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本当の気持ち

「はは、強えな。流石は元勇者だぜ。けど俺にはまだまだ及ばないかもな」


「抜かせ」


「あまいな。その攻撃。もう『見えて』んだよ」


 ボクが剣を振るった瞬間、クルガは一ミリにも満たない差で剣を避け、前に重心が乗ったボクの背を剣で斬りつけた。


 斬られた部分の服は裂け、ボクの背が露出する。


「っ。お前…」


「背中に負った傷はまだ残っているようだな」


 ボクの背中にある傷は初めてクルガによって傷を負わされた時のものだ。見たこともなかった赤い液体が自分の背中から流れ、冷たい感覚が背中を伝う。そのときを未だに覚えているが、まだ傷は治っていなかった。


「やめろ……」


「やっぱり覚えているものなのか?屈辱っていうのはよ」


「やめろ、やめろやめろ」


「結局、お前は俺らに搾り取られて奴隷のように生きるしかねえんだよ。ご苦労さん、勇者」


「黙れ!」


 今までずっと枷をしていた。怒りという燃料を抑えて戦ってきた。それは、愛するものをこの手で傷づけないようにするため。ようやく得た幸せを、手放さないようにするため。

 けれど今は違う。みんなと生きるという未来の幸せよりも、刹那的でも復讐を優先する。だから、ボクは。


「固有能力開放。ボクは、『復讐に囚われし者』なんだ」




名前 ラミア(固有能力開放)


職業 魔剣士


レベル 201


<物理攻撃力>205070(410140)


<魔法攻撃力>167320(334640)


<速力>254710(509420)


<魔力>190270(381440)


<防御力>172010(344020)


スキル 剣術レベル10(20) 水魔法レベル10 火魔法レベル10 雷魔法レベル10


特性 職業『魔剣士』により<魔力>、剣術レベル上昇

   固有能力『復讐に囚われし者』により理性と引き換えにステータスの上昇




「今夜、ボクはお前を殺す。どんな犠牲を払ってでも」



 ボクは固有能力として持っていた『復讐に囚われし者』を開放した。今まで一度も使っていなかったが、ここで使うのがベストだと判断したためだ。そしてこの能力にはデメリットが存在する。それは理性が吹き飛び、周りを見境なく破壊する事。これこそがボクが使うのを躊躇い、実際に使わなかった理由だ。

 けれども今はそんなデメリットは関係ない。ボクがやりたいように相手を殺す。それだけだ。


「おいおいいいのか?その魔法かなんか知らないけどよ、見た感じ相当な犠牲を払った上での能力だろ?ま、それほど俺を殺したいってなら受けてたつけどな」


「関係ない。殺す。<閃光突>」


「おっと、あぶねえな」


「ッチ。<光線>(サン・レイ)」


「はは、やべえな」


 ボクが放っていく魔法は全て悪意を伴った魔法であり、クルガを殺すまで消滅することはない。そしてボクは、この魔法を駆使する。


「身体強化」


 シンプルにして至高の魔法。自らの身体を文字通り強化することで早く走れるようになったり動体視力が良くなったりする。この魔法でどれだけの恩恵を受けたことか。

 

「雷魔法<迅雷>」


「炎魔法<煙硝火>」


「剣技<松枯らし>」


「水魔法<一衣帯水>」


 ボクはただただ魔法を、そして剣技を放っていった。それは決して理性に基づいたものではなく、ボクの本能がそうさせたものだ。


 魔力の残り?体力の限界?


 そんなものは知らない。ボクはただ目の前の相手を殺したいんだ。


 気づけば、クルガはボクの魔法を防ぐのでいっぱいになり、防戦一方へと追いやられていた。


「クソッ。この手数じゃ碌に神武も使えねえ」


「………」


「こいつも喋んねえしよ。また壊れたんじゃねえのか」


 言葉は聞こえてきても、それは意味を成すものとして頭には入ってこない。なんだろう。すごい、浮遊感がある。まるで自分の体が自分のものじゃないような、不思議な感覚だ。視界もぼやけて、でも何かを突き刺したり斬ったりしている感覚は手に伝わってくる。


「ちょ、こいつ理性を捨ててんのか」


 うるさい。


「グハッ」


 黙れ。


「ケハッ」


 死ね。


 そう思った瞬間、ボクの目の前には剣が突き刺さったクルガの姿があった。腹の中央から背中を貫通して剣が突き刺し、吐血した血はボクの方へとかかった。


「ぁあ……」


 ボクは血を払い除けるのと同じように、剣を横に薙ぎ払い刺さっていた剣を抜いた。


「クルガ。お前とボクとの縁はこれまでだ。でも、最後に言わせてくれ」


「何……だ」


「ボクを壊してくれて、ありがとう」


 これは、クルガに対して唯一持っている正の感情だ。クルガが壊してくれたから、ボクは今、人間を裏切り魔王軍という家族を掴み取っている。


「……っ。やっぱお前は…いいやつじゃねえか」


 クルガはひとつ、深い深い息を吐いて全身から力が抜けていった。ボクはそんなクルガの体を抱き抱えるようにする。


「やっぱり…君はいい奴じゃないか」


 クルガはボクを地下牢に閉じ込め、苦い思いをさせた張本人だった。けれども、その行動には躊躇いがあるのと同時に現実から目を背けるような顔をしていた。今思い返してみれば、彼は彼なりに争っていたのかもしれない。ただ従い、流されていくだけの運命から。


 今の王国十二騎士の上位は全員が第一席であるヴェロストによって選出され、忠誠を誓わせていたと聞く。おそらくは強力な能力を与える代わりに、絶対的な服従権を有されていたのだろう。だからヴェロストの命令は絶対であり、誰も立ち向かうことなんてできなかった。


 だとしても、クルガがボクを地下牢で監督していたことは事実であり、そこにクルガの意思が介在していたかなんて今となっては確認することなんてできない。けど、クルガの戦いぶりを見るに全力ではなかったようだ。もちろん9割の力は出していたとは思うが、まだできることはあったはずだ。それを加味すると、やっぱりクルガはまだ人間らしい優しさというものを持っていたのかもしれない。


「まあ…ボクの敵であることに変わりはないんだけどね」


 ボクの敵は人間。そこに善悪なんてものは介在しない。だってこの世界で善悪を分け隔てているのは、種というただ1つの事柄なんだから。


 


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