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普通

「……どうしたのさ。ボクだけ残して」


「その…なんだ。今ミアが思っていることを聞いてみたかったんだ。魔王としてではなく、1人の友人として」


「思っていることね。ティアにも同じようなこと聞かれたよ」


「あいつだったら別に驚くようなことでもないな」


「…さてと、今ボクが感じていることか」


 自分の心の内に目を向けると、黒く激しい奔流が渦巻いているのがわかる。それら1つ1つは荒れ狂っていても、心に浮かび上がってくる感情は1つだった。


「……正直に言うと、苦しいかな」


 ティアとの会話の時はどうしても本音で話せなかった。ティアには負担をかけたくないし、ボクのせいで戦場でのパフォーマンスが落ちたりしたら申し訳ない。だから本音を隠して、強がってしまった。けれど今目の前にいるのは魔王様で、ボクが本音で話しても受け止めてくれる器がある。これはボクの経験から断言できる。


「…戦場へ行くのは控えるか?」


「いや、それは大丈夫。でも少しだけ時間が欲しい。ボクの未来について、あなたと話す時間が」


「もちろんだ」


 紅茶を手に取り、少しだけ飲む。


「……ボクは、復讐するためにここに来た。今までの過去を自らの心に宿して、それを動力としてここまでやってきた。4年と8ヶ月、ボクの心の炎は燃え続けた」


「そうだったな」


「けれどももう、ボクを突き動かすものは正直言って残ってないよ…」


 ティアには強がりで魔王軍に残るなんて言っちゃったけど、実際はどうかわからない。それが今のボクの純粋な気持ちだ。復讐の終わり。その後なんて考えられもしない。


 そしてなぜかこの言葉を言った瞬間、ボクの心のダムは決壊し、胸の奥底から感情が湧き出てきた。もう残っていないはずの感情が。


「やっぱりボクはこの人生で、壊れちゃったみたい。もう疲れたし、やる気が起きない。あなたも気づいていたでしょう?ボクの心がすり減っているのを」


「…ああ。お前は魔王軍に加わった時から欠けているものがあった。けれどそれを頑張って埋めようと、笑い、会話して、共に夜を過ごして。その人生を作るピースに、我々はなれたのだろうか」


「もちろん。けど、それでも。ボクはこの世界では異端でどうしようもないんだと、何かある度に感じさせられた。人間を斬るときも、こうして会話するときも、一緒にご飯を食べたり遊んだりしても、どれもこれもボクには完璧にハマらないんだよ……。なんでなの?ねえ?ボクは一体どうすれば良かったんだよ…。どんな選択をすれば、ボクはこの孤独感を味合わずに済んだの?親にも捨てられず、ただの人間の娘として生きられたの?レイ。教えてよ。ボクはこの世界で、どんな意味があるの………」


「……それは、私にもわからない。ごめんな、上手いこと言えずに」


「………。そっか。せめて君には、ボクの価値が分かれば良かったんだけどな。何か価値があると思われたら、この世界に居ようと思たんだけど」





ボクは、後悔をしたくなかった。


人間の言いなりになんてなりたくなかった。


孤独を埋めたかった。


居場所を見つけたかった。


『普通』の娘として生きたかった。




「……せめて君には、ボクの価値が分かれば良かったんだけどな」


 ボクは剣を鞘から抜き、首に当てた。


「ありがとう。また来世で会おう」


 最後の視界には飛び散った無数の赤が映り、それはまるで花火のようにボクを死へと誘った。そして耳元で、「お疲れ様」と言っているようだった。




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