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第一の殺人4

花音の新しい一面が見れます。

 次に部屋に入って来たのは、桜田小春四十二歳。派手な印象の女優で、明るい茶髪が印象的だ。劇ではジェイミー役だったか。

「はあ?私を疑っているの?」

 アリバイを聞かれた桜田さんは、目を吊り上げて大声を上げた。

「その時間なら寝てたわよ。当然でしょ?……あ、でも、十一時半頃だったかな。中根さんとスマホのメッセージアプリでチャットしたわよ。今後の打ち合わせの為に。……まあ、そんなんじゃアリバイにならないでしょうけど」


 四谷さんが殺害される動機に心当たりはないか聞かれると、桜田さんは腕組みをして言った。

「そうねえ……中根さんと団長は、劇団の方針を巡ってよく言い争いをしていたけど、殺害までするとは思えないし、よく分からないわ」


 桜田さんが解放され、次に部屋に入って来たのは、中根みのり五十歳。黒髪をアップにした、厳格そうな女性だ。劇ではエリザベス役だった。

「昨夜の十一時から今朝の三時頃ですか?眠れなかったので、自室で近日公演予定の劇の台本を読んでおりました。最も、証人はおりませんが。……桜田さんとチャットしたというのも、アリバイの証明にはなりませんね」

 淡々と答えている。四谷さんが殺害される動機について聞かれると、中根さんは溜息を吐いてから言った。


「……まあ、私にも動機があると言って良いでしょうね。無実ですが」

 中根さんは以前から、劇団の方針について四谷さんと対立していたらしい。中根さんは古典的な演目に力を入れたいと思っていたが、四谷さんはエンターテインメント性の高い若者向けの演目に力を入れようとしていたようだ。


 中根さんが部屋を後にすると、私は腕組みをした。

「時間が時間なだけに、アリバイがあるといえる方は一人もいなかったわね」

「そうだな……地道に捜査しよう。取り敢えず、話を聞くのはあと一人かな」

「え、まだいるの?あの劇団は小規模で、今回このホテルに来ているのは四谷さんや子役を含め六人だけだったんじゃないの?ウィル役の子も事件編の上演の後すぐ保護者と帰っちゃったし」

「四谷さんと接触のあった関係者がもう一人このホテルにいるんだなあ、これが」

 岡崎君がニヤリと笑って言った。花音さんは、ハッとして言った。

「まさか、原作者……」

「そう、例の劇の原作者、小鳥遊亜矢だ」


 部屋に入って来た小鳥遊亜矢は、長い黒髪を緩く束ねた美人だった。二十四歳の彼女は眼鏡を掛けており、オドオドとした様子で岡崎君の質問に答えている。

「あ、あの、私は昨夜の十一時から今朝の三時頃は、部屋で寝ていました。……くしゅん。残念ながら、し、証人はいません……くしゅん」


「大丈夫ですか?」

 岡崎君が聞くと、小鳥遊さんはバツが悪そうに答えた。

「す、すみません。私、猫アレルギーで……。どこかで猫の毛に触れたのかもしれません……」

 岡崎君は、「お大事に」と言うと、質問を続けた。


「四谷さんとは、彼が劇の台本を制作する過程で何度かお会いしているそうですね。劇団員の方ともお話されたとか。何か、四谷さんがトラブルを抱えているとか恨まれているとか、そういった様子は無かったですか?」

「い、いえ。そんな話は……くしゅん。聞いてないです。交流があったとはいえ、劇団員の方についてはよく知らないんです。今回の劇も私は個人で見に来ていまして。人付き合いが苦手なので、打ち上げにも参加していませんし……」

「そうですか……」


 そろそろ岡崎君の質問も終わりそうだ。小鳥遊さんからも有益な情報は得られないか。

 それにしても、このオドオドと話す女性が本当に有名なウェブ作家なのだろうか。花音さんは、小鳥遊さんの大ファンのようだけど。


 そう思って花音さんを見ると、花音さんは目をキラキラと輝かせて小鳥遊さんを見つめていた。やはり相当なファンらしい。


「ご協力ありがとうございました」

「い、いえ。お役に立てず申し訳ございません……くしゅん」

 小鳥遊さんが部屋を出て行こうとすると、花音さんが声を掛けた。

「あ、あの、小鳥遊先生!私、小鳥遊先生の大ファンなんです。サインを頂いてもよろしいでしょうか……?」


 花音さんがこんなに大きな声を出すのを初めて聞いた気がする。小鳥遊さんは、一瞬きょとんとした顔をした後、慌てた様子で言った。

「わ、私なんかのサインで良いんですか?わわ、嬉しいです……くしゅん。でも、私書く物を持ってなくて……」

「えっと……これにお願いします」


 花音さんは、自分のバッグからペンとノートを取り出すと、小鳥遊さんに差し出す。小鳥遊さんは真面目な顔でサインすると、花音さんに渡した。

「ありがとうございます……」

 花音さんは、微笑んで礼を言った。

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