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護るべきもの

「そんなんじゃボクには一撃も与えられない」


 ボクの手からは先ほど剣を掴んだところから軽く出血していた。その血を手首の返しによって振り払う。


「なんでだ…なんで俺の特性が効いていない⁈!俺には勇者の加護が付いているのに…。なぜお前は俺の剣に触れてもなにも起こらないんだ!」


 なんだなんだ。いきなり喚き始めたぞ。そして口調もさっきの紳士のような喋り方から一転して気品がなくなっている。やっぱり取り繕っていたのかな。


「んー、その勇者の加護って、何を起こすのかな?」


「お前を弱くするものだ。誰もが勝てるぐらい弱体化するはずなのに…。なぜお前には効かない!」


「わかんないけど…。そもそもの発動条件は?」


「そ、そこまでは喋れない」


「もー、もったいぶらずに教えてよ。そうしないと、こうなるよ」


 ボクはおもむろにポケットから人間の目を取り出した。


「ひぃっ!なんだ…これは」


「見てわからない?元十二騎士、ザック君の目玉。綺麗に保存しといたんだー」


「ば、化け物め……」


「もー、そんなこと言わないでよ。酷いなぁ。で、言う気になった?」


「いや、俺はお前を倒して…!ゲボハァッ!」


 突っかかってきたからガラ空きだった鳩尾に膝蹴りをお見舞いする。


「うん。まだ言わない?」


「まだだ……まだ俺は諦めない」


 剣を杖代わりにしてゆっくりと起き上がる。


「しぶといなぁ。あ、そうだ。ここで1つ聞いていいかな。ずっと気になってたんだけど、君も含め勇者とか十二騎士って、なんで人間に味方するの?」


「それは……俺が人間だからだ。人間として生まれたんだから人間に味方する」


「じゃあ仮に君が魔族として生まれてきていたら、君は魔族に味方していた?」


「わからないが、おそらくはそうするな」


「じゃあ、君には人間に味方する信念がないわけだ。人間を守るっていう勇者にかけられる甘い言葉に踊らされて、ただただ人殺しをする使えない人形。言われた通りに敷かれたレールを走るだけの君にはボクに勝つことはできない」


「………」


「もう一度聞くね。なんで君は人間に味方するのかな」


「………それは……。人間に…優しくしてくれた人がいたから」


 優しくしてくれた人、ね。ボクにも魔王軍っていう優しくしてくれた人たちがいた。けれど人間にはいない。もしかしたら、それだけの違いなのかもしれない。守るべきものを守るために戦い、自分の心の中にある信念を信じて殺しを行う。それはどんなに残酷で無慈悲なことなんだろうか。その血まみれに染まった体をみて、ハグをしてくれる人がいるのだろうか。


「やっぱりくだらないな。君は今からボクに殺される。そしたら何になるって言うの?死んでしまったら優しくしてくれた人を守るどころか会うことすら願わないんだよ?」


「そしたら黙って戦争を受け入れればいいっていうのか⁈弱者っていうのはなぁ、這い上がらないといけないんだよ!人間社会ではそれが常識なんだ!弱気は強気に狩られる。それが…それが、人間社会なんだよ……」


「……君の言いたいことはわかるよ」


「何がわかるってんだよ、魔族であるお前に」


「魔族、ね」

 

 そう言ってボクは幻影魔法を解除した。


「ボクもね、小さな小さな村に生まれたんだ。1人の人間として」


 まっすぐとハイバルを見つめる。


「……お前は、人間なのか?」


「うん。ついでに言うなら、ボクは元勇者だ。君の前の代。先代って言えばいいのかな」


「そうか…。だからフロレントを持って……」


「そう言うこと。うん。ここまで話しておいて君を殺すのは惜しいな。君はどうしたい?ボクを殺すか、未来を見てみたいか。君に選ばせてあげるよ」


「……………」


 長い長い沈黙のあと、勇者ハイバルは剣を抜いた。


「俺は、勇者だ。人類の敵となり障壁となるものは排除する。勇者の名に誓って」


「………そう。残念だよ。君がそういう行動をするのはね」


「うぉぉぉおおおおおおお!」


 ボクが言ったその言葉は、彼に届いていただろうか。大きな雄叫びの中、ボクの声を受け取ってくれたのだろうか。


「そう……。ありがとね、ハイバル君」


 ぼとり、と頭が転げ落ちる。ボクの後ろには首のない胴体が横たわっており、ボクの前には生首が転がってきた。


 彼は……勇者ハイバルは信念を持っていた。それは人間らしい、最もな信念だ。黙っているぐらいなら反抗する。ではなぜ彼はそうしなければならなかったのか。それはなんでもないボクら魔王軍のせいだ。


 魔族と人間は長きに渡り殺しを行い、弱きものはその身を守るために、愛する者の命を守るために戦う。その摂理に彼は巻き込まれただけ、ということにしておこう。そこに彼の自由意志はなかった。少なくとも彼は殺しを喜んでするようなサディストではなかった。

 

 ボクとは程遠い話だ。本来守るべきものを自らの手で殺し、自分の復讐という欲求を満たすために人間を殺す。ボクは人の死を、同族の死を愉快に思い楽しんでいる狂人だ。それはこの世界から外れた存在であることを証明するには十分だった。


 人間は皆、本能的に人間を殺してはいけないと思うらしい。仮に法という秩序がなかったとしても人間ならばその本能は共有している。しかし、ボクにはその壁はない。人間を殺したところで何も思わないし、場合によっては快楽だって感じる。しかし、ボクをそういう風に改造したのは他でもない人間だ。死という概念を身近に感じさせ、一度ボクを殺すことでその人間的本能を薄くした。


 その責任は人間が取るべきだ。この世界の理を超えた行為、それはやりすぎに他ならない。


「さてと、ハイバル君が持っていた剣を回収するか。多分だけど、あの剣神武だし」


 勇者ハイバルの死体に近づくとそれは無惨だった。首があった場所からは出血が止まらずドバドバという音さえも聴こえるほどに。ボクは未だ彼に握られている剣を手に取った。


「……この剣、ボクが貰うよ。この剣を持って、君に見せたかった未来を見せてあげる」


 ……綺麗な剣だ。最後まで勇者の使命を果たそうとした彼にピッタリ。


 剣はボクの腰につけておくことにした。フロレントと二刀流になっているけどそこまで邪魔でもないし。それに、この剣の効果はなんとなく予想はついている。おそらくだけど、相手に絶対的なデバフをかける剣。ハイバル君は露骨にデバフにこだわっていたからそっち系の能力だと思う。発動条件はこの剣が相手に触れること。そういう前提で使っていこう。



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