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殺したい男

「……そろそろティアたちの方に行くか」


 なんだかんだ数キロ離れているから戻るのに少し時間がかかる。


「ティアー……」


 ボクの視界に入ってきたのは結界内で9人が未だ戦っていること。ティアとミーナ、どちらも生きている。だが2人ともかなり損耗が激しい。対して人間側は3人が重症だが残り4人はかなりピンピンしてる。


「ティア!大丈夫?何があったの、早急に教えて」


「どうしたも何も、あいつら単純に強いのよ。幸いまだ致命傷はもらってないけど……」


 ティアに回復魔法をかけてなんとか再起を図る。


「ティアとミーナは回復に専念してて。ボクがなんとかして見せるから」


 そう言ってボクは残っている人間たちに目をやる。


「⁉︎なんでこいつが…」


 ボクの目には、ボクが最も復讐したい相手が映っていた。背が高く、赤い髪。そしてところどころに傷がある剣士の十二騎士。何より、そのすべてのものに興味のなさそうな瞳。


「おう、魔族の兵士さんよ。あんたのお仲間さんはかなり瀕死のようだぜ」


 ボクが最も会いたいと願い、ボクが魔族に味方することになった大きな原因。


「クルガ…………!」


 メシア王国十二騎士第六席『貴威』のクルガ。ボクの宿敵だ。



「おう、魔族の兵士さんよ。あんたのお仲間さんはかなり瀕死のようだぜ」


「あっそ。それを言うなら君らの勇者君だってもうこの世にはいないようだよ?」


 クルガがボクに挑発を入れてきたのでボクも言い返す。


「あー、そうか…。こりゃまたヴェロスト様に怒られるかなぁ。だが、お前らを始末することができればそれもちゃらっもんだ。…その強さ、幹部だろ?」


「……まあね」


「それはちょうどいい。俺も飽き飽きしてたんだ。そこでへばってる2人よりお前の方が戦い甲斐がありそうだ」


「はは。……クルガ、君はボクをみて何か思わない?」


 顎に手を当ててクルガは考える。


「思い出すも何も、顔が見えなきゃ話にならないだろ」


 ……それもそうか。少し悩んだがボクは幻影魔法を解除する。


「どう?これで思い出さない?」


「………はいはいはい。思い出したぞ!お前だったのか!会うのはいつぶりかなぁ?勇者君」


「お前がその名を言うな!」


 ボクはフロレントでクルガに斬りかかる。


「なに?!」


 ボクの剣はクルガにひょいと片手で止められた。


「おいおいおい。そのぐらいで本気とか冗談はよしてくれよ?」


「うるさい」

 

 ボクはクルガの手を振り払い距離をとる。


「それにしても、あんなにちっちゃくて弱者だったお前が今や魔王軍の幹部かよ。魔王軍も落ちぶれたもんだな」


「…黙れ」


「なあ、お前の後ろにいる2人は知ってんのか?お前が過去俺に屈していたってことをよぉ」


「……黙れ」


「お前は地面に這いつくばることしかできなかった敗者だ。そして敗者は一生勝者にいいように扱われるしかねえんだよ!」


「黙れっ!!!」


 ボクはステータスを最大解放し、その反動で結界内の地形に影響を与える。


「おお。ステータス面では俺を上回ったんじゃねえか?そのぐらいだとな」


 ボクはクルガと剣を交える。しかしそれも一瞬の出来事として終わる。クルガがボクの剣を受け流したのだ。隙ができてしまったボクの背中にクルガは剣の柄をぶつける。背骨には大きな衝撃が走るがまだ急所には当たっていなかったようでかろうじて動く。


「流石に、お前ほどの筋力の持ち主を真正面から受け止めるのは俺だってしたくない」


「<爆発>(エクスプロージョン)!」


「おおっと危ない。なんだ、お前魔法も使えたのか」


「剣技<擾桜>」


 幾千もの突きがクルガを襲う。だがクルガは全てをわかっているかのようにかわしていく。 


 何故当たらないんだ!


 一旦距離をとり、上った血を抑えるように冷静に状況を分析する。


 ボクの剣や魔法はスピードもそこそこ出ていて、一発も当たらないようなものではない。だけど完全動きが読まれているかのようにかわされる。なぜだ。何か、何かボクの攻撃が当たらない原因はないのか?

 思考を巡らせると、1つの可能性が頭によぎる。


「神武…?」


 ボクが攻撃する直前、クルガは常に左手を自身の目に持っていく。この行為が仮になんらかの意味を持つとしたら。それが神武を発動させるきっかけだったら?ボクがするべき行動は1つだ。


ボクは再度フロレントを構え、クルガへと向かう。けれどそれは何の変哲もない剣だ。ただクルガの目を狙い、進んでいくだけ。なので予想通りクルガは避けたが、こいつが油断した瞬間にナイフでクルガの左手を吹き飛ばす。目の近くに持っていっていた左手は、反動で避けることはできなかった。


 間一髪でクルガは避けた…‥ように思えたが、手の甲から先は切断された。指は各々が飛び散り、手からは血が止まらなくなっている。


「ああっ……ああ!いってえな!なにすんだよテメエ」


「なにって、お前の左手を切っただけだけど」


 まあ痛いだろうけど、クルガは右利きだから剣を持てないわけではないはずだ。


「確かに痛えが左手ぐらい安いもんだ。それよりも、俺はお前が強くなっていたことに驚きだぜ。あんなに弱かったお前が、俺と張り合えるぐらいにまで成長した。俺は純粋に嬉しいぜ。仮にも俺は強者との戦いを求める戦闘狂だからな。


「あっそ。でもその左手は致命傷なんじゃないの?それだと戦いを楽しむなんて余裕はなさそうだけど」


「ああ?別に治せるぞ」


 そう言ってクルガは左手を目の部分に当てて力をこめる素振りをすると、切ったはずの指の断面からまた指が生えてきた。


「きも。メキメキ生えてくるのがまた嫌だな」


「そんな反応すんなよ。これでも神武の特性のおかげなんだぜ?」


「でしょうね。お前は決して治癒魔法とかが得意なわけではない。じゃあ神武の効果によるおこぼれでしょ」


「お前が何と言おうと俺は気にしねえ。神武のおこぼれだろうが、これは俺に与えられた物。自らの実力で得たものだから実質俺の能力の範疇だ」


「どうでもいい。ボクはお前を殺すだけだ」


「じゃあ来いよ。これでお互い神武の特性は把握しただろ?」


 こいつはもちろんフロレントのことを知っているはずだ。僕にこの剣を与えた張本人であり監督者だったから。そして勇者ハイバルが持っていた神武のことも。


 ボクもクルガが持っている神武についてはある程度把握した。おそらくそれは時間を操るもの。未来を透視し、自らに起きたことの時間すらも操れる。それはクルガの左手が復活したことが証明している。

 つまり、世界ごと時間を巻き戻すことまではできずとも、自分と未来を見ることができる。そして発動条件は左手で目を触ること。けれどこれは確定条件でなく、ブラフの可能性も考慮して立ち回るべきだ。


「雷魔法<鳴鳴>」


 周囲に轟音を鳴らす雷を放ち、それと共にボクも直接攻撃しにいく。


「この質、お前魔法にも適性があったのか」

 

 そんなクルガのお喋りには耳を貸さず、ただ淡々とクルガを殴っていく。自分の体力が切れるまで、クルガが神武を発動できないほどに。けれどもクルガは防御力にもステータスが長けており、ボクの攻撃力を持っても完全に貫くことはできなかった。


 けれど、体力を削ったのは事実。先ほどの攻撃でクルガは消耗したはずだ。


「はは、強えな。流石は元勇者だぜ。けど俺にはまだまだ及ばないかもな」


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