訓練
翌朝。寒さに体を起こされながら起床した。確か今は秋なのにもう毛布が欲しい気温だ。おそらくこの場所が北の方に位置しているのが原因だろう。これで真冬になったら本当に朝起きれない気がする。
朝起きたら最初は適当にご飯を与えられていたが今日は違う……と信じてる。あらかじめ聞いておけば良かったな。
まあいっか。そんなにお腹も減ってないし。
何をしようかと部屋の中をぶらぶらしていたが結局体を動かすことに決めた。
先ほどまでは寒かったが、慣れてきたのと日差しが出てきたので家から出ようと決めたのだ。
そうと決まれば剣を持って出発だ。
確か昨日は訓練場にサラさんの魔法でテレポートしたけど今日は歩いていく。
場所を聞いておいたからね。そんなに遠くないようだし。
訓練場に着くと何人かの人が訓練していたようだったけど、何か見られてる気がする。
「おい、あいつ人間じゃねえのか?」
「あ、たしかにな。なんで人間なんかがここに」
「お前ら知らねえのか?元勇者だよ。半年ぐらい前から噂になってたじゃねえか。魔王様が勇者をこっちに引き込むって告知されてたぞ」
そっか。ボクは人間だからそんなに目立っているのか。いい加減自覚を持たないとな。いつかは馴染みたいものだけど。
というかあの人たちの話を聞く限り結構前からボクを寝返らせるっていう計画はあったみたいだ。少なくとも半年前には。つまりその頃からサタンさんは王都の方に来ていたということか。半年間も正体がバレずにやり遂げるなんてあの人はすごいな。さすが魔王軍幹部のトップだよ。
その後もなんとなく周りの話を拾いつつ剣を振るう。
朝の鍛錬は一番身につく気がする。あくまで気持ちの話だけど。
ふと、持っていた剣を見る。この剣はあの牢獄にいた時代にはなかなか触らせてもらえなかったものだ。本当の剣。切れ味はあの地下牢にあったような錆びている剣と比べるものでもないほどだ。この剣、フロレントっていう名前がついてる。なんでも大昔に作られたかなり強い剣だとか。
実際切れ味は抜群だし、使い勝手もいい。しかしそのせいで訓練では使えなかった。殺傷能力が高すぎて訓練に使わせると死人が出ると言われたから。
かなり不満があったけどその頃のボクは逆らうことは出来なかったし渋々錆びた剣を使っていた。
…‥そう考えると今こうしてこの剣を振るえるのは気持ちがいい。
30分ほど汗を流して気持ちよくなったところで家の方に戻ることにした。半刻というのは運動にしては短いけどそろそろご飯が食べたくなってきたのだ。
別に豪華なものを欲してるのではなくて、単純に栄養が欲しい。なんだかんだ言って昨日の夜は何も食べていないのだから。栄養が足りないと体もうまく保てないからね。
家に戻るとなんかご飯がテーブルに置いてあった。あれ、ボク鍵閉めたよね?なんでおいてあるんだろう。まあいっか。朝ご飯が支給されてるのはいいことだ。なかったら昔みたいに自分で作るとこだったよ。
ちなみに支給された朝ご飯はかなり豪華で栄養があった。サラダとかパンとかスープとか。まさかこんなのが食べられるなんて思わなかった。
朝食をじっくり食べてお腹が満たされたところで扉がノックされた。
「ラミアさん、居ますか?」
この声は……ヴェラさんかな。マジでサラさんと声が似てる。親戚だって言ってたもんな。
「はーい」
そう言いつつ扉を開けると案の定ヴェラさんがいた。
「どうしました?」
「そろそろ朝食も済んだ頃かなと思い呼び出しに来ました。ラミアさんの今後が決定したのでそれを伝えるために魔王城に来ていただきたいのです」
「わかりました。特に必要な物はないですよね」
「別に手ぶらでもいいですけどね」
そう言いながらボクの腰にある剣を見ているヴェラさん。
「なんか腰に何もないと落ち着かないんですよね。なんだろう、体の一部みたいな」
「そうですか。その気持ちはわかります。私も格闘用のこの武器がないと落ち着かないんですよね」
ポケットから何か鉄の武器を取り出してボクに見せる。
あ、これって手にはめて殺傷能力を上げる物だよね?なんだっけ?メリケンサックっていうんだっけ。なんでこんなもん持ち歩いてるの、この人。いや、人のこと言えないか。ボクも剣を持ってるし。
「少し話がそれましたね。えっと、とりあえず行きましょう」
「はーい」
※※※
もう3回目の呼び出し。これからもっとあるんだろう。
「勇者もといラミア君の今後のことが決まったので話しておこうと思う」
「はい」
「これからある程度力がつくまで訓練してもらうことになった。具体的には剣術はヒリアに任せることにした。そして魔法はサラに。その他諸々は他の面々が担当することに決まったからそのつもりで」
ヒリアさん。昨日聞いたように魔王軍准幹部の方だ。剣を教えてくれるのかー。かなり強いと聞いているから頑張ってついていこう。
そしてサラさん。あの人はなんかヤバいものを抱えている気がするのはボクだけなのだろうか。
というか、訓練といってもどのぐらいの期間なのだろうか。……でもまあいっか。強くなる期間は長ければ長いほどいいしね。
「ラミア君。少し話があるんだがいいか?」
「なんでしょう」
「あのな、少し言いにくいのだが。同じように訓練をする者がいてな。そいつと一緒になるのは嫌か?」
ボク以外にもう1人(魔王様の口ぶりからして多分1人)教育をしたい人がいると。なるほどね。おそらくボクが1人で修行したいと思っていたのか気をつかってくれたんだと思う。
「別に構わないですけど。ライバルがいると燃えますし」
「そうか。ならよかった。今日の午後から早速訓練になるからそのつもりで。あ、そいつは魔法だけ受けるから剣術はお前一人だぞ」
あ、そうなんだ。てっきりどっちもやるんだと思ってた。
まあボクにはあまり関係ないからいっか。
「ありがとうございました」
魔王様と話が終わり部屋から退出する。
あ、ご飯どうなってるか聞きそびれた。




