表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

最後のホイッスル

作者: 稲神蘭

第一章 新しい風、加瀬圭輔(かせけいすけ)


2年前、新入生の中にひときわ目立つ存在がいた。背番号10を与えられたその男、加瀬圭輔。彼は入部初日からレギュラーに抜擢された。ボールを持てば誰にも止められないスピードとテクニック。特にそのキック精度は驚異的で、試合のたびに得点を重ねた。


僕はその圧倒的な才能に憧れながらも、どこか嫉妬のような感情を抱いていた。圭輔は、チームの中心としてのし上がり、自然と仲間たちの信頼を集めていった。一方で、僕はキャプテンでありながら彼に比べて平凡な選手だった。目立つプレーもできず、試合を決定づけるような働きも少ない。


「翔太、もっと声出せよ!」

「お前がチームを引っ張らないと!」


コーチや仲間からかけられるその言葉が、プレッシャーとなり僕の心を押しつぶしていた。


第二章 選択の夏


3年生になり、僕たちは最後のインターハイ予選を迎えていた。1回戦から順調に勝ち進み、準決勝まで進んだ。次に戦うのは県内でも強豪と名高い新城高校。彼らはフィジカルの強さと組織的なディフェンスで知られ、多くのチームが彼らの前に敗れていた。


試合当日、ロッカールームは異様な緊張感に包まれていた。普段は明るくふるまう圭輔も、この日は真剣そのものだ。


「今日勝てば、決勝だ。全国大会に一歩近づく。この試合、絶対に負けられない」

彼がそう言うと、全員が静かにうなずいた。僕も心の中で固く誓った。今日こそは、チームのキャプテンとして役割を果たすのだと。


第三勝 試合開始


キックオフのホイッスルが鳴り、試合が始まった。新城高校は予想通り堅実な守備で、圭輔へのパスを徹底的に遮断してきた。それでも圭輔は粘り強くボールを追い、何度もチャンスを作り出す。


しかし、前半30分、新城高校のカウンターから1点を先制されてしまった。チームの士気が下がりかけたその時、僕は必死に声を張り上げた。


「まだ終わってない!全員で取り返すぞ!」


後半に入ると、僕たちは攻撃に人数をかけた。圭輔が相手ディフェンスをかわし、ゴール前にクロスを上げる。そこに飛び込んだのは僕だった。


「決めろ……!」


渾身のヘディングで放ったシュートは、相手ゴールキーパーの手をすり抜けてネットに突き刺さった。僕が公式戦でゴールを決めるのはこれが初めてだった。


スコアは1-1。このゴールをきっかけに、チームは息を吹き返した。


第四章 運命の延長戦


90分では決着がつかず、試合は延長戦に突入した。体力が限界に近づく中、僕たちは最後の力を振り絞って走り続けた。圭輔も泥まみれになりながら必死にプレーしていた。


延長後半、残り時間はわずか。僕は右サイドでボールを受けた。周囲を見渡すと、ゴール前で手を挙げる圭輔の姿があった。


「ここだ、翔太!」


彼の声に応えるように、僕は全力でクロスを上げた。ボールは美しい弧を描き、ゴール前の圭輔へと届く。彼が渾身のボレーシュートを放つと、ボールはゴールネットを突き破る勢いで飛び込んだ。


「ゴール!」


試合終了のホイッスルが鳴り響く。僕たちは勝った。これで決勝進出が決まったのだ。


第五章 最後の試合


決勝戦の日。僕たちは全国大会の切符をかけて、県内最強の青嶺高校と対戦した。青嶺高校は圧倒的な個人技とチーム力を誇り、全国大会でも常連の強豪だ。


試合は一進一退の攻防を繰り広げたが、前半終了間際に1点を奪われた。後半、僕たちは反撃を試みたが、青嶺高校の鉄壁の守備を崩せない。


残り時間がわずかになった時、圭輔が僕に近づいてきた。


「翔太、最後のチャンスを作るから、お前が決めろ」


僕は驚いた。いつも自分で得点を狙う圭輔が、僕にボールを託すと言うのだ。


「信じてるから」と彼は言った。


試合終了間際、圭輔から絶妙なパスが送られてきた。僕は全力でボールを追い、ゴール前に飛び込んだ。そして右足を振り抜く――。


「……!」


ボールは相手キーパーの手をかすめ、ゴールネットを揺らした。試合は1-1の引き分けで終了し、PK戦へと持ち込まれた。


第六章 歓喜の瞬間


PK戦は緊張感に満ちていた。最後のキッカーは圭輔。彼が冷静にボールをゴールに突き刺した瞬間、試合は終わった。


僕たちは青嶺高校を破り、全国大会への切符を手に入れた。涙を流しながら抱き合う仲間たち。その中心で、圭輔が微笑みながら言った。


「翔太、サッカーは1人じゃできない。お前がいたからここまで来られたよ。キャプテンとして最高だった」


僕はその言葉に胸が熱くなった。全国大会での戦いはまだこれからだが、この瞬間だけは、僕たちの勝利を純粋に喜びたかった。


エピローグ

「サッカーは一人じゃできない」


圭輔の言葉が、今も僕の心に残っている。仲間を信じ、自分を信じてプレーすること。それが僕たちのサッカーだった。

読んでくれてありがとうございます。

今回は恋愛ではなくサッカーという違うジャンルで書いてみました。

僕自身サッカー部でしてこういう展開は授業中とかに何回も妄想してました。


サッカーだけでなくチームスポーツは「1人じゃできない」

というセリフ、これは僕がコーチに言われてサッカーへの考え方が変わったセリフでした。僕にとってとても大切な言葉です。

でもこれからは「できない」ではなく「生きていけない」と変わると僕は思っています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ