を出し、それを火魔法で温めてお湯を作る。これは一般的なお風呂の作り方だ。最短で、確実、最適解だ。


 初めてお風呂に入った時は何が何だかわからなかったけど、サラさんに教えてもらってどうやってお風呂を入れるのか分かった。なお、初めての時にどうやってお風呂を沸かしたのか未だにわかっていない。自分のことなのにね。


「ほらティア、入るよ」


「んー」


 服を脱いで脱衣所に置いておく。ティアも脱ごうとしていたが、眠気でそれどころではないようだった。仕方がないのでボクが脱がすのを手伝いお風呂に入った。


「うーん…」


「まだうとうとしているのか…」


 かなり熱めにお湯を張ったから熱で起きると思ったんだけどな。これだとただボクが熱い思いをするだけじゃないか。


 うとうとしているティアが今にも湯船に頭から入りそうだったところでボクは悪戯心が湧いた。


こういう時に………


「えいっ!」


「ヒャッ!」


 鋭い短い悲鳴が起きる。


「……ミア?何してるの?」


 ボクの方を睨んでくる。


「いや?うとうとしていたから、起こしてあげようって」


「ふーん。起こす方法が人の胸を触ることなんだ」


 そう言ってボクの胸を見てくる。


「なら私にやられても文句はないわね?」


「ちょっとまっ……ヒャッ」


「もう、この胸大きいわね」


「それを言うならティアもでしょ。なんならティアの方が大きいよ」


 3年と言う時間は長かったが、この差は埋まらなかった。お互いに成長しあってプラマイゼロだ。



 そんな悪戯を挟みつつお風呂の時間を終え、夜ご飯に移る。


「今日はハンバーグでいいかな?」


「お、いいね。そうしよう」


 ハンバーグは…えっと、牛肉と玉ねぎとかいろいろを一緒にこねて、丸めて焼く…だけだよね?久しぶりに作るからちょっと手順を忘れかけた。でもいい感じにできたかな。最後にデミグラスソースをかけて……


「ティアー?できたよ」


「お、できたね。この3年でミアも料理が上手くなったよね」


「確かにね。最初は剣で野菜を切ろうとしてたもん」


「…あれはもうやめてね?キッチンを壊して魔王様に怒られたんだから」


「流石にもうやらないよ」


「「いただきます」」


「うん。美味しい!」


「そう?よかったよ」


「あ、そうだ」


 まだハンバーグを口に入れながら喋ろうとするティア。


「そういえばさ、明日会議あるって言ってたよ?」


 会議っていうのは幹部会議のこと。定期的に行われるもので幹部全員が集まって行われる定例会議だ。大抵は数時間に及ぶのでボクは嫌い。


「ほんと?聞いてなかったんだけど。何時から?」


「えっと、日が昇って1時間だって」


「早いなー」


 今は春なので日が昇る時刻も早い。日が昇る前に起きて準備しないといけないじゃないか。でもこれも慣れたもの。何回も行ってたら嫌でもなれる。


「じゃあそろそろ寝ないとね。片付けたら寝よう」


「そうだね」


 ハンバーグを完食し、お皿を洗ったら寝室へ行く。


 寝室は前と変わらず違う部屋で、少し広くなった程度だ。あとはベッドが少しグレードアップしたぐらいかな。家は2階建てになっていて、2階に寝室があるのも変わっていない。


「明日は早いからね。寝坊しないでね」


「分かってるよ。おやすみ」


「おやすみ」


 階段を上がったところで左右に分かれ、それぞれの寝室に入る。


 ボクの部屋は白が基調とされていて相変わらず剣以外何も置かれていない質素な部屋だ。


 ベッドは中央に配置されていてスペースがあったから大きめのものを使っている。睡眠は生きていく上で大切だからね。幹部の仕事は戦闘、雑務、会議、指導など多岐にわたる。今のボクは雑務と会議しかないんだけどね。これからのことも考えるとベッドのクオリティーは高い方がいいかなって。


 今日は疲れていたから大の字になりながらベッドに倒れ込んでそのまま寝てしまうことにした。


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