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新たな勇者


 ボクらが走って魔力反応が大きい方へ行くと、予想通り8人の人間がいた。そして真ん中に1人、豪華な鎧を着けた男がいる。そいつは他の人間に囲まれ厳重な安全対策がはられている。確実に、そいつが勇者だ。


「2人とも、行くよ」


勇者達がいる20メートル先、そこでボクらは立ち止まって声をかける。


「こんにちは、勇者君。そして取り巻きの皆さん。ボクら魔王軍は君らを歓迎するよ。ようこそ、死地へ」


 ボクは事前に考えておいたかっこいいと思う台詞を無事に噛まずに言えたことに満足している。


「勇者様、おそらくですが奴らは魔王軍幹部。気をつけてください」


 取り巻きの1人、おそらくは冒険者、が勇者の前に庇うようにして出る。


「わかりました」


 勇者は端的に返事をした。遠くからではよくわからなかったが近くで見ると結構な好青年顔。けれどその瞳の奥には狂気が備わっていた。


「ティア、ボクが勇者を引き剥がす。引き剥がしたらあれ、やってくれる?」


「分かったわ」


 ボクはティアに指示を出したら剣を抜いて構えを作る。すると両陣営ともに開戦の準備をし、辺りには緊張感が張り詰める。そしてお互いに緊張感を孕んだままボクが初撃を担当する。


「剣技<飛剣>」


 この剣技は対象一体を強烈な力で遠くへ飛ばす技。まさにこういう時で使う技だ


「<転移拒絶>(ディメンションロック)」


 ボクが勇者を吹っ飛ばしたのを確認してティアも魔法を発動する。


 ティアが張ったのは転移阻害結界……ではなく、転移を完全に封じる結界。この魔法は使用者の魔力を半分使用する代わりに発動者本人が許可しない限り転移どころか出ることもできない。つまりこの空間から脱出してボクが吹っ飛ばした勇者を助けることは取り巻きにはできなくなった。


「よし。とりあえず第一盤面はできたね。あとはボクが君を殺して、ティア達に加勢すればオッケーってことだ」


 相対する勇者に言葉を放つ。


「そんなに事がとんとん拍子に進むんでしょうかね、魔王軍幹部『神剣』のラミアさん」


「あれぇ、ボクのこと知ってるの?」


「ニーアさんから聞きましたよ。シタデルにて異常な強さを持つ魔族に出くわしたと。ニーアさんも驚いておられました」


「へぇ、そうなんだ。ところでさ、君はおしゃべりが好き?できたら戦いながらお話がしたいんだけど…って、危な!」


 勇者がいきなりボクに剣を向けてきた。今の一撃は完全にボクを殺しにきてた。


「ええ、もちろんいいですよ。満足するまで話すまであなたが生きていれば、ですが」


 

 勇者と接敵して数分。ボクは今、勇者君と話してみたいって気持ちでここに立っている。理由は単純。なぜ人間に味方するのか。それを人類の盾である勇者に問うてみたいのだ。


「お話しする前に君は名前をなんていうの?勇者なんだから名前ぐらいあるでしょ?」


「勇者ハイバル。それが私の名です。かくいう君も、その顔にかかった幻影魔法を解除してくれないのですか?」


「んー、それは無理かなぁ。でも大丈夫、解いてもいいやってなったら解いてあげる」


「なぜ今解除しないのですか。もしかして、その幻影の下には見せられないほどの醜い姿があるのでしょうか?」


 ニコニコと笑いながらエレガントに言葉を放ってくる。その言葉に含まれた毒は致死量レベル。ボクの心にズキズキと刺さってくる。


「まぁそこはお楽しみってとこかな」


 ボクも剣を抜いて勇者ハイバルに斬りかかる。


「おお、いい反射神経だね」


 意外と余裕をもって躱された。別に遅いものではなかったけどな。


「魔族にお褒めいただき光栄です」


 ボクは再度剣を構えて突撃しにいく。しかしそこで剣と剣が交わり刀身を見せ合う。


「……お前、その剣は……」


 ハイバルの方がボクと距離をとる。


「ん?どうしたの?」


「なぜだ…なぜお前が神断フロレントを持っている⁈その剣は我々勇者が代々受け継いできたものだ!」


「さぁ?」


「理由は問い詰めなくとも明白か。先代の勇者を殺した時に奪ったのだろう。まさか、その剣を魔族が扱えるとはな」


 んー?よくわからない。フロレントって勇者じゃないと扱えないんだっけ?いや、それならボクが今使えているのはおかしいし。


「神断フロレントという剣は自身が認めた主以外扱う事ができない。そしてフロレントは人間が作った神武だ。だから人間以外が使えるとは思っていなかった」


「あっ、そう。へー、そんな秘密が隠されていたんだ。知らなかったや。でもお陰で、こんなに切れ味がいい」


 ボクは地面にフロレントを突き刺し、そのまま上に切り上げる。


「<斬撃範囲拡大>」


 振り上げたフロレントは地面を裂き、勇者が立っていた場所すらも切り取った。しかし勇者はまだ切れていない足場に体を移しその攻撃を回避する。


 その時に生じた隙に漬け込みボクはラッシュをかける。


「剣技<擾桜>」


 ボクの剣技に押され勇者は後退していく。いつしか木にぶつかり馬鹿にできないダメージが勇者の内臓へと響き渡った。


「うーん、50点。ねえ、君ってこんなに弱いの?事前に聞いていた話だとステータスで押してくる好戦的な奴だって聞いてたんだけど」

 

「はは。舐めてもらっては困るな」


 そう言って立ち上がる。


「一応これでも勇者なんだから」


 勇者ハイバルはボクのことを懸命に突き刺そうと攻めてくる。右肩から左膝、バランスを崩したところに胸を裂いてこようとする。しかしその剣を素手でひょいと掴み地面に叩き伏せる。


「たしかに狙いは悪くない。けれどダメだね。構えが全くなってない。型も無茶苦茶、そんなんじゃボクには一撃も与えられないよ」



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